関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。
過度な期待はしないでください。
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どうもこんばんわ、関ヶ原です。
新作が出来ました。
ちょっと早めの更新に自分でも驚きです。
今回のネタは特になく、本当フィーリングで書いてます。
夜中、部屋の窓を開けて浮かんだ小説なので……。
アイカは今回出てこないのですが、設定上の関係で部類をあやさきけにさせていただきました。ご了承ください。
所々不明な点があるかもしれませんが、もう皆さん慣れましたよね(笑
早く自信をもって紹介出来る小説を書きたいです……道は遠いなぁ。
そんな感じなのですが、良かったら読んでやってください。
ではどうぞ~ ノシ
『九月夜』
虫の声につられるように、部屋の窓を開けてみた。
蒸し暑い風ばかりが入ってきた八月に比べ、開いた窓の外からは、涼しげな虫の声と、肌寒さを感じるくらいの涼しい夜風が入ってきて私の頬を撫でる。
「随分と涼しくなったわね……」
私の呟きは、虫の声に紛れて消えた。
それが少しだけ、面白い。
「ん? どうしたのヒナギク」
私だけにしか分からないことで小さく笑っていると、ハヤテが話しかけてきた。
寝室は一緒なのだけど、まだ起きていたらしい。
「ハヤテ……まだ起きてたんだ」
「まだ十二時だよ?」
「『もう』の間違いじゃなくて?」
「執事の夜は遅いんだよ」
「あら? 執事の妻の夜は早いけど?」
「そう言っておきながら、まだ起きてるじゃないか」
私の言葉にハヤテは苦笑を浮かべると、窓枠に身体を寄せる私の隣に来た。
「で? 何一人で笑ってたの?」
どうやら私の笑い声を聞かれてたらしい。
ちょっぴり恥ずかしい。
「いや……大した理由はないんけどね」
「そうなの?」
「ええ」
大した理由はないけれど、つまらない理由はあった。
それをハヤテに言っても、ハヤテは分かってくれるのだろうか。
言うか言うまいか迷って、ハヤテを見る。
「でも……本当に涼しくなったよね。虫の鳴き声も綺麗だ」
「ええ、その通りだわ」
私と同じように窓に目を向け、私の感じた夜風を、ハヤテも感じているのだろう。
「…………」
その横顔を見て、つまらない理由を口に出そう、と思った。
「……あのね、ハヤテ」
「ん?」
「さっき私が笑った理由なんだけど」
聞いてくれる?
そんな視線をハヤテに向けると、いいよ、とハヤテは微笑んだ。
「本当につまらないことなんだけどね」
「うん」
「私、窓を開けて『涼しい』って言ったのよ。笑う前に」
「それで?」
「その私の声がね、虫の声より小さかったから、思わず笑っちゃったのよ」
それでお仕舞い。
本当につまらない理由。
人間よりもちっぽけで儚い存在である虫たちが、私の呟きよりも大きな声で鳴いていることが、なんだか私には面白かったのだ。
「あんなに小さいのに、鳴き声だけは私よりも大きいなんて面白いじゃない」
……いや、違う。
「ね、ハヤテもそう思わない?」
「……そうだね」
本当に可笑しいと思ったのは。
「でもね、もっと可笑しいのはね」
小さな身体を精一杯揺らして、自分の声よりも大きな音を奏でる。
なんだかそれを、羨ましいと思ってしまった自分だった。
「私、虫に『負けた』って思っちゃったのよ」
いくら負けず嫌いでも程度ってものがあるでしょ、と私は苦笑を浮かべた。
「それが馬鹿らしくてね、つい笑っちゃった」
「へぇ……。でも」
私の言葉にハヤテは納得したように頷くと、
「良いんじゃないかな、別に負けても」
そう言葉を続けた。
「え?」
「確かにさ、虫に負けたらまぁ屈辱的な気持ちにはなると思うよ。誰でもさ」
