関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。
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どうも皆様お久しぶり、関ヶ原です。
最近めっきり寒くなり、皆様風邪などは引いてないでしょうか?
卒業論文やイラストや、その他もろもろで忙しくなり、なかなか更新できず大変申し訳ございません。
今回投稿する小説も、今となっては季節はずれの夏のお話です。
携帯ページの方でリクエストを頂いたものを書かせていただいた、あやさきけのお話でございます。
本当、投稿が遅れてしまってリクエストされた方には申し訳ない気持ちで一杯なのですが……やっとこさ完成しましたので、投稿します!
最近文章を書くことから離れていたので見苦しい点かなりあると思います。
ですが、最後まで読んでいただければ幸いでございます。
ではどうぞ~。
最近めっきり寒くなり、皆様風邪などは引いてないでしょうか?
卒業論文やイラストや、その他もろもろで忙しくなり、なかなか更新できず大変申し訳ございません。
今回投稿する小説も、今となっては季節はずれの夏のお話です。
携帯ページの方でリクエストを頂いたものを書かせていただいた、あやさきけのお話でございます。
本当、投稿が遅れてしまってリクエストされた方には申し訳ない気持ちで一杯なのですが……やっとこさ完成しましたので、投稿します!
最近文章を書くことから離れていたので見苦しい点かなりあると思います。
ですが、最後まで読んでいただければ幸いでございます。
ではどうぞ~。
梅雨の時期が明け、季節は夏へ移り変わった。
街路に植えられた木々は青々と茂り、強い日差しに元気に照らされている。
そんな中、綾崎家の面子はというと。
「うーみーだあああああああ!!!!」
眼前は、見渡す限りの青、蒼、碧。
こちらも太陽の光に照らされ、宝石のようにキラキラと輝いている。
その広大な青の前に立ち、大きく手を広げているのは綾崎家の一人娘、アイカである。
「いいいいいいやっほおおおおおおおおおおおう!!!!」
そう、綾崎家の面々は今、海に来ていた。
『海水浴へ行こう』
事の発端は、アイカであった。
「海に行きたい」
「はい?」
アイカの通う学校も夏休みに入り、数日が経過していた時のこと。
リビングで宿題をしていたアイカが、ペンを置いた第一声がそれだった。
「またいきなり何を言うのアンタは」
傍らで勉強を見ていたヒナギクが、呆れた表情を浮かべる。
またいつもの、突拍子も無いことを言う癖がでたのか。
表情はそう語っていた。
「うーみー」
「はいはい分かった。ハヤテに言っておくからまずは宿題済ませなさい」
流石に長年アイカの母親をやっているだけあって、ヒナギクもこの悪癖は良く理解していた。
一度言い出したら中々諦めない。ダメと言えば言うほど、食い下がってくる諦めの悪さ。
だから、こうして一応取り合っておいた方が後々楽なのである。
「本当!? やーりぃ!」
ヒナギクの返事に、アイカは目を輝かせる。
「約束! 嘘ついたらパパの寝込み襲っちゃうんだからね!」
「分かったわよ……」
「よーし、じゃあ再開だァーー!!」
お天道さまも顔負けなくらいの空色の瞳を輝かせながら、アイカは再びペンをとって宿題を始めた。
「はあ……ハヤテ、休みとれるかしら……?」
そんな娘の姿を横目にしつつ、ヒナギクは深い溜息をついた。
諦めの悪い。負けず嫌い。
アイカのこのあたりの性格は、おそらく自分から引き継がれたものであろう。
ならばこの悪癖も、元を辿れば自分が悪い……?
そう思えば思うほど、ヒナギクは自身の性格を見つめなおしておくべきだったのかと思うのであった。
…
で、現在に至る。
「まさか翌日休みが貰えるとは思わなかったわ……」
「ははは」
「しかも一泊二日の旅行なんて……」
雄叫びに近い喜声をあげる娘の後ろで、ヒナギクはそう呟いていた。
その後ハヤテに相談をしてみたところ、返ってきた返事は「OK」の一言。
聞いてみればその休みが翌日だというので、水着を用意し、弁当の下準備をし、電車の時刻を調べ、etc...。
「もう……急なんだから」
「まあでも、アイカも喜んでるみたいだし、良かったんじゃないかな」
「……まあね」
慌ただしくはなったものの、娘の笑顔が見られたと思えば、些細なことなのかもしれない。
「……自己完結は大いに結構なんだがな」
自分の中で納得し、ウンウンと頷いていたヒナギクの背後から、恨めしい声が聞こえてきた。
「お嬢様」「ナギ」
二人が振り返れば、そこにはジト目で綾崎家を睨む三千院家の主の姿があった。
「だからといって、どうして私まで連れて来られてるのだ!?」
