関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。
過度な期待はしないでください。
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どうも皆様ご無沙汰です。関ヶ原です。
ここ一ヶ月近く更新できず、フォレストの方ではちょっとした混乱があったようで。
でもそれは完全なデマなのでご心配なく。
やめる気なんて一切起きませんので。
大学二年って思ったより自由な時間ないんですね……侮ってました。
まぁそんなわけで久しぶりの更新なんですが、俺としてはちょっとしたリハビリ小説になるんですかね。
なんで所々おかしい部分もあるかもしれませんが、喜んでいただけたら幸いです。
ではどうぞー☆
『雨の日が続くときには』
最近の天気はおかしい。
空は一面鉛色。
窓の向こうは雨一色。
生憎すぎる空模様に、綾崎アイカはため息をつく。
「いつまで続くんだよぉ…」
季節は五月。下旬とは言え、入梅にはまだ早い時期だ。
「本当だね。いつまで降るのかな?」
アイカを膝に乗せたハヤテが、同意する。
ここ数日の天気は今日のような雨オンリー。
朝起きても雨、帰ってきても雨。
次の日目が覚めても、窓に付く水滴が目に入る。
目に入っては、気が滅入る毎日だった。
気温も低く、今日に限ってはとうとう十度を下回った。
「てるてる坊主も効かないし……パパ、何とかしてー」
大好きな父親の膝の上にいるにもかかわらず、アイカのテンションは気温に相成って低い。
外でも中でも遊ぶのが好きなアイカだが、連日の雨にはすっかり参っているようだ。
「うーん……そうしてやりたいのは山々なんだけどね」
そんなアイカの父だからこそアイカの気持ちは痛いように分かるし、ハヤテ自身、雨のせいで庭の手入れも満足に出来ない状態だったので雨にはそろそろ休んでもらたかった。
「僕じゃちょっと役不足かな……」
しかし天候には勝てない。
時の流れに任せるしか出来ないのだ。
「パパー」
「あはは、ごめん、アイカ」
不満げな娘の声に、ハヤテは苦笑で応えることしか出来ない。
気休めにアイカの頭を撫でてはみるが、
「むぅー……」
「(参ったな……)」
大して意味はないようだ。
これが雲ひとつない青空の下でのことだったら、アイカは猫のように膝に頬を摺り寄せてくるはずなのに。
「本当、イヤになるわねこの雨」
ハヤテがそれでもアイカの頭を撫でていると、洗濯籠を手に持ちながらヒナギクが呟いた。
視線を向けると、アイカと同じしかめ面が目に入る。
「こうも雨が続くと、洗濯物が乾かないのよ」
「そうだね……」
「はぁ……今日も部屋干しするしかないか…」
「手伝おうか?」
「今は遠慮するわ。それよりもアイカをお願い」
私よりも参ってるみたいだから、とヒナギクは言って、洗濯物にハンガーを通し始めた。
「……はぁ」
ハヤテの膝の上では、アイカが何度目かわからないため息をついていた。
「お日様が恋しいよぅ……」
「その言葉には激しく同意」
最愛の娘に妻。この二人の気分が落ち込んでいると、家の雰囲気も空模様のようにどんよりと暗くなる。
一週間近く同じ空しか見てないのだからそれも当然だろう、とハヤテは思う。
同時に、大黒柱として何とかしなければ、とも。
アイカやヒナギクだけではない。
この天気にうんざりしていたのは、二人だけではないのだ。
「………よし」
ハヤテは小さく呟くと、アイカをそっと降ろしながら立ち上がった。
「? パパ?」「ハヤテ? どうかしたの?」
急に立ち上がったハヤテを不思議そうに見つめる二人に微笑みながら、ハヤテは言った。
「遊びに行こう」
「「……へ?」」
「だから、外へ買い物でも行こう」
口を開けて固まる二人に、ハヤテは再び言った。
「家でダラダラしてるから気が滅入るんだよ、きっと」
「それは…そうだけど」
「この雨だよ? どうやって買い物いくの?」
「お嬢様にでも車を借りるさ。それよりアイカ、欲しいものとか食べたいものあるかい?」
「え!? 買ってくれるの!?」
「うん。ここのところアイカはずっと我慢してたから、そのご褒美」
ハヤテの言葉に、ようやくアイカの顔に笑顔が戻った。
「やった! それじゃあね、私が欲しいのはね」
「うん」
「勿論パ―――」
「はいストップ」
目を爛々と輝かせたアイカの口に、ヒナギクが手を当てる。
「アイカ、貴女まだそれを言うか」
「何よー。いいじゃん別に、減るもんじゃないし」
「減るのよ! 主に私への愛情とかが!」
「どの口が言うのよ!?」
「おーい……喧嘩は良くないよー」
まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、いつものじゃれあいを始める二人にハヤテは苦笑を浮かべた。
いつものように、騒がしいけれども賑やかな家族の声が聞こえる。
一週間という短い期間それを聞いていなかっただけなのに、随分と久しぶりに耳にする感じがする。
「……全く」
そのことを嬉しく思いながら、ハヤテは窓から鉛色の空を見上げた。
空の色はまだ暗いし、雨も降っている。
しかし。
「だいたいママはいい年して―――!」
「貴女だってもう三年生のくせに―――!」
先ほどのようなどんよりとした空気は、綾崎家には漂っていない。
あるのは喧騒と、何より、温かさ。
「さて、と…。お嬢様に連絡しなくちゃ」
愛しい家族のじゃれあいをBGMに、ハヤテは携帯電話の電話帳を開き始めた。
今からこの家族と出かけるために。
「あ、お嬢様ですか? ハヤテですけど―――」
この天気の中でも、今みたいに賑やかにしていれば晴れるかもしれない。
もしそうなったのなら本当にお天道様というものは気まぐれだなぁと一人可笑しく思いながら、ハヤテは受話器に耳を当てるのだった。
…
余談。
「……これが欲しいの? アイカ」
「うん! 私はこれが欲しい!」
「そう…」
ナギ(の家)に車を借りて出かけた先で。
アイカが欲しいと指差したのは、一冊の本。
「この人の絵、可愛くて好きなんだ!」
「……そうなんだ」
「……ハヤテ、買ってきなさい」
「だね……」
ヒナギクとの攻防の末に辿り着いたアイカの答えは、本。
本といっても薄っぺらい、大き目のサイズの本なのだが。
「はい、アイカ」
「あは♪ ありがとう! パパ、ママ!」
その本を手にとりながらはしゃぐ娘に、両親は何も言えなくなる。
誰が言えよう。アイカが手にしているのが『同人誌』なのだと。
もしかしたら分かっててアイカは頼んだのかもしれない。
しかし欲しいものの一番が『実父』、次が『同人誌』という娘の思考回路に、ハヤテとヒナギクは不安を覚える。