「いや……そこまでは言ってないけれど」
「まぁいいから聞いて」
私の言葉には答えず、ハヤテは私の肩に手を置いて、視線を再び窓の外へと向ける。
「でも、さ」
その仕草に年甲斐もなく胸を高鳴らせていると、ハヤテは私の方を向いて、言った。
「こんなに綺麗な音に負けるなら、負けることも別に悪くないんじゃないかな」
「…………」
考え方の違いもあるだろうが。
「ヒナギクはそう思わない?」
本当にどうしてこの人はそういう事を、そんな顔で言えるのだろうか。
「……えぇ」
そんな顔で言われたら、頷くことしか出来ない。
「本当にハヤテって……」
「ん?」
「なんでもない」
本当に、私の夫は最高だ。
こうして結婚できて本当に幸せだと思う。
「それよりハヤテ、もう少し窓開けててもいい?」
でもその言葉だけは、言わないでおこう。
返しの言葉でどんな恥ずかしいことを言われるか知ったものじゃないから。
だから虫の声よりも小さな、もっと小さな私の心の声でだけ言っておくことにする。
「僕は全然構わないよ」
「良かった」
それよりも、今は。
私は身体をハヤテに預けながら、言った。
「もう少しだけ、この虫たちの声を聞いていたいから」
「……その意見には凄く同感」
意識を外へ向けると、虫たちの涼やかな声が再び耳に入ってきた。
思わず羨んでしまうくらいの、綺麗な音。
その音をその身で感じながら、私は思う。
この音に負けるのならそれは……それは確かに悪くない気分だと。
すっかり涼しくなった九月の夜。
虫たちの小さな演奏会を聞きながら、私とハヤテの静かな夜は更けていく。
End
新作が出来ました。
ちょっと早めの更新に自分でも驚きです。
今回のネタは特になく、本当フィーリングで書いてます。
夜中、部屋の窓を開けて浮かんだ小説なので……。
アイカは今回出てこないのですが、設定上の関係で部類をあやさきけにさせていただきました。ご了承ください。
所々不明な点があるかもしれませんが、もう皆さん慣れましたよね(笑
早く自信をもって紹介出来る小説を書きたいです……道は遠いなぁ。
そんな感じなのですが、良かったら読んでやってください。
ではどうぞ~ ノシ
『九月夜』
虫の声につられるように、部屋の窓を開けてみた。
蒸し暑い風ばかりが入ってきた八月に比べ、開いた窓の外からは、涼しげな虫の声と、肌寒さを感じるくらいの涼しい夜風が入ってきて私の頬を撫でる。
「随分と涼しくなったわね……」
私の呟きは、虫の声に紛れて消えた。
それが少しだけ、面白い。
「ん? どうしたのヒナギク」
私だけにしか分からないことで小さく笑っていると、ハヤテが話しかけてきた。
寝室は一緒なのだけど、まだ起きていたらしい。
「ハヤテ……まだ起きてたんだ」
「まだ十二時だよ?」
「『もう』の間違いじゃなくて?」
「執事の夜は遅いんだよ」
「あら? 執事の妻の夜は早いけど?」
「そう言っておきながら、まだ起きてるじゃないか」
私の言葉にハヤテは苦笑を浮かべると、窓枠に身体を寄せる私の隣に来た。
「で? 何一人で笑ってたの?」
どうやら私の笑い声を聞かれてたらしい。
ちょっぴり恥ずかしい。
「いや……大した理由はないんけどね」
「そうなの?」
「ええ」
大した理由はないけれど、つまらない理由はあった。
それをハヤテに言っても、ハヤテは分かってくれるのだろうか。
言うか言うまいか迷って、ハヤテを見る。
「でも……本当に涼しくなったよね。虫の鳴き声も綺麗だ」
「ええ、その通りだわ」
私と同じように窓に目を向け、私の感じた夜風を、ハヤテも感じているのだろう。
「…………」
その横顔を見て、つまらない理由を口に出そう、と思った。
「……あのね、ハヤテ」
「ん?」
「さっき私が笑った理由なんだけど」
聞いてくれる?