「どうしてって……ナギを連れて行けってお願いしたのは、マリアさんなのだけど……」
「『引きこもりのナギをどうかお願いします』と言われてますので……」
そう。実はナギがこの場にいることには理由があった。
今回綾崎家は一泊二日の小旅行に出かけているのだが、宿泊先がこのナギの別荘なのである。
マリアへ暇の連絡を入れたところ、ナギを同行させてくれるのであれば別荘を自由に使っても良いとのことだったので、お言葉に甘えることにしたのだった。
もっとも、知らぬ間に勝手に予定を立てられた主人は不満顔だったが。
「どうして電話なんかしてきたのだ! 今日は最近発売されたゲームをしようと決めていたのに!」
「いや……一応雇い主なんですから、連絡は必要かと」
「休みなんだからどう過ごそうがそっちの勝手ではないか! それを律儀に電話なんぞ……!」
おそらくマリアはこれを見越して、ナギの同行を自分たちに頼んだのだろう。
しかしお陰で日帰りが一泊二日の小旅行になったのだから、こちらとしても嬉しい。
「まあまあ、ちょっとしたバカンスだと思って」
「そうそう」
「思えるか! 一樹も、笑ってないで何か言ってやったらどうだ!」
ハヤテとヒナギクが宥めるが、ナギの不満は解消されないらしい。
相変わらず不機嫌な表情のまま、同行してきた一樹に意見を求める。
――が、笑顔で返ってきた言葉は。
「水着、大変お似合いですよ。ナギお嬢様」
「な……ッ!?」
一樹の言葉に、ナギの顔は真っ赤になった。
「な、何を言っているのだこのバカ!」
「何をって……正直な感想ですけど」
「ナギお嬢様の扱い方にも慣れてきたみたいだね、一樹」
「お陰様で」
「というかちゃっかり水着来ているあたり、本当は楽しみにしてたんじゃない」
「ウガーーーー!!!!!!」
ヒナギクの一言が決め手になったのか、ナギは一際大きな声で喚いた。
「はあ……」
「落ち着いた?」
「うっさい」
短い時間喚いてその後、とうとう折れたのか、ナギはガックシと肩を落とした。
「分かったよ……遊べばいいんだろう? 遊べば」
「ひゃっほおおおおおい!! 遊ぼうよナギ姉ちゃあああああああああああああああん!!!!」
「うっさい! 叫びながら準備体操してるんじゃない! シュールなんだよさっきから!!」
…
Case1. 海
「ところでお嬢様」
「……なんだよ」
「お嬢様は泳げるようになっていたんでしたっけ?」
「失礼な! こっちだってもう二十歳超えてるのだぞ!?」
「じゃあ、泳げるんですか?」
「………………」
「………………」
「一樹ー」
「はーい。何ですか執事長?」
「ナギお嬢様に泳ぎ教えてくれー」
「わかりましたー」
「なっ!? 何を言っているハヤテ! 私は泳げると言ってーー」
「はいはい。分かりましたから。さあ行きましょうナギお嬢様」
「だから! ちょ、きゅ、急に手を握るな一樹! ひゃ!? こら、どこを触っている!?」
「ははは……」
「採ったゲロ~~~!!!!」
「ちょっとアイカ!? その手に持ってる魚何!?」
「え? 知らない」
「リリース! キャッチアンドリリース!!」
Case2. スイカ割り
「はい、じゃあスイカ割りしようか」
「はいはい! 私最初が良い!」
「じゃあアイカが一番だね。距離は……そうだな。あそこの貝殻のあたりまでで良いかな」
「それで良いと思うわよ」
「よし。じゃあスイカを置いてくるから、その間に目隠しよろしくね」
「分かったわ。あ、ハヤテ! 棒は!?」
「あ! ……忘れてきた」
「えぇ!? じゃあじゃあ、スイカ割り出来ないの……?」
「うーん……ちょうど良い棒が落ちてれば良いんだけどなあ……」
「あ、ちょっと待ってハヤテ。それなら」
「何か良い案でも浮かんだの?」
「ええ」
(スゥ)←深呼吸
「正宗ーー!!!!」
「鷺ノ宮家の家宝をこんなことで使うんじゃない!!」
「…………」
「あの…………ナギお嬢様?」
「…………」
「まさか疲れたとかないですよね? 全然泳いでなかったと思うんですけれど」
「……返事がない。ただの屍のようだ」
「返事してるじゃないですか」
…
「ぷはっ! あはは! 海は良いねェ! リ○ンが生み出した文化の極みだよォーー!」
海面へと顔を出したアイカが、楽しそうに叫ぶ。
「別に海は文化の極みじゃないと思うんだけど……」
「いいんだよママ! こういうのはノリなの!」
「はあ……?」
「キーボードのKとL見てみ?」
「は?」
「エーーイ☆」
意味の分からないことを発しながら、アイカは再び海中へ。
その背中を目で追いながら、ヒナギクはふう、と一つ息を吐いた。
「本当に楽しそうねえ……」
「そうだねえ」
「きゃっ」
突然背後から声がして、ヒナギクは小さく声をあげる。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはハヤテの顔があった。