「……ハヤテ」
「何かな」
「……この娘の方向性を正すのと、この天気を変えるの、どっちが難しいのかしらね」
「……それは言わないでおこう」
娘の嬉しそうな姿を遠い目で見つめながら、ハヤテとヒナギクは深い深いため息をついたのだった。
End
ここ一ヶ月近く更新できず、フォレストの方ではちょっとした混乱があったようで。
でもそれは完全なデマなのでご心配なく。
やめる気なんて一切起きませんので。
大学二年って思ったより自由な時間ないんですね……侮ってました。
まぁそんなわけで久しぶりの更新なんですが、俺としてはちょっとしたリハビリ小説になるんですかね。
なんで所々おかしい部分もあるかもしれませんが、喜んでいただけたら幸いです。
ではどうぞー☆
『雨の日が続くときには』
最近の天気はおかしい。
空は一面鉛色。
窓の向こうは雨一色。
生憎すぎる空模様に、綾崎アイカはため息をつく。
「いつまで続くんだよぉ…」
季節は五月。下旬とは言え、入梅にはまだ早い時期だ。
「本当だね。いつまで降るのかな?」
アイカを膝に乗せたハヤテが、同意する。
ここ数日の天気は今日のような雨オンリー。
朝起きても雨、帰ってきても雨。
次の日目が覚めても、窓に付く水滴が目に入る。
目に入っては、気が滅入る毎日だった。
気温も低く、今日に限ってはとうとう十度を下回った。
「てるてる坊主も効かないし……パパ、何とかしてー」
大好きな父親の膝の上にいるにもかかわらず、アイカのテンションは気温に相成って低い。
外でも中でも遊ぶのが好きなアイカだが、連日の雨にはすっかり参っているようだ。
「うーん……そうしてやりたいのは山々なんだけどね」
そんなアイカの父だからこそアイカの気持ちは痛いように分かるし、ハヤテ自身、雨のせいで庭の手入れも満足に出来ない状態だったので雨にはそろそろ休んでもらたかった。
「僕じゃちょっと役不足かな……」
しかし天候には勝てない。
時の流れに任せるしか出来ないのだ。
「パパー」
「あはは、ごめん、アイカ」
不満げな娘の声に、ハヤテは苦笑で応えることしか出来ない。
気休めにアイカの頭を撫でてはみるが、
「むぅー……」
「(参ったな……)」
大して意味はないようだ。
これが雲ひとつない青空の下でのことだったら、アイカは猫のように膝に頬を摺り寄せてくるはずなのに。
「本当、イヤになるわねこの雨」
ハヤテがそれでもアイカの頭を撫でていると、洗濯籠を手に持ちながらヒナギクが呟いた。
視線を向けると、アイカと同じしかめ面が目に入る。
「こうも雨が続くと、洗濯物が乾かないのよ」
「そうだね……」
「はぁ……今日も部屋干しするしかないか…」
「手伝おうか?」
「今は遠慮するわ。それよりもアイカをお願い」
私よりも参ってるみたいだから、とヒナギクは言って、洗濯物にハンガーを通し始めた。
「……はぁ」
ハヤテの膝の上では、アイカが何度目かわからないため息をついていた。
「お日様が恋しいよぅ……」
「その言葉には激しく同意」
最愛の娘に妻。この二人の気分が落ち込んでいると、家の雰囲気も空模様のようにどんよりと暗くなる。
一週間近く同じ空しか見てないのだからそれも当然だろう、とハヤテは思う。
同時に、大黒柱として何とかしなければ、とも。
アイカやヒナギクだけではない。
この天気にうんざりしていたのは、二人だけではないのだ。
「………よし」
ハヤテは小さく呟くと、アイカをそっと降ろしながら立ち上がった。
「? パパ?」「ハヤテ? どうかしたの?」
急に立ち上がったハヤテを不思議そうに見つめる二人に微笑みながら、ハヤテは言った。
「遊びに行こう」
「「……へ?」」
「だから、外へ買い物でも行こう」
口を開けて固まる二人に、ハヤテは再び言った。
「家でダラダラしてるから気が滅入るんだよ、きっと」
「それは…そうだけど」
「この雨だよ? どうやって買い物いくの?」
「お嬢様にでも車を借りるさ。それよりアイカ、欲しいものとか食べたいものあるかい?」
「え!? 買ってくれるの!?」
「うん。ここのところアイカはずっと我慢してたから、そのご褒美」
ハヤテの言葉に、ようやくアイカの顔に笑顔が戻った。
「やった! それじゃあね、私が欲しいのはね」
「うん」
「勿論パ―――」
「はいストップ」
目を爛々と輝かせたアイカの口に、ヒナギクが手を当てる。
「アイカ、貴女まだそれを言うか」
「何よー。いいじゃん別に、減るもんじゃないし」
「減るのよ! 主に私への愛情とかが!」
「どの口が言うのよ!?」
「おーい……喧嘩は良くないよー」
まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、いつものじゃれあいを始める二人にハヤテは苦笑を浮かべた。
いつものように、騒がしいけれども賑やかな家族の声が聞こえる。
一週間という短い期間それを聞いていなかっただけなのに、随分と久しぶりに耳にする感じがする。
「……全く」
そのことを嬉しく思いながら、ハヤテは窓から鉛色の空を見上げた。
空の色はまだ暗いし、雨も降っている。
しかし。
「だいたいママはいい年して―――!」
「貴女だってもう三年生のくせに―――!」
先ほどのようなどんよりとした空気は、綾崎家には漂っていない。
あるのは喧騒と、何より、温かさ。
「さて、と…。お嬢様に連絡しなくちゃ」
愛しい家族のじゃれあいをBGMに、ハヤテは携帯電話の電話帳を開き始めた。
今からこの家族と出かけるために。
「あ、お嬢様ですか? ハヤテですけど―――」
この天気の中でも、今みたいに賑やかにしていれば晴れるかもしれない。
もしそうなったのなら本当にお天道様というものは気まぐれだなぁと一人可笑しく思いながら、ハヤテは受話器に耳を当てるのだった。
…
余談。
「……これが欲しいの? アイカ」
「うん! 私はこれが欲しい!」
「そう…」
ナギ(の家)に車を借りて出かけた先で。
アイカが欲しいと指差したのは、一冊の本。
「この人の絵、可愛くて好きなんだ!」
「……そうなんだ」
「……ハヤテ、買ってきなさい」
「だね……」
ヒナギクとの攻防の末に辿り着いたアイカの答えは、本。
本といっても薄っぺらい、大き目のサイズの本なのだが。
「はい、アイカ」
「あは♪ ありがとう! パパ、ママ!」
その本を手にとりながらはしゃぐ娘に、両親は何も言えなくなる。
誰が言えよう。アイカが手にしているのが『同人誌』なのだと。
もしかしたら分かっててアイカは頼んだのかもしれない。
しかし欲しいものの一番が『実父』、次が『同人誌』という娘の思考回路に、ハヤテとヒナギクは不安を覚える。
「……ハヤテ」
「何かな」