そんな視線をハヤテに向けると、いいよ、とハヤテは微笑んだ。
「本当につまらないことなんだけどね」
「うん」
「私、窓を開けて『涼しい』って言ったのよ。笑う前に」
「それで?」
「その私の声がね、虫の声より小さかったから、思わず笑っちゃったのよ」
それでお仕舞い。
本当につまらない理由。
人間よりもちっぽけで儚い存在である虫たちが、私の呟きよりも大きな声で鳴いていることが、なんだか私には面白かったのだ。
「あんなに小さいのに、鳴き声だけは私よりも大きいなんて面白いじゃない」
……いや、違う。
「ね、ハヤテもそう思わない?」
「……そうだね」
本当に可笑しいと思ったのは。
「でもね、もっと可笑しいのはね」
小さな身体を精一杯揺らして、自分の声よりも大きな音を奏でる。
なんだかそれを、羨ましいと思ってしまった自分だった。
「私、虫に『負けた』って思っちゃったのよ」
いくら負けず嫌いでも程度ってものがあるでしょ、と私は苦笑を浮かべた。
「それが馬鹿らしくてね、つい笑っちゃった」
「へぇ……。でも」
私の言葉にハヤテは納得したように頷くと、
「良いんじゃないかな、別に負けても」
そう言葉を続けた。
「え?」
「確かにさ、虫に負けたらまぁ屈辱的な気持ちにはなると思うよ。誰でもさ」
「いや……そこまでは言ってないけれど」
「まぁいいから聞いて」
私の言葉には答えず、ハヤテは私の肩に手を置いて、視線を再び窓の外へと向ける。
「でも、さ」
その仕草に年甲斐もなく胸を高鳴らせていると、ハヤテは私の方を向いて、言った。
「こんなに綺麗な音に負けるなら、負けることも別に悪くないんじゃないかな」
「…………」
考え方の違いもあるだろうが。
「ヒナギクはそう思わない?」
本当にどうしてこの人はそういう事を、そんな顔で言えるのだろうか。
「……えぇ」
そんな顔で言われたら、頷くことしか出来ない。
「本当にハヤテって……」
「ん?」
「なんでもない」
本当に、私の夫は最高だ。
こうして結婚できて本当に幸せだと思う。
「それよりハヤテ、もう少し窓開けててもいい?」
でもその言葉だけは、言わないでおこう。
返しの言葉でどんな恥ずかしいことを言われるか知ったものじゃないから。
だから虫の声よりも小さな、もっと小さな私の心の声でだけ言っておくことにする。
「僕は全然構わないよ」
「良かった」
それよりも、今は。
私は身体をハヤテに預けながら、言った。
「もう少しだけ、この虫たちの声を聞いていたいから」
「……その意見には凄く同感」
意識を外へ向けると、虫たちの涼やかな声が再び耳に入ってきた。
思わず羨んでしまうくらいの、綺麗な音。
その音をその身で感じながら、私は思う。
この音に負けるのならそれは……それは確かに悪くない気分だと。
すっかり涼しくなった九月の夜。
虫たちの小さな演奏会を聞きながら、私とハヤテの静かな夜は更けていく。
End
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どうも関ヶ原です。
新作です。
結構更新に間が空いてしまいました……頑張ろう。
現在はヒナ魔のほうも順調に製作進んでおります。
並行作業でこちらのほうも頑張りたいです。
今回の作品ですが、山場もなければ落ちもない。
本当に平凡で面白みのない作品になってしまいました。
しかしまぁ、そういう平凡な日常こそがあやさきけなのではないかな、と思うわけでして……。べ、べつに言い訳をしてるわけじゃないんだから!
あやさきけらしいといえばあやさきけらしい文章が書けたのではと思います。
これからもこういう短文を書いていければな、と思ったり、もっと文章上手くなりたい、とかなり思ったり。
全てが中途半端なレベルなので、なにか一つでも極めたいところです。
私の話が長くなってしまうのもアレなので、今回はこの辺で。
それでは拙文短文シャカブンブンですけども、良かったら最後まで見て頂けると嬉しいです。
ではどうぞ~☆
「ねぇパパ」
「ん?」
とある休日。
執事としての仕事を一樹に一任して以来、その言葉通りの一日を過ごせるようになった僕がリビングで本を読んでいると、アイカが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「これ」
本を一旦閉じてアイカの方を向くと、アイカが何かを差し出してきた。
「これ」
グローブとボールだった。