「や」
「び、びっくりさせないでよハヤテ」
「ごめんごめん」
あはは、と苦笑いを浮かべながら、ハヤテはヒナギクの隣へ移動した。
二人並んで、アイカを眺める形になる。
「それにしても、楽しそうねえ……」
「そうだね」
ナギや一樹と楽しそうに遊ぶアイカの姿は、本当に微笑ましい。
笑顔の愛娘を見ていると、こちらの顔も自然と緩んでくる。
「溜まってたんだろうね、色々と」
「そうねぇ……そういえばここ最近、どこにも連れて行ってなかったっけ?」
「休みがね……ははは」
ここ最近のことを思い出し、夫婦揃って苦笑いを浮かべる。
ハヤテの仕事が落ち着かず、休日も家で過ごす事が多くなっていただけに、アイカにとって今回の小旅行というのは本当に楽しいものであるのだろう。
聞かずとも、顔を見れば一目瞭然である。
「うん、まあハヤテに相談して正解だった、かな?」
「丁度良いタイミングだったね」
ハヤテの事情も考えて、内心相談することを渋っていたヒナギクではあったが、結果が良い方向に転んでくれて本当に良かった。
「仕事もようやく一段落したから、これからは今まで通りに休みを貰えると思うよ」
「え、本当なの?」
「うん」
ヒナギクの肩にポン、と手を置きながら、ハヤテが言う。
「マリアさん直々にお達しがあったからね。間違いないよ」
「そう……良かった」
ハヤテはハヤテで働き詰めだったので、体調を崩さないか心配していたのだ。
アイカだけでなく、ハヤテにとってもこれは良いリフレッシュになるだろう。
抱えていた心配もどうやら杞憂に終わるようで、ここでようやくヒナギクは、胸を撫で下ろしたのだった。
「アイカにもツマラナイ想いをさせていたからね、これからはなるべく遊ぼうと思うよ」
「そうね。でも程々にね?」
「ん?」
ヒナギクの言葉に、ハヤテは頭に疑問符を浮かべるが、
「子供の体力って、思っているよりずっとあるんだから」
「……あはは。覚悟しておくよ」
「……ふふっ」
「……ははっ」
その意味を理解して、互いに吹き出した。
「た、溜まってるだろうなぁアイカ」
「そりゃもう、溜りに溜まって大噴火よ~?」
「あ、あはは……」
「頑張ってくださいね? パパ」
「が、頑張ります」
両親二人がそんなやりとりをしていると、話題の中心であるアイカが、海岸から大きく手を振りながらハヤテたちを呼んだ。
「パパ、ママ! こっちにきて一緒に遊ぼうよ!!」
最初からフルスロットルで遊んでいるにも関わらず、手を振るその姿は元気の塊そのものだ。
傍らではアイカの相手をしていたはずのナギと一樹が、息を荒くしていた。
ナギはともかく、一樹はここ数年で体力もついて来たと思っていたのだが。
子供一人に大人二人が息切れする光景を目にしたハヤテとヒナギクは思った。
次は自分たちの番か、と。
「…………」
「…………」
「早く早くーーーー!!」
「……行きましょうか」
「……そうだね」
つい先程、娘の遊びに思い切り付き合うと決めたばかりの二人は、
「久しぶりの外出だもの。思い切り付き合いますか」
「アイ、マム」
行くわよ? と目で合図するヒナギクにハヤテは敬礼で返すと、 二人は白い砂浜を蹴りあげて、娘の元へと向かった。
「パパー! ママー!?」
「はいはい! 今行くわよーー!!」
そんなこんなで、綾崎家の夏休み。
燦々と照りつける日差しの下で、彼らの海水浴は第二ラウンドを迎えたのだった。
…
時は夕刻。
昼間のような燦々と照りつける太陽は身をひそめ、今は綺麗な夕日が水面を照らしている。
心ゆくまで海を堪能した綾崎家の面々は今は落ち着き、砂浜にBBQセットを組んで、その周りを囲んでいる。
BBQセット、ということで、本日の夕餉はBBQである。
じゅう、と肉の焼ける音を聞きながら、アイカが手に持っているトングでリズムをとっている。
「おっ肉♪ おっ肉♪」
「野菜も食べなさいよー?」
「わかってるよー。でもまずは肉!」
ムハー、と鼻から出る息は荒い。
肉食系幼女、ここにありである。
「ははは……もう少しで焼けるから」
「この食い意地……母似だな」
「なんですって? ナギ?」
「……ナンデモナイ」
そんな様子を、ビール片手に楽しげに見つけるのは大人たちである。
鼻孔をくすぐる肉の焼ける匂いと、可愛い娘や妹分。
酒の肴には充分すぎる。
だからこそナギやヒナギクの会話にも棘はなく、むしろ楽しげだ。
「ほら、もうそろそろいいよー」
「本当!?」
ハヤテの声に、アイカの目が輝いた。
「よぉぉぉし! 食べるぞ」
「あ! 慌てると危ないよ!?」
ハヤテの横でずっとスタンバっていたアイカが、驚くべき速さでトングを出す。
言葉であらわすのであれば、その速さはまさに疾風の如く。