「……この娘の方向性を正すのと、この天気を変えるの、どっちが難しいのかしらね」
「……それは言わないでおこう」
娘の嬉しそうな姿を遠い目で見つめながら、ハヤテとヒナギクは深い深いため息をついたのだった。
End
PR
どうも皆様お久しぶり、関ヶ原です。
最近はバイトに大学に大忙しと、ペンをとる暇がなかったです。
ゴールデンウィーク、バイト先が客で混み合うのを想像するだけでぞっとしています。
GWが終わったら俺、同人誌だすんだ………。
そんな死亡フラグすら立てる勢いです。
でも生きて帰りますよ。
やりたいことは山積みなんですもん。
そんなわけで更新がえらく遅くなるかも知れませんが、皆様これからもお付き合いお願いします。
それでは新作、短いですがどうぞ。
タイトルは『かんしゅん』と読みます。
実際にはそんな言葉ないかもわかりませんが。
それではどうぞ~☆
今年の春は例年と比べて気温が低い。
その事はテレビのニュースでも言っていたし、彼女と歩く街中を見ても分かる。
四月も下旬、四季が春から夏へと引越しの準備を始めてもおかしくない時期だ。にも拘わらず、ホッカイロや手袋といった防寒グッズが大々的に売られている光景には違和感を抱かずにはいられない。
この時期にこんな物が売られる理由など限られている。
冬物処分か、まだ需要があるから売っている、このどちらかだ。
そして、今僕の肌にあたる風の冷たさから、理由は後者なのだと嫌でも分かってしまうのだった。
『寒春』
「―――寒い」
僕と同じ、春の陽気ならぬ寒気を浴びたヒナギクさんが、小さな身震いをしながら呟いた。
「寒いわ、ハヤテ君」
「僕も寒いです」
彼女の言葉には僕も苦笑いで答えるしかない。
僕の傍らで不満げな表情を浮かべる彼女の気持ちが分かるから。
「せっかく久しぶりに出掛けるのに……」
「こうも寒いと、出掛けている気がしませんよね」
白皇学院の入学式も無事に終わり、ヒナギクさんが大量の書類仕事から解放されたのはつい先日のこと。
そんな彼女と久しぶりの外出は、見る機会を逃していた桜を見に、近くの公園に行く予定だ。
「う~……桜、散ってなきゃ良いけど……」
「大丈夫だとは思うのですけれど……」
この寒さにこの風だ。
公園の桜が散っている可能性もゼロではない。
歩いては吹き付ける寒風に、思わず視線が下がる。
本当に散っていたりして、と一抹の不安も覚えた。
「(………あ)」
寒さと小さな不安から逃げるかのように逸らした僕の視覚に、白細長い彼女の指が映った。
手袋もなく、寒気に晒されたままの彼女の両手。
「―――あ」
ヒナギクさんが小さく声を上げる。
彼女の手を見た瞬間に、僕の右手は動いていた。
いや、本来なら始めからこうするべきだった。
「………手、こんなに冷たいじゃないですか」
彼女の手は、この寒気に負けないくらいに冷たかった。
右手越しに伝わる冷たさに、申し訳ない気持ちで一杯になる。
「すいません……」
頭を下げる僕に、彼女は笑みを浮かべた。
「気にしなくていいのよ。だってちゃんと気づいてくれたもの」
鈍々のハヤテ君にしては上出来よ、そう言うヒナギクさんは、僕の体温で熱が戻ってきている左手を少し強引に前に差し出した。
「それより早く行きましょ? 桜が全部散っちゃう前に」
優しげな笑みでそう言われ、僕の顔も自然と綻ぶ。
「………そうですね。花見が枝見になっては、堪ったものじゃないですし」
「あはは。何それ」
ヒナギクさんに手を引かれる形で、僕たちは公園へ向ける足を早めた。
冬の寒さを引きずるような四月の下旬。
それでも繋がれた二人の手は、本来の春の陽気に包まれているかのように暖かかった。
End
最近はバイトに大学に大忙しと、ペンをとる暇がなかったです。
ゴールデンウィーク、バイト先が客で混み合うのを想像するだけでぞっとしています。
GWが終わったら俺、同人誌だすんだ………。
そんな死亡フラグすら立てる勢いです。
でも生きて帰りますよ。
やりたいことは山積みなんですもん。
そんなわけで更新がえらく遅くなるかも知れませんが、皆様これからもお付き合いお願いします。
それでは新作、短いですがどうぞ。
タイトルは『かんしゅん』と読みます。
実際にはそんな言葉ないかもわかりませんが。
それではどうぞ~☆
今年の春は例年と比べて気温が低い。
その事はテレビのニュースでも言っていたし、彼女と歩く街中を見ても分かる。
四月も下旬、四季が春から夏へと引越しの準備を始めてもおかしくない時期だ。にも拘わらず、ホッカイロや手袋といった防寒グッズが大々的に売られている光景には違和感を抱かずにはいられない。
この時期にこんな物が売られる理由など限られている。
冬物処分か、まだ需要があるから売っている、このどちらかだ。
そして、今僕の肌にあたる風の冷たさから、理由は後者なのだと嫌でも分かってしまうのだった。
『寒春』
「―――寒い」
僕と同じ、春の陽気ならぬ寒気を浴びたヒナギクさんが、小さな身震いをしながら呟いた。
「寒いわ、ハヤテ君」
「僕も寒いです」
彼女の言葉には僕も苦笑いで答えるしかない。
僕の傍らで不満げな表情を浮かべる彼女の気持ちが分かるから。
「せっかく久しぶりに出掛けるのに……」
「こうも寒いと、出掛けている気がしませんよね」
白皇学院の入学式も無事に終わり、ヒナギクさんが大量の書類仕事から解放されたのはつい先日のこと。
そんな彼女と久しぶりの外出は、見る機会を逃していた桜を見に、近くの公園に行く予定だ。
「う~……桜、散ってなきゃ良いけど……」
「大丈夫だとは思うのですけれど……」
この寒さにこの風だ。
公園の桜が散っている可能性もゼロではない。
歩いては吹き付ける寒風に、思わず視線が下がる。
本当に散っていたりして、と一抹の不安も覚えた。
「(………あ)」
寒さと小さな不安から逃げるかのように逸らした僕の視覚に、白細長い彼女の指が映った。
手袋もなく、寒気に晒されたままの彼女の両手。
「―――あ」
ヒナギクさんが小さく声を上げる。
彼女の手を見た瞬間に、僕の右手は動いていた。
いや、本来なら始めからこうするべきだった。
「………手、こんなに冷たいじゃないですか」
彼女の手は、この寒気に負けないくらいに冷たかった。
右手越しに伝わる冷たさに、申し訳ない気持ちで一杯になる。
「すいません……」
頭を下げる僕に、彼女は笑みを浮かべた。
「気にしなくていいのよ。だってちゃんと気づいてくれたもの」
鈍々のハヤテ君にしては上出来よ、そう言うヒナギクさんは、僕の体温で熱が戻ってきている左手を少し強引に前に差し出した。
「それより早く行きましょ? 桜が全部散っちゃう前に」
優しげな笑みでそう言われ、僕の顔も自然と綻ぶ。