これは確か、衝動買いしたお嬢様が使わないからといってアイカにあげた物だったはず。
それを手に取り、尋ねる。
「グローブ? これがどうしたの?」
まぁこれを渡してきたということは、そういうことなのだろうけど。
僕の問いにアイカは笑顔で、そして予想通りの返答をしてきた。
「キャッチボール、しよ?」
こうして、娘の一言によって。
僕の休日の時間の使い道は、決定したようだった。
『キャッチボール』
折角なので、近所の公園にやって来た僕たち。
人のいない場所を選んで、そこでキャッチボールをすることにする。
「ここらへんでいいかな」
「うんっ!」
「じゃあアイカ、グローブ嵌めてー」
アイカにそう言いながら、僕も左手にグローブを嵌める。
新しい……というか全く使っていないから、グローブが堅い。
「うわ……取れるかな、これ」
野球経験がある人ならわかるだろうけど、新しいグローブというのは、買ったばかりのころは満足にボールが捕れる状態ではなかったりする。
今ではスポーツ店等で直ぐに使えるよう多少は柔らかくなっているものの、自分好みの形を作りたい人などはそういったものは買わない。
全く手の加えられていないグローブを、自分の手で好みの形に整えていくものなのだ。
「パパ……このグローブ、固い……」
「はは……」
どうやらお嬢様が買ったグローブは、どちらも手の加えられていないものだったらしい。
野球経験のないアイカには使いづらいだろう。
「右手を使えば捕れると思うから、大丈夫だよ」
「本当?」
「本当」
まぁでも、ボールのほうは(何故か)子供が使うようなゴムボールだし、怪我することもない。
キャッチボールをすること自体には問題はないはずだ。
「さて、じゃあやりますか」
そういうわけで、キャッチボール開始。
柔らかすぎるゴムボールに若干の違和感を覚えながらも、アイカの構えるところへとボールを投げ込む。
「うわっ……と、と」
構えたところへ、山なりの軌道でボールは投げ込まれた。
それをアイカは、見事にキャッチする。
「お、上手いじゃないか、アイカ」
「え? ……えへへ、そうかな」
「うん」
捕り方が拙いのは当たり前だが、それでもボールはグローブから零れていない。
ゴムボールをグローブで捕球するのは、小さい子供からすれば結構難しいのだ。
「じゃあアイカ、僕のここに投げてみて」
照れくさそうに笑うアイカに、僕はグローブを向けた。
グローブを胸の位置で構え、ここに投げるよう催促する。
「よーし……えいっ」
可愛らしい掛け声とともに、アイカの手からボールが放たれる。
砲丸投げのようなフォームから山なりを描いてボールがグローブに届く。
見事なストライクだった。
「おぉー」
「どう?」
「いや……正直驚いたよ」
記憶によれば、アイカとキャッチボールをするのはこれが初めてのはず。
初めてでここまで投げれるのは驚きだった。
「アイカってキャッチボールとかしたことあったっけ?」
「え? ないよー」
流石はヒナギクの血を受け継いでいるだけある、とでもいうのだろうか。
それともアイカの身体能力自体を凄いと言うべきなのだろうか。
どちらにせよ、アイカがやったことに変わりはない。
「アイカは本当、何でも出来るんだなぁ」
流石自慢の娘。父親が僕で本当申し訳ない。
冗談まじりでそう言うと、
「パパの娘だから出来るんだよ!」
と力強く言われた。
迷うことなくそう言ってくれる辺り、本当にヒナギクに似ていると思う。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「うん!」
アイカの笑顔に僕もつられて笑いながら、僕はアイカにボールを返す。
…
「ところでさ」
「ん?」
しばらく山なりのキャッチボールを続けて、僕はアイカに尋ねた。
「どうして急にキャッチボールがしたいって言い出したの?」
「それは……」
アイカへボールを返しながら、言葉の続きを待つ。
「昨日、学校でね」
アイカがボールを投げる。
「うん」
僕がボールを捕る。
投げる。
「友達が」
捕る。
「うん」
投げる。
「その子のパパとね」
捕る。
「うん」
投げる。
「キャッチボールしたんだって」
捕る。
「それで、アイカもやりたくなったのかな?」
投げる。
そのボールをアイカが捕ったところで、一度アイカは両手を下げた。
キャッチボールが中断される。
「うん」
中断されるが、会話のキャッチボールはまだ続いている。