タレにつけ、熱も冷まさぬうちに口に入れ、はふはふと頬張るその姿はまさに天使。
「う……うまーーい!!」
「そう? それは良かった」
娘の幸せそうな表情を見て、ハヤテの顔も綻ぶ。
「ほら、まだまだ一杯あるから。そんなに慌てないで」
「うん!」
食べ盛りの子供というのはここまで凄いのだろうか。
肉を口に含んでは直ぐに胃の中へ消え、また紙皿には新たな肉が乗せられる。
我が娘ながらその食欲には驚かされる。
「ちょ、ちょっとアイカ……そんなに食べたらお腹壊すでしょ?」
流石に食べ過ぎではないか、とヒナギクが心配して声をかける。
しかしアイカはそれを一蹴。
「肉は別腹!」
「……そ、そうなんだ」
肉を咥えるその目は、完全に獲物を狩るハンターのそれ。
あまりの眼光に、ヒナギクが思わずたじろぐ。
「肉……ふふふ。肉……」
「ね、ねえハヤテ……」
「なんだい?」
「ちょっとアイカ食べ過ぎなんじゃ……」
そろそろ落ち着かせたほうがいいのでは、と笑顔で肉を焼いているハヤテにヒナギクが言うが、
「大丈夫だよ」
ハヤテは変わらぬ笑顔で、新たな肉を網の上に乗せる。
「子供は一杯だべたほうが良いんだよ」
「それは……そうだけど」
腑に落ちない様子のヒナギクの頭を、わしゃ、とハヤテは撫でた。
「大丈夫だから。ね?」
「……もう。分かったわよ」
そんな笑顔で言われたら、納得するしかないじゃない。
拗ねた表情を見せはするものの、乗せられた手を払うことなど出来ない。
「ヒナギクはいい子だねー」
「うるさい。ばか」
悪態をつきながらも、ハヤテの側を決して離れないあたりは流石と言える。
「むー……」
そんな二人の間を、カチカチと音を鳴らしたトングが遮った。
こんなことをやる相手は一人しかいない。
「パパ、ママ! いちゃいちゃしすぎィ!」
「やっぱりアイカね。危ないじゃない」
「娘一人差し置いて、信じられないよ!」
「あら? 私とハヤテはアイカが幸せそうに肉を食べているのを眺めていただけよ?」
「ただ眺めていただけだったらどうしてパパがママの頭撫でるんだコラァ! 肉よこせコラァ!」
カチカチとトングを鳴らしながら喚くアイカに、ヒナギクの頭がカチンと来たようだ。
「コラァ……? ちょっとアイカ。私に向かってその言葉遣いはなんなの……?」
「コラァはコラァだよママァ……! 炭酸じゃないんだよコラァ!」
「知ってるわよ!」
「ちょ、ちょっと二人共……」
肉を焼く炎とは別の炎が綾崎家の間に上がったのを、ナギと一樹は眺めていた。
「相変わらず仲いいなーあいつら」
「ですねえ」
外出出来なかった、とかでここ最近のアイカはどことなくしおらしかったように思えていたのだが、今の様子を見る限りだといつも通りのアイカに、いや、綾崎家に戻ったように感じられる。
渋々連れだされてきた今回の小旅行ではあったが、
「……来て良かったでしょ? ナギお嬢様」
「……うるさい、ばーか」
心の中を言い当てられて、ナギはジト目で傍らの一樹を睨んだ。
「また来ましょうね」
「……ふん。考えてやらんでもないぞ」
そう言って目を逸らしたナギの顔は、少し赤かった。
(全く、また来たいならそう言えば良いのに)
素直じゃないなあ、と一樹は苦笑いを浮かべると、ぽん、と小さな頭に手を乗せたのだった。
…
ガタンゴトン。
電車は揺れる。
揺れに合わせて体が傾くのを感じながら、ハヤテはまわりに目をむける。
ヒナギク、アイカ、ナギ、一樹。
今回の小旅行を存分に楽しんだ面々は、遊び疲れだからだろうか、皆座席に身体を預けて気持ちよく眠っている。
「こうしてみると……皆子供みたいだなあ」
試しに傍らのヒナギクの頬をつついてみると、「ううん」という呟きとともに、煩そうにその指をどかされた。
そんな妻の子供っぽい反応に小さく噴出しつつ、ハヤテは旅行に来たことを改めて良かったと思う。
忙しかったせいもあるが、ここ最近は家族の時間というのものを設けてあげられなかったことをハヤテ自身後悔していた。
もちろんハヤテもそのことは分かっていたし、アイカが不満を抱いていたこともヒナギクに聞かされていた。
故に、今回旅行の申し出は正直ありがたかったし、旅行へ行くことを快諾してくれたマリアには改めて礼を言わなければならない。
それだけ今回の旅行は有意義で、楽しかった。
真っ白な砂浜を駆け、どこまでも続く青い海を泳ぎ、バーベキューの味に舌鼓を打つ。
ここ最近で最も充実し、楽しかった一日だった。
そんな一日だけの旅行の思い出に浸っていると、
「うーん……」
正面に座るアイカが口を開いた。
寝言であろう。
話す相手もいないので、続く言葉にハヤテは耳を傾けると、
「もう食べられないよぉ……」
「……あはは。夢の中でも食べてるのか」
テンプレのような寝言に、ハヤテは小さく笑ってしまう。