「………そうですね。花見が枝見になっては、堪ったものじゃないですし」
「あはは。何それ」
ヒナギクさんに手を引かれる形で、僕たちは公園へ向ける足を早めた。
冬の寒さを引きずるような四月の下旬。
それでも繋がれた二人の手は、本来の春の陽気に包まれているかのように暖かかった。
End
どうも皆様関ヶ原です。
記念小説を書く傍ら、ちょいちょいと書いていた短文をアップしますね。
つい先日、俺の通う大学で入学式がありました。
スーツを身にまとう新入生の姿に、一年前の自分を重ねていたりしました。
同時に、一年の流れの速さを実感。
来年からは就活も始まり、小説に費やす時間が一時的に少なくなると思うので、限られた時間でいろいろ書いていきたいなと思います。
まぁあくまで短文というスタンスを崩さずに(笑
それではどうぞ~☆
「ねーねーパパ!」
「ん? 何だい、アイカ」
全国各地では桜の花が開き始め、春の季節がやってきた。
白皇学院へ続く桜並木の中をゆっくりと歩きながら、綾崎ハヤテは愛娘のやや興奮したような声に耳を傾ける。
「なんだか嬉しそうだね」
「うん!」
ハヤテの言葉に、愛娘―――綾崎アイカは笑顔で答えた。
「今日ね、一年生が来たんだよ!」
『早すぎる時の流れの中で』
「そうなんだ。そういえば今日は入学式だったね」
「そうなの! 一年生ね、皆ちっちゃくて可愛いの!」
「そうかそうか」
矢継ぎ早に紡がれるアイカの言葉を、ハヤテは一字一句零さずに聞く。
今日はアイカの通う白皇学院初等部の入学式だった。
白皇学院は現在春休みの真っ只中ではあるが、入学式ということでアイカも登校したのだ。
入学式にアイカ達新三年生が出席する必要があるかどうかは別として、だ。
「私もあんなにちっちゃかったのかなぁ…」
「はは。そうだね、あの頃のアイカも小さくて可愛かったよ」
入学当時のことを思い出そうとしているアイカを見て、ハヤテは小さく笑った。
アイカだって十分小さくて可愛らしい。
現にハヤテの言葉に「そ、そっか…」と照れくさそうに笑うその姿は、十分に愛らしいと言えた。
「しかしそっか…アイカももう三年生なんだよなぁ…」
「うん? そうだけど…それがどうかしたの?」
「いや……時が流れるのはあっという間なんだなぁと思ってね」
「?」
意味が良く分からない、といった表情を浮かべるアイカに今度は苦笑を浮かべつつ、ハヤテは視線を桜へ向ける。
「ママと出会って、アイカが生まれたと思ったのがついこの間のことのように思えるんだよ」
白皇学院の大きな桜の木の下で最愛の人と初めて出会ってから、もう十年が経とうとしている。
その間に結婚し、子供が産まれ、小学校に入学したと思ったらもうその入学から三年目を迎えようとしている。
爺臭い、と思うかも知れないが、ハヤテは時の流れの速さをその身で感じている。
「なんだか良く分からないけど、まぁいいや。それでね、一番前に座ってた女の子がね――――」
自分の傍らで新たに出会う後輩の事を嬉しそうに、楽しそうに話すアイカだって、この間まで着慣れない白皇の制服を着るのに四苦八苦していた。
それが今では見事に着こなしている。
そのことがさらに、ハヤテに年月の経過を感じさせた。
「(……本当にあっという間だなぁ)」
小さな頃は一日一日が長く感じられたというのに。
「―――でね……て、聞いてる? パパ?」
「――っと、ごめんごめんアイカ。ちょっとぼぉっとしてた」
「もうっ。ちゃんと聞いててよね!」
「はは……」
少しばかり感傷的になっていたハヤテを、アイカが可愛らしい叱責をする。
その姿が学生時代のヒナギクのようで、思わずハヤテは笑ってしまった。
「あ、あはは……っ」
「? 何笑ってるのよ、パパ」
「いや、ごめんごめん。本当に何でもないんだ」
「……? なら、いいんだけどさ」
訝し気なアイカの視線を受けながら、ハヤテは「そうだよな」と呟いた。
「(こんな可愛い娘が一緒にいるんだ。時が早く流れないわけないじゃないか)」
楽しい時間ほど過ぎるのが早い、とは俗によく言われている。
ならば、楽しい、愛する家族と過ごす日々が、時間が早く過ぎないわけがないではないか。
愛妻のような愛娘に、愛娘のような愛妻。
幼い頃、自分にはなかった者たちだからこそ、経験したことがないからこそ人一倍時の流れを早く感じているのかもしれない。
「こりゃあ一年もあっという間だなぁ……」
「? だからどういうことなのパパぁ……」
「大人になればきっと分かるよ」
早く流れる時の中で、来年も再来年も、こうして家族と一緒に楽しい時間を過ごせたらいい。
そんなことを胸の中で願いながら、ハヤテは小さなアイカの手を握る。
「さぁ帰ろう。遅くなるとヒナギクに怒られるよ」
「まだ明るいけど……あのママなら、ありえる……っ」
「あはは。ヒナギクの前で言っちゃ駄目だぞー」
小鳥の囀りのような娘の話を耳に入れながら、変わらない桜並木をハヤテは歩く。
その足取りは早い時の流れに逆らうかのように、ゆっくりと優しいものだった。
End
記念小説を書く傍ら、ちょいちょいと書いていた短文をアップしますね。
つい先日、俺の通う大学で入学式がありました。
スーツを身にまとう新入生の姿に、一年前の自分を重ねていたりしました。
同時に、一年の流れの速さを実感。
来年からは就活も始まり、小説に費やす時間が一時的に少なくなると思うので、限られた時間でいろいろ書いていきたいなと思います。
まぁあくまで短文というスタンスを崩さずに(笑
それではどうぞ~☆
「ねーねーパパ!」
「ん? 何だい、アイカ」
全国各地では桜の花が開き始め、春の季節がやってきた。
白皇学院へ続く桜並木の中をゆっくりと歩きながら、綾崎ハヤテは愛娘のやや興奮したような声に耳を傾ける。
「なんだか嬉しそうだね」
「うん!」
ハヤテの言葉に、愛娘―――綾崎アイカは笑顔で答えた。
「今日ね、一年生が来たんだよ!」
『早すぎる時の流れの中で』
「そうなんだ。そういえば今日は入学式だったね」
「そうなの! 一年生ね、皆ちっちゃくて可愛いの!」
「そうかそうか」
矢継ぎ早に紡がれるアイカの言葉を、ハヤテは一字一句零さずに聞く。
今日はアイカの通う白皇学院初等部の入学式だった。
白皇学院は現在春休みの真っ只中ではあるが、入学式ということでアイカも登校したのだ。
入学式にアイカ達新三年生が出席する必要があるかどうかは別として、だ。
「私もあんなにちっちゃかったのかなぁ…」
「はは。そうだね、あの頃のアイカも小さくて可愛かったよ」
入学当時のことを思い出そうとしているアイカを見て、ハヤテは小さく笑った。
アイカだって十分小さくて可愛らしい。