「というかね、そういえば私、パパとキャッチボールしたことないなぁって思ったの」
「そう、だね。思えば僕、アイカとそういうことしたことなかったかも」
買い物などは頻繁に行くが、キャッチボールなどはやったことがない。
「うん。ママとは剣道やったことあったけど、パパとはやったことなかったから。だからやりたいって思ったの」
「そっか……」
「私はもっと、パパとキャッチボールとかしたい」
ひょっとしたら、アイカは僕が気づかない時でもそういうサインを出していたのかもしれない。
ただ言葉にしないだけで、僕が気づかないだけで。
父親として、それは娘のことをよく見ていないということになるのではないだろうか。
「そう……か」
自分がもし周りから、いい父親に見られていなかったとしても、娘の前では――――アイカにとっては最高の父親でいたい。
「子供は親の宝、って言うしね」
ならば今までのようなことではいけない。
もっと、今以上にアイカに目を向けよう。
アイカがそれを望むのであれば、答えてあげるのが父親というものなのだから、きっと。
よし、と小さく呟いて、僕はアイカに言葉を掛けた。
「じゃあやろうか、続き。今日は疲れるまで、思いっきりやっちゃおう」
どうせ明日も休みだ。クタクタになるまで娘と遊んだって罰は当たらない。
そうときたら。
僕はグローブをパン、と叩いた。
「さぁこいアイカ。次はここだよ」
「よーし、わかったー!」
構えたグローブを見据えて、アイカが大きく振りかぶる。
「私の完璧なコントロールを見よ!」
「はは、もう何度も見てるけどね」
娘の元気すぎる声に苦笑しながら僕は思う。
「(これは……今日の帰りは遅くなるだろうなぁ)」
それなりの時間キャッチボールをしたというのにこの元気。
夕方になるのは間違いない。
「……ま、いいか」
帰りが遅くなればヒナギクが何か言いそうだけれど、それはその時に考えればいい話だ。
それよりも、僕は。
「なんか言ったー!?」
「なんでもないよ」
振りかぶったままの状態で静止しているこの娘とキャッチボールをすることが、楽しくて仕方がないのだから。
End
新作です。
結構更新に間が空いてしまいました……頑張ろう。
現在はヒナ魔のほうも順調に製作進んでおります。
並行作業でこちらのほうも頑張りたいです。
今回の作品ですが、山場もなければ落ちもない。
本当に平凡で面白みのない作品になってしまいました。
しかしまぁ、そういう平凡な日常こそがあやさきけなのではないかな、と思うわけでして……。べ、べつに言い訳をしてるわけじゃないんだから!
あやさきけらしいといえばあやさきけらしい文章が書けたのではと思います。
これからもこういう短文を書いていければな、と思ったり、もっと文章上手くなりたい、とかなり思ったり。
全てが中途半端なレベルなので、なにか一つでも極めたいところです。
私の話が長くなってしまうのもアレなので、今回はこの辺で。
それでは拙文短文シャカブンブンですけども、良かったら最後まで見て頂けると嬉しいです。
ではどうぞ~☆
「ねぇパパ」
「ん?」
とある休日。
執事としての仕事を一樹に一任して以来、その言葉通りの一日を過ごせるようになった僕がリビングで本を読んでいると、アイカが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「これ」
本を一旦閉じてアイカの方を向くと、アイカが何かを差し出してきた。
「これ」
グローブとボールだった。
これは確か、衝動買いしたお嬢様が使わないからといってアイカにあげた物だったはず。
それを手に取り、尋ねる。
「グローブ? これがどうしたの?」
まぁこれを渡してきたということは、そういうことなのだろうけど。
僕の問いにアイカは笑顔で、そして予想通りの返答をしてきた。
「キャッチボール、しよ?」
こうして、娘の一言によって。
僕の休日の時間の使い道は、決定したようだった。
『キャッチボール』
折角なので、近所の公園にやって来た僕たち。
人のいない場所を選んで、そこでキャッチボールをすることにする。
「ここらへんでいいかな」
「うんっ!」
「じゃあアイカ、グローブ嵌めてー」
アイカにそう言いながら、僕も左手にグローブを嵌める。
新しい……というか全く使っていないから、グローブが堅い。
「うわ……取れるかな、これ」