夢の中でもアイカはバーベキューをしているのだろうかと、そんなことを思いながら。
隣のヒナギクを起こさないように静かに席を立ったハヤテは、アイカの傍に寄ってその小さな頭を撫でた。
起きる気配はない。
そのことを確認したハヤテは、撫でる手だけは止めずにアイカの耳元に囁いた。
「また、来ような」
来年また今回のような旅行が出来るかどうかは分からない。
しかし、来年じゃなくても再来年、その先ずっと。
家族や友人たちとともに、こんな風に笑いあえる日々が続いていくためにも、もっと頑張ろう。
皆が静かに寝息を立てる中、ハヤテはそう強く思ったのだった。
がたんごとん。がたんごとん。
電車は走る。
走る電車が出発した駅の向こうでは、彼らが楽しい一夏を過ごした海が、太陽の光に照らされながら、静かに揺れていた。
END
街路に植えられた木々は青々と茂り、強い日差しに元気に照らされている。
そんな中、綾崎家の面子はというと。
「うーみーだあああああああ!!!!」
眼前は、見渡す限りの青、蒼、碧。
こちらも太陽の光に照らされ、宝石のようにキラキラと輝いている。
その広大な青の前に立ち、大きく手を広げているのは綾崎家の一人娘、アイカである。
「いいいいいいやっほおおおおおおおおおおおう!!!!」
そう、綾崎家の面々は今、海に来ていた。
『海水浴へ行こう』
事の発端は、アイカであった。
「海に行きたい」
「はい?」
アイカの通う学校も夏休みに入り、数日が経過していた時のこと。
リビングで宿題をしていたアイカが、ペンを置いた第一声がそれだった。
「またいきなり何を言うのアンタは」
傍らで勉強を見ていたヒナギクが、呆れた表情を浮かべる。
またいつもの、突拍子も無いことを言う癖がでたのか。
表情はそう語っていた。
「うーみー」
「はいはい分かった。ハヤテに言っておくからまずは宿題済ませなさい」
流石に長年アイカの母親をやっているだけあって、ヒナギクもこの悪癖は良く理解していた。
一度言い出したら中々諦めない。ダメと言えば言うほど、食い下がってくる諦めの悪さ。
だから、こうして一応取り合っておいた方が後々楽なのである。
「本当!? やーりぃ!」
ヒナギクの返事に、アイカは目を輝かせる。
「約束! 嘘ついたらパパの寝込み襲っちゃうんだからね!」
「分かったわよ……」
「よーし、じゃあ再開だァーー!!」
お天道さまも顔負けなくらいの空色の瞳を輝かせながら、アイカは再びペンをとって宿題を始めた。
「はあ……ハヤテ、休みとれるかしら……?」
そんな娘の姿を横目にしつつ、ヒナギクは深い溜息をついた。
諦めの悪い。負けず嫌い。
アイカのこのあたりの性格は、おそらく自分から引き継がれたものであろう。
ならばこの悪癖も、元を辿れば自分が悪い……?
そう思えば思うほど、ヒナギクは自身の性格を見つめなおしておくべきだったのかと思うのであった。
…
で、現在に至る。
「まさか翌日休みが貰えるとは思わなかったわ……」
「ははは」
「しかも一泊二日の旅行なんて……」
雄叫びに近い喜声をあげる娘の後ろで、ヒナギクはそう呟いていた。
その後ハヤテに相談をしてみたところ、返ってきた返事は「OK」の一言。
聞いてみればその休みが翌日だというので、水着を用意し、弁当の下準備をし、電車の時刻を調べ、etc...。
「もう……急なんだから」
「まあでも、アイカも喜んでるみたいだし、良かったんじゃないかな」
「……まあね」
慌ただしくはなったものの、娘の笑顔が見られたと思えば、些細なことなのかもしれない。
「……自己完結は大いに結構なんだがな」
自分の中で納得し、ウンウンと頷いていたヒナギクの背後から、恨めしい声が聞こえてきた。
「お嬢様」「ナギ」
二人が振り返れば、そこにはジト目で綾崎家を睨む三千院家の主の姿があった。
「だからといって、どうして私まで連れて来られてるのだ!?」
「どうしてって……ナギを連れて行けってお願いしたのは、マリアさんなのだけど……」
「『引きこもりのナギをどうかお願いします』と言われてますので……」
そう。実はナギがこの場にいることには理由があった。
今回綾崎家は一泊二日の小旅行に出かけているのだが、宿泊先がこのナギの別荘なのである。
マリアへ暇の連絡を入れたところ、ナギを同行させてくれるのであれば別荘を自由に使っても良いとのことだったので、お言葉に甘えることにしたのだった。
もっとも、知らぬ間に勝手に予定を立てられた主人は不満顔だったが。
「どうして電話なんかしてきたのだ! 今日は最近発売されたゲームをしようと決めていたのに!」
「いや……一応雇い主なんですから、連絡は必要かと」
「休みなんだからどう過ごそうがそっちの勝手ではないか! それを律儀に電話なんぞ……!」
おそらくマリアはこれを見越して、ナギの同行を自分たちに頼んだのだろう。