現にハヤテの言葉に「そ、そっか…」と照れくさそうに笑うその姿は、十分に愛らしいと言えた。
「しかしそっか…アイカももう三年生なんだよなぁ…」
「うん? そうだけど…それがどうかしたの?」
「いや……時が流れるのはあっという間なんだなぁと思ってね」
「?」
意味が良く分からない、といった表情を浮かべるアイカに今度は苦笑を浮かべつつ、ハヤテは視線を桜へ向ける。
「ママと出会って、アイカが生まれたと思ったのがついこの間のことのように思えるんだよ」
白皇学院の大きな桜の木の下で最愛の人と初めて出会ってから、もう十年が経とうとしている。
その間に結婚し、子供が産まれ、小学校に入学したと思ったらもうその入学から三年目を迎えようとしている。
爺臭い、と思うかも知れないが、ハヤテは時の流れの速さをその身で感じている。
「なんだか良く分からないけど、まぁいいや。それでね、一番前に座ってた女の子がね――――」
自分の傍らで新たに出会う後輩の事を嬉しそうに、楽しそうに話すアイカだって、この間まで着慣れない白皇の制服を着るのに四苦八苦していた。
それが今では見事に着こなしている。
そのことがさらに、ハヤテに年月の経過を感じさせた。
「(……本当にあっという間だなぁ)」
小さな頃は一日一日が長く感じられたというのに。
「―――でね……て、聞いてる? パパ?」
「――っと、ごめんごめんアイカ。ちょっとぼぉっとしてた」
「もうっ。ちゃんと聞いててよね!」
「はは……」
少しばかり感傷的になっていたハヤテを、アイカが可愛らしい叱責をする。
その姿が学生時代のヒナギクのようで、思わずハヤテは笑ってしまった。
「あ、あはは……っ」
「? 何笑ってるのよ、パパ」
「いや、ごめんごめん。本当に何でもないんだ」
「……? なら、いいんだけどさ」
訝し気なアイカの視線を受けながら、ハヤテは「そうだよな」と呟いた。
「(こんな可愛い娘が一緒にいるんだ。時が早く流れないわけないじゃないか)」
楽しい時間ほど過ぎるのが早い、とは俗によく言われている。
ならば、楽しい、愛する家族と過ごす日々が、時間が早く過ぎないわけがないではないか。
愛妻のような愛娘に、愛娘のような愛妻。
幼い頃、自分にはなかった者たちだからこそ、経験したことがないからこそ人一倍時の流れを早く感じているのかもしれない。
「こりゃあ一年もあっという間だなぁ……」
「? だからどういうことなのパパぁ……」
「大人になればきっと分かるよ」
早く流れる時の中で、来年も再来年も、こうして家族と一緒に楽しい時間を過ごせたらいい。
そんなことを胸の中で願いながら、ハヤテは小さなアイカの手を握る。
「さぁ帰ろう。遅くなるとヒナギクに怒られるよ」
「まだ明るいけど……あのママなら、ありえる……っ」
「あはは。ヒナギクの前で言っちゃ駄目だぞー」
小鳥の囀りのような娘の話を耳に入れながら、変わらない桜並木をハヤテは歩く。
その足取りは早い時の流れに逆らうかのように、ゆっくりと優しいものだった。
End
どうもご無沙汰、関ヶ原です。
原作のほうもアテネ編が後少しで終わるということもあり、アーたんの使い所も考えられるようになってきました。
いつ登場するのか、我等がアーたん。
ヒナギクとどう絡ませようか、と内心ワクワクでございます。
本編であまり絡んでいない二人ですから、これからが楽しみです。
さて、実はさりげなくフォレストページの方ではヒナ魔が更新されていたりします。
いつぶりだろうか……。
不定期更新なだけに更新すると謎の達成感。
今までよりページ数が少なめに思われますが、文量は恐らく今までよりも長めのはずです。
三点リーダで区切ってみると意外とページは少なかったのですけれど。
フォレストのサイトも四十万の大台に乗り、俺も嬉しいです。
これも皆様のおかげ、これからもよろしくお願いします。
原作のアテネ編が終わったら、四十万ヒットの記念小説を書き始めたいと思います。
折角なんで長めにかければ良いな、と思ってます。
なので時間があるときにGoogle等でネタを調べないと……。
どこかにイギリスの大学の事が詳しく乗ってるサイトとかないかなぁ。
探してるんですが中々なくて……。
見つかれば綾崎夫妻の留学時代の話でも書けると思うんですけど(汗
ま! 書けないかもしれないけど!!(笑)
まぁこんなところですね、近況は。
もうすぐ大学の新学期が始まってしまう……。
うあーだるいー。
原作のほうもアテネ編が後少しで終わるということもあり、アーたんの使い所も考えられるようになってきました。
いつ登場するのか、我等がアーたん。
ヒナギクとどう絡ませようか、と内心ワクワクでございます。
本編であまり絡んでいない二人ですから、これからが楽しみです。
さて、実はさりげなくフォレストページの方ではヒナ魔が更新されていたりします。
いつぶりだろうか……。
不定期更新なだけに更新すると謎の達成感。
今までよりページ数が少なめに思われますが、文量は恐らく今までよりも長めのはずです。
三点リーダで区切ってみると意外とページは少なかったのですけれど。
フォレストのサイトも四十万の大台に乗り、俺も嬉しいです。
これも皆様のおかげ、これからもよろしくお願いします。
原作のアテネ編が終わったら、四十万ヒットの記念小説を書き始めたいと思います。
折角なんで長めにかければ良いな、と思ってます。
なので時間があるときにGoogle等でネタを調べないと……。
どこかにイギリスの大学の事が詳しく乗ってるサイトとかないかなぁ。
探してるんですが中々なくて……。
見つかれば綾崎夫妻の留学時代の話でも書けると思うんですけど(汗
ま! 書けないかもしれないけど!!(笑)
まぁこんなところですね、近況は。
もうすぐ大学の新学期が始まってしまう……。
うあーだるいー。
どうもご無沙汰、関ヶ原です。
フォレストページの桜吹雪でリクエストされていた小説が完成したので、こちらにもup。
今回の話はホワイトデーネタですが、前回同様に文章にばらつきが……。
納得のいく文章がかけない自分自身に嫌悪感を抱きつつ、子供っぽいくて自己中心的なアイカとヒナギクがかけたことに少しの満足感。
個人的に、あの二人はもうちょっとわがままになっても良いと思う。
まぁそんなわけで新作ですよ~。
あまり期待されずにお読みください(笑)
もっと勉強して、上手な文章かけるよう頑張りたいです><
では~☆
『女たちのホワイトデー』
「三倍返しってどのくらいの量なのかな」
春も目と鼻の先まで近づいた三月。
暖かな日差しが窓から差し込む綾崎家のリビングで、暇を持て余したアイカが呟くように言った。
「? いきなりどうしたのよ」