野球経験がある人ならわかるだろうけど、新しいグローブというのは、買ったばかりのころは満足にボールが捕れる状態ではなかったりする。
今ではスポーツ店等で直ぐに使えるよう多少は柔らかくなっているものの、自分好みの形を作りたい人などはそういったものは買わない。
全く手の加えられていないグローブを、自分の手で好みの形に整えていくものなのだ。
「パパ……このグローブ、固い……」
「はは……」
どうやらお嬢様が買ったグローブは、どちらも手の加えられていないものだったらしい。
野球経験のないアイカには使いづらいだろう。
「右手を使えば捕れると思うから、大丈夫だよ」
「本当?」
「本当」
まぁでも、ボールのほうは(何故か)子供が使うようなゴムボールだし、怪我することもない。
キャッチボールをすること自体には問題はないはずだ。
「さて、じゃあやりますか」
そういうわけで、キャッチボール開始。
柔らかすぎるゴムボールに若干の違和感を覚えながらも、アイカの構えるところへとボールを投げ込む。
「うわっ……と、と」
構えたところへ、山なりの軌道でボールは投げ込まれた。
それをアイカは、見事にキャッチする。
「お、上手いじゃないか、アイカ」
「え? ……えへへ、そうかな」
「うん」
捕り方が拙いのは当たり前だが、それでもボールはグローブから零れていない。
ゴムボールをグローブで捕球するのは、小さい子供からすれば結構難しいのだ。
「じゃあアイカ、僕のここに投げてみて」
照れくさそうに笑うアイカに、僕はグローブを向けた。
グローブを胸の位置で構え、ここに投げるよう催促する。
「よーし……えいっ」
可愛らしい掛け声とともに、アイカの手からボールが放たれる。
砲丸投げのようなフォームから山なりを描いてボールがグローブに届く。
見事なストライクだった。
「おぉー」
「どう?」
「いや……正直驚いたよ」
記憶によれば、アイカとキャッチボールをするのはこれが初めてのはず。
初めてでここまで投げれるのは驚きだった。
「アイカってキャッチボールとかしたことあったっけ?」
「え? ないよー」
流石はヒナギクの血を受け継いでいるだけある、とでもいうのだろうか。
それともアイカの身体能力自体を凄いと言うべきなのだろうか。
どちらにせよ、アイカがやったことに変わりはない。
「アイカは本当、何でも出来るんだなぁ」
流石自慢の娘。父親が僕で本当申し訳ない。
冗談まじりでそう言うと、
「パパの娘だから出来るんだよ!」
と力強く言われた。
迷うことなくそう言ってくれる辺り、本当にヒナギクに似ていると思う。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「うん!」
アイカの笑顔に僕もつられて笑いながら、僕はアイカにボールを返す。
…
「ところでさ」
「ん?」
しばらく山なりのキャッチボールを続けて、僕はアイカに尋ねた。
「どうして急にキャッチボールがしたいって言い出したの?」
「それは……」
アイカへボールを返しながら、言葉の続きを待つ。
「昨日、学校でね」
アイカがボールを投げる。
「うん」
僕がボールを捕る。
投げる。
「友達が」
捕る。
「うん」
投げる。
「その子のパパとね」
捕る。
「うん」
投げる。
「キャッチボールしたんだって」
捕る。
「それで、アイカもやりたくなったのかな?」
投げる。
そのボールをアイカが捕ったところで、一度アイカは両手を下げた。
キャッチボールが中断される。
「うん」
中断されるが、会話のキャッチボールはまだ続いている。
「というかね、そういえば私、パパとキャッチボールしたことないなぁって思ったの」
「そう、だね。思えば僕、アイカとそういうことしたことなかったかも」
買い物などは頻繁に行くが、キャッチボールなどはやったことがない。
「うん。ママとは剣道やったことあったけど、パパとはやったことなかったから。だからやりたいって思ったの」
「そっか……」
「私はもっと、パパとキャッチボールとかしたい」
ひょっとしたら、アイカは僕が気づかない時でもそういうサインを出していたのかもしれない。
ただ言葉にしないだけで、僕が気づかないだけで。
父親として、それは娘のことをよく見ていないということになるのではないだろうか。
「そう……か」
自分がもし周りから、いい父親に見られていなかったとしても、娘の前では――――アイカにとっては最高の父親でいたい。
「子供は親の宝、って言うしね」