しかしお陰で日帰りが一泊二日の小旅行になったのだから、こちらとしても嬉しい。
「まあまあ、ちょっとしたバカンスだと思って」
「そうそう」
「思えるか! 一樹も、笑ってないで何か言ってやったらどうだ!」
ハヤテとヒナギクが宥めるが、ナギの不満は解消されないらしい。
相変わらず不機嫌な表情のまま、同行してきた一樹に意見を求める。
――が、笑顔で返ってきた言葉は。
「水着、大変お似合いですよ。ナギお嬢様」
「な……ッ!?」
一樹の言葉に、ナギの顔は真っ赤になった。
「な、何を言っているのだこのバカ!」
「何をって……正直な感想ですけど」
「ナギお嬢様の扱い方にも慣れてきたみたいだね、一樹」
「お陰様で」
「というかちゃっかり水着来ているあたり、本当は楽しみにしてたんじゃない」
「ウガーーーー!!!!!!」
ヒナギクの一言が決め手になったのか、ナギは一際大きな声で喚いた。
「はあ……」
「落ち着いた?」
「うっさい」
短い時間喚いてその後、とうとう折れたのか、ナギはガックシと肩を落とした。
「分かったよ……遊べばいいんだろう? 遊べば」
「ひゃっほおおおおおい!! 遊ぼうよナギ姉ちゃあああああああああああああああん!!!!」
「うっさい! 叫びながら準備体操してるんじゃない! シュールなんだよさっきから!!」
…
Case1. 海
「ところでお嬢様」
「……なんだよ」
「お嬢様は泳げるようになっていたんでしたっけ?」
「失礼な! こっちだってもう二十歳超えてるのだぞ!?」
「じゃあ、泳げるんですか?」
「………………」
「………………」
「一樹ー」
「はーい。何ですか執事長?」
「ナギお嬢様に泳ぎ教えてくれー」
「わかりましたー」
「なっ!? 何を言っているハヤテ! 私は泳げると言ってーー」
「はいはい。分かりましたから。さあ行きましょうナギお嬢様」
「だから! ちょ、きゅ、急に手を握るな一樹! ひゃ!? こら、どこを触っている!?」
「ははは……」
「採ったゲロ~~~!!!!」
「ちょっとアイカ!? その手に持ってる魚何!?」
「え? 知らない」
「リリース! キャッチアンドリリース!!」
Case2. スイカ割り
「はい、じゃあスイカ割りしようか」
「はいはい! 私最初が良い!」
「じゃあアイカが一番だね。距離は……そうだな。あそこの貝殻のあたりまでで良いかな」
「それで良いと思うわよ」
「よし。じゃあスイカを置いてくるから、その間に目隠しよろしくね」
「分かったわ。あ、ハヤテ! 棒は!?」
「あ! ……忘れてきた」
「えぇ!? じゃあじゃあ、スイカ割り出来ないの……?」
「うーん……ちょうど良い棒が落ちてれば良いんだけどなあ……」
「あ、ちょっと待ってハヤテ。それなら」
「何か良い案でも浮かんだの?」
「ええ」
(スゥ)←深呼吸
「正宗ーー!!!!」
「鷺ノ宮家の家宝をこんなことで使うんじゃない!!」
「…………」
「あの…………ナギお嬢様?」
「…………」
「まさか疲れたとかないですよね? 全然泳いでなかったと思うんですけれど」
「……返事がない。ただの屍のようだ」
「返事してるじゃないですか」
…
「ぷはっ! あはは! 海は良いねェ! リ○ンが生み出した文化の極みだよォーー!」
海面へと顔を出したアイカが、楽しそうに叫ぶ。
「別に海は文化の極みじゃないと思うんだけど……」
「いいんだよママ! こういうのはノリなの!」
「はあ……?」
「キーボードのKとL見てみ?」
「は?」
「エーーイ☆」
意味の分からないことを発しながら、アイカは再び海中へ。
その背中を目で追いながら、ヒナギクはふう、と一つ息を吐いた。
「本当に楽しそうねえ……」
「そうだねえ」
「きゃっ」
突然背後から声がして、ヒナギクは小さく声をあげる。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはハヤテの顔があった。
「や」
「び、びっくりさせないでよハヤテ」
「ごめんごめん」
あはは、と苦笑いを浮かべながら、ハヤテはヒナギクの隣へ移動した。
二人並んで、アイカを眺める形になる。
「それにしても、楽しそうねえ……」
「そうだね」
ナギや一樹と楽しそうに遊ぶアイカの姿は、本当に微笑ましい。
笑顔の愛娘を見ていると、こちらの顔も自然と緩んでくる。
「溜まってたんだろうね、色々と」
「そうねぇ……そういえばここ最近、どこにも連れて行ってなかったっけ?」
「休みがね……ははは」
ここ最近のことを思い出し、夫婦揃って苦笑いを浮かべる。
ハヤテの仕事が落ち着かず、休日も家で過ごす事が多くなっていただけに、アイカにとって今回の小旅行というのは本当に楽しいものであるのだろう。
聞かずとも、顔を見れば一目瞭然である。
「うん、まあハヤテに相談して正解だった、かな?」