その呟きを聞いて、皿を洗っていたヒナギクがアイカに尋ねる。
疑問を浮かべるヒナギクのほうへ視線を向けて、アイカは尋ね返した。
「ママ聞いたことない? ほら、もうすぐホワイトデーだし」
「あぁ、そういうこと」
皿を洗う手を止めアイカの話を聞いていたヒナギクだったが、理解したようだ。
納得したように一つ頷いた後、呆れた表情をアイカに向けた。
「ってアイカ貴女、まさかハヤテにお返しお願いしたの?」
「ほぇ? だってホワイトデーって男の人が女の人に贈り物を贈るんでしょ?」
「はぁ……」
アイカの言葉を聞いて、ヒナギクの口からため息が吐かれる。
「貴女ねぇ…私も貴女も、バレンタインにハヤテからチョコ貰ったじゃない」
「うん、貰ったよ。美味しかったね!」
「ええ美味しかったわ。さすが私のハヤテだって叫びたいくらいにね」
「私のパパだよぅ」、というアイカの主張を無視して、ヒナギクは話を続ける。
「バレンタインでチョコを貰って、その上ホワイトデーでお返し貰おうってちょっと都合が良すぎるわよ」
きっとハヤテはホワイトデー当日、お返しを用意してくる。
アイカの分だけでなく、恐らくヒナギクにも。
ハヤテの人柄を誰よりも理解しているからこそ、申し訳ないな、とヒナギクは思う。
「なんか私たち、ハヤテに貰ってばかりじゃない」
「あー……それはそうかも……」
ヒナギクの話を聞いて、流石にアイカも申し訳ないと感じたのだろう。
言葉を濁すその表情には少しばかり反省の色が見えた。
「でもでも、パパのことだからきっとお返し用意してくるよっ」
そんなアイカの言葉に、ヒナギクは頷く。
そんなこと、初めからわかっている。
「そうね、ハヤテのことだからきっと用意してくるわ。多分、アイカがハヤテにお返しをお願いしなかったとしても」
「………じゃあママが私に説教する必要もなかったんじゃ……」
「あんなの説教に入るわけないじゃない」
「えー」
「……とりあえず、話を続けるわ」
わかっているからこそ、ヒナギクはアイカに提案する。
「だからね、私たちもハヤテにお返しをあげようじゃない」
提案の内容は、至ってシンプル。
「お返しは何でもいいの。ありったけの感謝と愛情を、それに注げれば」
「なんでも?」
「ええ、何でも」
ヒナギクが頷くのを見て、アイカの空色の瞳の輝きが増した。
「じゃあ! ありがとうのキスでも―――」
「殴るわよ? 噛むわよ? 泣かせるわよ?」
「どれもこれも母親の言葉とは思えないっ! ていうか噛むって何!?」
「貴女が変なこと言うからじゃない」
「娘が父親にキスすることって変なことなの!?」
「……とにかく、お返しは『物』で行きましょ」
「ちょっとママ!?」
アイカの言葉を無視して、ヒナギクは自らの提案を自己完結。
国会も顔負けするくらいな強行採決。
「そうと決まればアイカ! 早速取り掛かるわよ!」
「……私は目の前の理不尽を取り締まることから始めたいよ……」
アイカの呟きは、けれどヒナギクの耳には届かない。
…
そんな事があって迎えた三月十四日。
愛する妻子にお返しを用意した綾崎ハヤテは、己の背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
というのも。
「ハヤテ……?」
「パパ……?」
「な、何かな? 二人とも」
眼前に立つ愛するべき者たちが、言葉として形容出来ないほどに恐ろしいオーラを放っていたから。
蛇に睨まれた蛙の如く身を竦めているハヤテに、
「「……その袋に入っているものはなにかしら…?」」
二人は、ハヤテの持つ紙袋に視線を(もはや凶眼というべきか)向けながら、言った。
ハヤテの持つ紙袋の中には、包装紙で包まれた長方形状の箱が何箱も入っていた。
「あ……えっと、これはバレンタインデーのお返しなん…だけ…ど」
聞かれたことに素直に答えるハヤテ。
しかし素直に答えたことによって、二人の眼光が強まった気がした。
「「なんでこんなに数が多いのよ…?」」
「えっと…そりゃあ…貰ったから、だけど…。あ、大丈夫だよ、二人へのお返しはちゃんと別にあるから」
「「そういう問題じゃないの――――!!」」
「うわっ!」
突然大声を上げた二人は、さらに、ハヤテに詰め寄る。
「いつの間にこんなにチョコを貰っていたの!?」
「バレンタインの日、パパチョコレート持ってなかったじゃん!」
「い、いやね? バレンタインの翌日に、いろんな人がくれて……」
「「貰うな―――!!」」
「ええっ!?」
そして理不尽をハヤテに突きつけた。
「な、なんでさ?」
「ハヤテは私からだけ貰えばいいの!」
「パパは私からだけ貰えれば幸せでしょ!」
まぁ簡単に言えば嫉妬。愛する夫を、父を他の女の毒牙から守るべく二人に沸き起こった理不尽という名の防衛本能。
「で、でもその人の好意は蔑ろに出来ないといいますか…」
「その人の」
「好意?」
「な、なんでもありません……」
何だろう、言葉に言葉を返すほど、自分が追い込まれている気がする。
ヒナギクはともかく、まさか娘のアイカにまで同様の迫力があるとは思わなかった。
こんな形で、アイカを自分とヒナギクの娘だと再認識することになろうとは。
「わ、わかった。もし来年、二人以外からチョコレートを貰いそうになったら断りますっ!」
思わず敬語口調になっているハヤテは、「だから」と言葉を続けた。
「今回は、皆にホワイトデーのお返しを配らせてくれませんか……?」
「………まぁ」
「……分かってくれたなら、今回は許しちゃおうかな……」
ハヤテの真摯な視線を受けて、ヒナギクとアイカは渋々承諾した。
二人の首が縦に振られるのを確認したハヤテは、ほっと胸を撫で下ろす。
「……良かった。断られたらどうしようかと思った」
「でも! 今回だけなんだから!」
「次回はないんだからねっ!」
「了解です。お姫様方」
威圧感から開放されれば、この二人のこんな言動も可愛いと思う。
自己中心的な感情をぶつけられているような気がするが、それだけこの二人は自分を想ってくれているのだろう、拗ねた表情を浮かべている二人を見ながら、ハヤテは顔をほころばせた。
「じゃあお返しを渡してこようかな……」
「ハ、ハヤテ!」
「パパ!」
拗ねたお姫様たちから、呼び止められる。
「? どうしたの?」
もう一度二人に視線を向けると、
「「……これっ」」
「え……?」
ずいっ、と突きつけられるかのように差し出されたのは、可愛い包装紙が巻かれた、長方形。
二人の手からそれを受け取り、ハヤテは再び問う。
「これってもしかして……」
「い、いつもお世話なってるから…っ」
「なんかこう改まると恥ずかしいわね……」
軽く包みを揺すってみると、カサカサという音が聞こえてきた。