ならば今までのようなことではいけない。
もっと、今以上にアイカに目を向けよう。
アイカがそれを望むのであれば、答えてあげるのが父親というものなのだから、きっと。
よし、と小さく呟いて、僕はアイカに言葉を掛けた。
「じゃあやろうか、続き。今日は疲れるまで、思いっきりやっちゃおう」
どうせ明日も休みだ。クタクタになるまで娘と遊んだって罰は当たらない。
そうときたら。
僕はグローブをパン、と叩いた。
「さぁこいアイカ。次はここだよ」
「よーし、わかったー!」
構えたグローブを見据えて、アイカが大きく振りかぶる。
「私の完璧なコントロールを見よ!」
「はは、もう何度も見てるけどね」
娘の元気すぎる声に苦笑しながら僕は思う。
「(これは……今日の帰りは遅くなるだろうなぁ)」
それなりの時間キャッチボールをしたというのにこの元気。
夕方になるのは間違いない。
「……ま、いいか」
帰りが遅くなればヒナギクが何か言いそうだけれど、それはその時に考えればいい話だ。
それよりも、僕は。
「なんか言ったー!?」
「なんでもないよ」
振りかぶったままの状態で静止しているこの娘とキャッチボールをすることが、楽しくて仕方がないのだから。
End
どうも、関ヶ原です。
予定どおり、新作です。
なんとか今月中に一作、という目標が達成できて嬉しいです。
一応あやさきけなんですが、今回は綾崎夫婦の昔話。
時間軸は、あやさきけ第一話(だったはず)の後日。かなり前の話ですねー。
なんでこの話書こうと思ったかというと、バイトの同年代の人から、『タメ口で話せ』と言われたからです。俺は初対面の人には、年齢関係なく結構ですます口調で話すんですよね。
なんかそれが当たり前のように感じてしまって。
もちろん、タメでいいと言われたんで会ったその日の内にその人とはタメ語で話してますよ(笑)
それで思ったんですよ。ハヤテとヒナギク、あやさきけでは普通に名前呼び合う仲だけど、そこら辺の話も作った方がいんじゃね? と。
夫婦なんだから呼捨ては当たり前、なんておざなりにも程がありますし。
ただでさえおざなりな短文なのに……。
そんな理由からこの話が出来ました。
そんなわけで、誤字脱字あるかもしれませんが、良かったら見てやってください。
ではどうぞ~☆
ちょっと昔の話をしよう。
僕こと綾崎ハヤテがそう前置きをすると、眼前でちょこんと座る愛娘は、可愛らしく小首を傾げた。
「? 昔ってどれくらいの?」
「そうだねぇ……僕とヒナギクが留学する直前くらいかな」
「結構昔だね」
「アイカがヒナギクのお腹にいないころだからね」
ほえー、と小さな口を開けて驚く愛娘――アイカに、思わず笑みがこぼれる。
そもそもなんでこんな話をするかというと、理由はいたって簡単。
『パパとママはいつから名前で呼び合っていたのか』という素朴な疑問を、アイカがしてきたからだ。
僕とヒナギクは出会った当初から名前で呼び合っていたのだけど、そのことを伝えると、
『違うよ! 呼び捨てで呼び合うってことだよ!』という可愛らしい反論が返ってきたので―――冒頭に繋がるのである。
「わくわく」
「あー……アイカ? こんなに冒頭の文長くなってるけど、実際この話は大して山もなければ、長さもないからね?」
まるで壮大な物語をこれから聞くかのような態度のアイカに一応忠告をしてみたけど、それでもいい、と言われたので話を続けようと思う。
「ならいいけど……本当になんでもない話だよ?」
「いいから!」
「了解です、お姫様」
こほん、とわざとらしく咳をして。
時は約十年前。 アイカが生まれる前。
正確には、僕がヒナギクに、時計塔でともに留学することを伝えた日の、後日―――。
『呼捨』
「そろそろだと思うのよ」
喧嘩のような、痴話喧嘩のような、サプライジングな告白をした翌日。
留学先へ向かう飛行機の中にて、隣に座るヒナギクさんがそんなことを言い出した。
「? 何がですか?」
「それよ、それ」
主語のない言葉に、僕は首を傾げる。
「それって……何がです?」
「だから、それだってば」
ちなみに今僕達は絶賛フライト中。快適な空の旅である。
三度、質問を返す僕に対しヒナギクさんの不機嫌そうな言葉が返ってくるが、その表情は窺えない。
なぜならヒナギクさんはでっかいアイマスクをしているから。
窓から見える景色はとても美しいのに、絶対に見るものかという、彼女の意思の強さを表すかのようなでかいアイマスクをしている。