「丁度良いタイミングだったね」
ハヤテの事情も考えて、内心相談することを渋っていたヒナギクではあったが、結果が良い方向に転んでくれて本当に良かった。
「仕事もようやく一段落したから、これからは今まで通りに休みを貰えると思うよ」
「え、本当なの?」
「うん」
ヒナギクの肩にポン、と手を置きながら、ハヤテが言う。
「マリアさん直々にお達しがあったからね。間違いないよ」
「そう……良かった」
ハヤテはハヤテで働き詰めだったので、体調を崩さないか心配していたのだ。
アイカだけでなく、ハヤテにとってもこれは良いリフレッシュになるだろう。
抱えていた心配もどうやら杞憂に終わるようで、ここでようやくヒナギクは、胸を撫で下ろしたのだった。
「アイカにもツマラナイ想いをさせていたからね、これからはなるべく遊ぼうと思うよ」
「そうね。でも程々にね?」
「ん?」
ヒナギクの言葉に、ハヤテは頭に疑問符を浮かべるが、
「子供の体力って、思っているよりずっとあるんだから」
「……あはは。覚悟しておくよ」
「……ふふっ」
「……ははっ」
その意味を理解して、互いに吹き出した。
「た、溜まってるだろうなぁアイカ」
「そりゃもう、溜りに溜まって大噴火よ~?」
「あ、あはは……」
「頑張ってくださいね? パパ」
「が、頑張ります」
両親二人がそんなやりとりをしていると、話題の中心であるアイカが、海岸から大きく手を振りながらハヤテたちを呼んだ。
「パパ、ママ! こっちにきて一緒に遊ぼうよ!!」
最初からフルスロットルで遊んでいるにも関わらず、手を振るその姿は元気の塊そのものだ。
傍らではアイカの相手をしていたはずのナギと一樹が、息を荒くしていた。
ナギはともかく、一樹はここ数年で体力もついて来たと思っていたのだが。
子供一人に大人二人が息切れする光景を目にしたハヤテとヒナギクは思った。
次は自分たちの番か、と。
「…………」
「…………」
「早く早くーーーー!!」
「……行きましょうか」
「……そうだね」
つい先程、娘の遊びに思い切り付き合うと決めたばかりの二人は、
「久しぶりの外出だもの。思い切り付き合いますか」
「アイ、マム」
行くわよ? と目で合図するヒナギクにハヤテは敬礼で返すと、 二人は白い砂浜を蹴りあげて、娘の元へと向かった。
「パパー! ママー!?」
「はいはい! 今行くわよーー!!」
そんなこんなで、綾崎家の夏休み。
燦々と照りつける日差しの下で、彼らの海水浴は第二ラウンドを迎えたのだった。
…
時は夕刻。
昼間のような燦々と照りつける太陽は身をひそめ、今は綺麗な夕日が水面を照らしている。
心ゆくまで海を堪能した綾崎家の面々は今は落ち着き、砂浜にBBQセットを組んで、その周りを囲んでいる。
BBQセット、ということで、本日の夕餉はBBQである。
じゅう、と肉の焼ける音を聞きながら、アイカが手に持っているトングでリズムをとっている。
「おっ肉♪ おっ肉♪」
「野菜も食べなさいよー?」
「わかってるよー。でもまずは肉!」
ムハー、と鼻から出る息は荒い。
肉食系幼女、ここにありである。
「ははは……もう少しで焼けるから」
「この食い意地……母似だな」
「なんですって? ナギ?」
「……ナンデモナイ」
そんな様子を、ビール片手に楽しげに見つけるのは大人たちである。
鼻孔をくすぐる肉の焼ける匂いと、可愛い娘や妹分。
酒の肴には充分すぎる。
だからこそナギやヒナギクの会話にも棘はなく、むしろ楽しげだ。
「ほら、もうそろそろいいよー」
「本当!?」
ハヤテの声に、アイカの目が輝いた。
「よぉぉぉし! 食べるぞ」
「あ! 慌てると危ないよ!?」
ハヤテの横でずっとスタンバっていたアイカが、驚くべき速さでトングを出す。
言葉であらわすのであれば、その速さはまさに疾風の如く。
タレにつけ、熱も冷まさぬうちに口に入れ、はふはふと頬張るその姿はまさに天使。
「う……うまーーい!!」
「そう? それは良かった」
娘の幸せそうな表情を見て、ハヤテの顔も綻ぶ。
「ほら、まだまだ一杯あるから。そんなに慌てないで」
「うん!」
食べ盛りの子供というのはここまで凄いのだろうか。
肉を口に含んでは直ぐに胃の中へ消え、また紙皿には新たな肉が乗せられる。
我が娘ながらその食欲には驚かされる。
「ちょ、ちょっとアイカ……そんなに食べたらお腹壊すでしょ?」
流石に食べ過ぎではないか、とヒナギクが心配して声をかける。
しかしアイカはそれを一蹴。
「肉は別腹!」
「……そ、そうなんだ」
肉を咥えるその目は、完全に獲物を狩るハンターのそれ。
あまりの眼光に、ヒナギクが思わずたじろぐ。
「肉……ふふふ。肉……」
「ね、ねえハヤテ……」
「なんだい?」
「ちょっとアイカ食べ過ぎなんじゃ……」