察するに、恐らくクッキーだろうと内心ハヤテが考えていると、
「ハヤテっ」「パパっ」
「「いつもありがとうっ!」」
二人の声が、自分の耳に入ってきた。
「その……今日はホワイトデーなんだけど」
「別に女の子が渡してもいいよね…? パパ」
「……ありがとう、二人とも。本当に嬉しいよ」
まさかホワイトデーに、こんな素敵なものを貰えるなんて誰が想像出来ただろうか。
二人の気持ちが詰まった包みを大事に胸に抱えながら、ハヤテは笑った。
「こんなに素敵なものが貰えるんだったら、やっぱり来年も他の人からチョコ貰おうかな」
「ハヤテ!!」「パパ!!」
「冗談だよ」
笑いながら、軽口で冗談を言う。
二人から貰ったプレゼントが素敵だということは、冗談などではないけれど。
…
(……良かった)
ハヤテが自分たちが渡したものに喜んでいる様子を見て、ヒナギクもまた、喜びを感じていた。
自分たちが渡したお返しは、ハヤテがくれるもの程立派ではない。
それでもハヤテが喜んでくれた、そのことが嬉しい。
ホワイトデーのお返しを渡すということをアイカと決意し、渡すものはクッキーに決めた。
料理慣れしていないアイカにも簡単に出来るものだと思ったし、ヒナギクでも教えられるからだ。
案の定お返し作りは特に問題も起こらないで順調に進み、市販のものと比べれば劣りを感じるものの、上出来なお返しが完成したと思う。
それを綺麗な包装紙で包み、そして今、こうしてハヤテに渡すことが出来た。
隣のアイカもまた、バレンタインデーとは別の達成感をその胸で感じているに違いない。
「(……アイカ)」
「(なぁに? ママ)」
「(……やったね)」
「(……うん!)」
ハヤテに聞こえない程度の声量でヒナギクが囁くと、アイカは花のような笑顔で大きく頷いた。
「(来年もプレゼント贈ろっか?)」
「(パパがちゃんと他の女の人からチョコを貰わなかったらでどうかな?)」
「(あは。それいいかも♪)」
「ん? 二人して何の話だい?」
「ふふっ。ハヤテには内緒」
「女どーしの秘密だもんねっ!」
不思議な表情を浮かべるハヤテに、乙女二人はもう一度、可笑しそうにクスクスと笑った。
三月十四日のホワイトデーとは、男性が女性に日頃の感謝を込めてプレゼントを贈るといわれている。
しかしそれは一般的に言われていることであって、実際の意味と異なるホワイトデーを過ごす者たちもいる。
例えばこの広大な土地に住む家族のように、女性が男性に感謝の気持ちを贈り物に乗せて渡すように。
「……ねぇハヤテ」
「ん?」
「……これからもその、よろしくね」
「ははっ。こちらこそ」
「……アイカも忘れちゃ駄目なんだよぅ」
「アイカもよろしくね」
そんな風に。
一般のホワイトデーとはちょっと違った綾崎家の三月十四日は、綾崎一家全員の笑顔で彩られていく。
End
フォレストページの桜吹雪でリクエストされていた小説が完成したので、こちらにもup。
今回の話はホワイトデーネタですが、前回同様に文章にばらつきが……。
納得のいく文章がかけない自分自身に嫌悪感を抱きつつ、子供っぽいくて自己中心的なアイカとヒナギクがかけたことに少しの満足感。
個人的に、あの二人はもうちょっとわがままになっても良いと思う。
まぁそんなわけで新作ですよ~。
あまり期待されずにお読みください(笑)
もっと勉強して、上手な文章かけるよう頑張りたいです><
では~☆
『女たちのホワイトデー』
「三倍返しってどのくらいの量なのかな」
春も目と鼻の先まで近づいた三月。
暖かな日差しが窓から差し込む綾崎家のリビングで、暇を持て余したアイカが呟くように言った。
「? いきなりどうしたのよ」
その呟きを聞いて、皿を洗っていたヒナギクがアイカに尋ねる。
疑問を浮かべるヒナギクのほうへ視線を向けて、アイカは尋ね返した。
「ママ聞いたことない? ほら、もうすぐホワイトデーだし」
「あぁ、そういうこと」
皿を洗う手を止めアイカの話を聞いていたヒナギクだったが、理解したようだ。
納得したように一つ頷いた後、呆れた表情をアイカに向けた。
「ってアイカ貴女、まさかハヤテにお返しお願いしたの?」
「ほぇ? だってホワイトデーって男の人が女の人に贈り物を贈るんでしょ?」
「はぁ……」
アイカの言葉を聞いて、ヒナギクの口からため息が吐かれる。
「貴女ねぇ…私も貴女も、バレンタインにハヤテからチョコ貰ったじゃない」
「うん、貰ったよ。美味しかったね!」
「ええ美味しかったわ。さすが私のハヤテだって叫びたいくらいにね」
「私のパパだよぅ」、というアイカの主張を無視して、ヒナギクは話を続ける。
「バレンタインでチョコを貰って、その上ホワイトデーでお返し貰おうってちょっと都合が良すぎるわよ」
きっとハヤテはホワイトデー当日、お返しを用意してくる。
アイカの分だけでなく、恐らくヒナギクにも。
ハヤテの人柄を誰よりも理解しているからこそ、申し訳ないな、とヒナギクは思う。
「なんか私たち、ハヤテに貰ってばかりじゃない」
「あー……それはそうかも……」
ヒナギクの話を聞いて、流石にアイカも申し訳ないと感じたのだろう。
言葉を濁すその表情には少しばかり反省の色が見えた。
「でもでも、パパのことだからきっとお返し用意してくるよっ」
そんなアイカの言葉に、ヒナギクは頷く。
そんなこと、初めからわかっている。
「そうね、ハヤテのことだからきっと用意してくるわ。多分、アイカがハヤテにお返しをお願いしなかったとしても」
「………じゃあママが私に説教する必要もなかったんじゃ……」
「あんなの説教に入るわけないじゃない」
「えー」
「……とりあえず、話を続けるわ」
わかっているからこそ、ヒナギクはアイカに提案する。
「だからね、私たちもハヤテにお返しをあげようじゃない」
提案の内容は、至ってシンプル。
「お返しは何でもいいの。ありったけの感謝と愛情を、それに注げれば」
「なんでも?」
「ええ、何でも」
ヒナギクが頷くのを見て、アイカの空色の瞳の輝きが増した。
「じゃあ! ありがとうのキスでも―――」
「殴るわよ? 噛むわよ? 泣かせるわよ?」
「どれもこれも母親の言葉とは思えないっ! ていうか噛むって何!?」
「貴女が変なこと言うからじゃない」
「娘が父親にキスすることって変なことなの!?」
「……とにかく、お返しは『物』で行きましょ」
「ちょっとママ!?」
アイカの言葉を無視して、ヒナギクは自らの提案を自己完結。
国会も顔負けするくらいな強行採決。
「そうと決まればアイカ! 早速取り掛かるわよ!」
「……私は目の前の理不尽を取り締まることから始めたいよ……」
アイカの呟きは、けれどヒナギクの耳には届かない。