そろそろ落ち着かせたほうがいいのでは、と笑顔で肉を焼いているハヤテにヒナギクが言うが、
「大丈夫だよ」
ハヤテは変わらぬ笑顔で、新たな肉を網の上に乗せる。
「子供は一杯だべたほうが良いんだよ」
「それは……そうだけど」
腑に落ちない様子のヒナギクの頭を、わしゃ、とハヤテは撫でた。
「大丈夫だから。ね?」
「……もう。分かったわよ」
そんな笑顔で言われたら、納得するしかないじゃない。
拗ねた表情を見せはするものの、乗せられた手を払うことなど出来ない。
「ヒナギクはいい子だねー」
「うるさい。ばか」
悪態をつきながらも、ハヤテの側を決して離れないあたりは流石と言える。
「むー……」
そんな二人の間を、カチカチと音を鳴らしたトングが遮った。
こんなことをやる相手は一人しかいない。
「パパ、ママ! いちゃいちゃしすぎィ!」
「やっぱりアイカね。危ないじゃない」
「娘一人差し置いて、信じられないよ!」
「あら? 私とハヤテはアイカが幸せそうに肉を食べているのを眺めていただけよ?」
「ただ眺めていただけだったらどうしてパパがママの頭撫でるんだコラァ! 肉よこせコラァ!」
カチカチとトングを鳴らしながら喚くアイカに、ヒナギクの頭がカチンと来たようだ。
「コラァ……? ちょっとアイカ。私に向かってその言葉遣いはなんなの……?」
「コラァはコラァだよママァ……! 炭酸じゃないんだよコラァ!」
「知ってるわよ!」
「ちょ、ちょっと二人共……」
肉を焼く炎とは別の炎が綾崎家の間に上がったのを、ナギと一樹は眺めていた。
「相変わらず仲いいなーあいつら」
「ですねえ」
外出出来なかった、とかでここ最近のアイカはどことなくしおらしかったように思えていたのだが、今の様子を見る限りだといつも通りのアイカに、いや、綾崎家に戻ったように感じられる。
渋々連れだされてきた今回の小旅行ではあったが、
「……来て良かったでしょ? ナギお嬢様」
「……うるさい、ばーか」
心の中を言い当てられて、ナギはジト目で傍らの一樹を睨んだ。
「また来ましょうね」
「……ふん。考えてやらんでもないぞ」
そう言って目を逸らしたナギの顔は、少し赤かった。
(全く、また来たいならそう言えば良いのに)
素直じゃないなあ、と一樹は苦笑いを浮かべると、ぽん、と小さな頭に手を乗せたのだった。
…
ガタンゴトン。
電車は揺れる。
揺れに合わせて体が傾くのを感じながら、ハヤテはまわりに目をむける。
ヒナギク、アイカ、ナギ、一樹。
今回の小旅行を存分に楽しんだ面々は、遊び疲れだからだろうか、皆座席に身体を預けて気持ちよく眠っている。
「こうしてみると……皆子供みたいだなあ」
試しに傍らのヒナギクの頬をつついてみると、「ううん」という呟きとともに、煩そうにその指をどかされた。
そんな妻の子供っぽい反応に小さく噴出しつつ、ハヤテは旅行に来たことを改めて良かったと思う。
忙しかったせいもあるが、ここ最近は家族の時間というのものを設けてあげられなかったことをハヤテ自身後悔していた。
もちろんハヤテもそのことは分かっていたし、アイカが不満を抱いていたこともヒナギクに聞かされていた。
故に、今回旅行の申し出は正直ありがたかったし、旅行へ行くことを快諾してくれたマリアには改めて礼を言わなければならない。
それだけ今回の旅行は有意義で、楽しかった。
真っ白な砂浜を駆け、どこまでも続く青い海を泳ぎ、バーベキューの味に舌鼓を打つ。
ここ最近で最も充実し、楽しかった一日だった。
そんな一日だけの旅行の思い出に浸っていると、
「うーん……」
正面に座るアイカが口を開いた。
寝言であろう。
話す相手もいないので、続く言葉にハヤテは耳を傾けると、
「もう食べられないよぉ……」
「……あはは。夢の中でも食べてるのか」
テンプレのような寝言に、ハヤテは小さく笑ってしまう。
夢の中でもアイカはバーベキューをしているのだろうかと、そんなことを思いながら。
隣のヒナギクを起こさないように静かに席を立ったハヤテは、アイカの傍に寄ってその小さな頭を撫でた。
起きる気配はない。
そのことを確認したハヤテは、撫でる手だけは止めずにアイカの耳元に囁いた。
「また、来ような」
来年また今回のような旅行が出来るかどうかは分からない。
しかし、来年じゃなくても再来年、その先ずっと。
家族や友人たちとともに、こんな風に笑いあえる日々が続いていくためにも、もっと頑張ろう。
皆が静かに寝息を立てる中、ハヤテはそう強く思ったのだった。
がたんごとん。がたんごとん。
電車は走る。
走る電車が出発した駅の向こうでは、彼らが楽しい一夏を過ごした海が、太陽の光に照らされながら、静かに揺れていた。
END
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