…
そんな事があって迎えた三月十四日。
愛する妻子にお返しを用意した綾崎ハヤテは、己の背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
というのも。
「ハヤテ……?」
「パパ……?」
「な、何かな? 二人とも」
眼前に立つ愛するべき者たちが、言葉として形容出来ないほどに恐ろしいオーラを放っていたから。
蛇に睨まれた蛙の如く身を竦めているハヤテに、
「「……その袋に入っているものはなにかしら…?」」
二人は、ハヤテの持つ紙袋に視線を(もはや凶眼というべきか)向けながら、言った。
ハヤテの持つ紙袋の中には、包装紙で包まれた長方形状の箱が何箱も入っていた。
「あ……えっと、これはバレンタインデーのお返しなん…だけ…ど」
聞かれたことに素直に答えるハヤテ。
しかし素直に答えたことによって、二人の眼光が強まった気がした。
「「なんでこんなに数が多いのよ…?」」
「えっと…そりゃあ…貰ったから、だけど…。あ、大丈夫だよ、二人へのお返しはちゃんと別にあるから」
「「そういう問題じゃないの――――!!」」
「うわっ!」
突然大声を上げた二人は、さらに、ハヤテに詰め寄る。
「いつの間にこんなにチョコを貰っていたの!?」
「バレンタインの日、パパチョコレート持ってなかったじゃん!」
「い、いやね? バレンタインの翌日に、いろんな人がくれて……」
「「貰うな―――!!」」
「ええっ!?」
そして理不尽をハヤテに突きつけた。
「な、なんでさ?」
「ハヤテは私からだけ貰えばいいの!」
「パパは私からだけ貰えれば幸せでしょ!」
まぁ簡単に言えば嫉妬。愛する夫を、父を他の女の毒牙から守るべく二人に沸き起こった理不尽という名の防衛本能。
「で、でもその人の好意は蔑ろに出来ないといいますか…」
「その人の」
「好意?」
「な、なんでもありません……」
何だろう、言葉に言葉を返すほど、自分が追い込まれている気がする。
ヒナギクはともかく、まさか娘のアイカにまで同様の迫力があるとは思わなかった。
こんな形で、アイカを自分とヒナギクの娘だと再認識することになろうとは。
「わ、わかった。もし来年、二人以外からチョコレートを貰いそうになったら断りますっ!」
思わず敬語口調になっているハヤテは、「だから」と言葉を続けた。
「今回は、皆にホワイトデーのお返しを配らせてくれませんか……?」
「………まぁ」
「……分かってくれたなら、今回は許しちゃおうかな……」
ハヤテの真摯な視線を受けて、ヒナギクとアイカは渋々承諾した。
二人の首が縦に振られるのを確認したハヤテは、ほっと胸を撫で下ろす。
「……良かった。断られたらどうしようかと思った」
「でも! 今回だけなんだから!」
「次回はないんだからねっ!」
「了解です。お姫様方」
威圧感から開放されれば、この二人のこんな言動も可愛いと思う。
自己中心的な感情をぶつけられているような気がするが、それだけこの二人は自分を想ってくれているのだろう、拗ねた表情を浮かべている二人を見ながら、ハヤテは顔をほころばせた。
「じゃあお返しを渡してこようかな……」
「ハ、ハヤテ!」
「パパ!」
拗ねたお姫様たちから、呼び止められる。
「? どうしたの?」
もう一度二人に視線を向けると、
「「……これっ」」
「え……?」
ずいっ、と突きつけられるかのように差し出されたのは、可愛い包装紙が巻かれた、長方形。
二人の手からそれを受け取り、ハヤテは再び問う。
「これってもしかして……」
「い、いつもお世話なってるから…っ」
「なんかこう改まると恥ずかしいわね……」
軽く包みを揺すってみると、カサカサという音が聞こえてきた。
察するに、恐らくクッキーだろうと内心ハヤテが考えていると、
「ハヤテっ」「パパっ」
「「いつもありがとうっ!」」
二人の声が、自分の耳に入ってきた。
「その……今日はホワイトデーなんだけど」
「別に女の子が渡してもいいよね…? パパ」
「……ありがとう、二人とも。本当に嬉しいよ」
まさかホワイトデーに、こんな素敵なものを貰えるなんて誰が想像出来ただろうか。
二人の気持ちが詰まった包みを大事に胸に抱えながら、ハヤテは笑った。
「こんなに素敵なものが貰えるんだったら、やっぱり来年も他の人からチョコ貰おうかな」
「ハヤテ!!」「パパ!!」
「冗談だよ」
笑いながら、軽口で冗談を言う。
二人から貰ったプレゼントが素敵だということは、冗談などではないけれど。
…
(……良かった)
ハヤテが自分たちが渡したものに喜んでいる様子を見て、ヒナギクもまた、喜びを感じていた。
自分たちが渡したお返しは、ハヤテがくれるもの程立派ではない。
それでもハヤテが喜んでくれた、そのことが嬉しい。
ホワイトデーのお返しを渡すということをアイカと決意し、渡すものはクッキーに決めた。
料理慣れしていないアイカにも簡単に出来るものだと思ったし、ヒナギクでも教えられるからだ。
案の定お返し作りは特に問題も起こらないで順調に進み、市販のものと比べれば劣りを感じるものの、上出来なお返しが完成したと思う。
それを綺麗な包装紙で包み、そして今、こうしてハヤテに渡すことが出来た。
隣のアイカもまた、バレンタインデーとは別の達成感をその胸で感じているに違いない。
「(……アイカ)」
「(なぁに? ママ)」
「(……やったね)」
「(……うん!)」
ハヤテに聞こえない程度の声量でヒナギクが囁くと、アイカは花のような笑顔で大きく頷いた。
「(来年もプレゼント贈ろっか?)」
「(パパがちゃんと他の女の人からチョコを貰わなかったらでどうかな?)」
「(あは。それいいかも♪)」
「ん? 二人して何の話だい?」
「ふふっ。ハヤテには内緒」
「女どーしの秘密だもんねっ!」
不思議な表情を浮かべるハヤテに、乙女二人はもう一度、可笑しそうにクスクスと笑った。
三月十四日のホワイトデーとは、男性が女性に日頃の感謝を込めてプレゼントを贈るといわれている。
しかしそれは一般的に言われていることであって、実際の意味と異なるホワイトデーを過ごす者たちもいる。
例えばこの広大な土地に住む家族のように、女性が男性に感謝の気持ちを贈り物に乗せて渡すように。
「……ねぇハヤテ」
「ん?」
「……これからもその、よろしくね」
「ははっ。こちらこそ」
「……アイカも忘れちゃ駄目なんだよぅ」
「アイカもよろしくね」
そんな風に。
一般のホワイトデーとはちょっと違った綾崎家の三月十四日は、綾崎一家全員の笑顔で彩られていく。
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