「ヒナギクさん、確かに僕は鈍感ですけど、流石に『それ』だけじゃわからないです」
「……むぅ」
ヒナギクさんが極度の高所恐怖症であるのは百も承知であるし、飛行機内でのヒナギクさんの姿は安易に想像出来ていた(眼前というか眼隣の姿がまさにそう)。
ただ、その彼女からの質問までは想像していない。むしろ機内では会話など二言、三言くらいだと思っていた。
僕がそういう意味を込めて言葉を返すと、ヒナギクさんは言葉に詰まったように小さく唸った。
「……なら、仕方ないわね……」
「仕方ないというか……なんかすいません」
「良いのよ。……そうよね、はっきり言わないと全然気づかないもんね、『ハヤテ』は」
そう呟いてヒナギクさんは溜息をついた。
アイマスクで表情が見えなくても、今度は容易に想像がつく。
恐らく呆れ顔だ。
ところで今、『ハヤテ』と呼ばれた気がするのだけど……聞き間違いだろうか。
「で、ヒナギクさん。『それ』って何なんですか?」
恐らく聞き間違いであろう、そう思うことにして話を促す。
「私達って、これから一緒に留学するわけよね?」
「はい。短期留学しますね」
ヒナギクさんは短期留学。僕は短期の執事研修として。
まぁそれでも一年以上は留学するのだから、短期、と言えるかは別だけれど。
「当然一緒に住むわけじゃない?」
「そ、そうですね」
「そうよね」
僕とヒナギクさんの住居は、お嬢様が用意してくれた家を借りることになっている。
お嬢様の所有物だから僕達が家賃を払う必要もないし、ヒナギクさんの通う大学からも近い、まさに最高の物件だ。
「つまり同棲よね?」
「……ダイレクトに言われると凄く恥ずかしいんですけど、そうです」
これから好きな女の子と同じところに住む。
その実感が今更やってきて、思わず顔が暑くなった。
うわ、凄く緊張してきた……。
そんな僕の様子も、アイマスクをしているヒナギクさんは見えない。
だからこそ、気にした様子もなくヒナギクさんは少し声を荒げて言ったのだ。
『それ』が指す意味を。
「じゃあ、敬語なんか使うな―――!!」
……え?
「敬語……ですか」
「そう! 敬語! もしくは丁寧語!」
僕の言葉に変わらぬ声量でヒナギクさんは答える。
「恋人なのに! 一緒に住むのに! どうして私に対していつまでもそんな丁寧な言葉使いなのよ!」
「え、いや、でも……」
「いやもデモもストもない!」
いやってなんなのだろう。
あとちょっと古い、と思ったことは言わない。
ヒナギクさんのボルテージを上げるだけだろうし。
しかし、丁寧語、かぁ……。
「……じゃあ聞きますけど、それこそ今更なのでは? 付き合い始めてからも、僕ずっとこの口調でしたよね?」
「う……そ、それはそうなんだけど」
気が置けない友人からいきなり自分に対して敬語を使え、と言われたシーンを想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。
いきなりそんなことを要求されても、簡単には対応できないだろう。
そんな気持ちが、今の僕である。
出来る人がいたとしても、それは僕じゃない。
「それに、口調を変えろなんて急に言われても対応し辛いというか……」
「言いたいことはわかるの。……でもね、やっぱりハヤテにはその口調を直して欲しいのよ。彼女としては」
「言いたいことは分かりますけど……」
いきなりそう言われても難しいものは難しいのだ。
言葉使いを変えろなど、僕にとってみればそれは態度を変えろと言われているに等しいことなのだから。
その上相手は僕の大好きな女の子である。
「……ダメ?」
「うーん……」
小さく唸りをあげながら、僕は気づく。
そういえば、さっきもヒナギクさんは僕の名前を呼び捨てにしていた。
「……あぁ、なるほど」
つまり、それがヒナギクさんの、小さなサインだったのだ。
要求するだけじゃ駄目だから、まずは自分から実行しようという。
素直に頼めなかったから、さり気無くサインを出して、それでも僕が気づかなかったから、不機嫌に要求したのだ。
なんだ、全然いきなりじゃないじゃないか。
結局僕の、鈍感が原因だ。
「ヒナギクさんの言いたいこと、分かりましたよ」
「……分かってくれた?」
「はい」
僕が答えると、ヒナギクさんは安心したように溜息を吐いた。
「なら―――」
「でも、やっぱりいきなりは難しいですよ」
だけど、あくまで『理解した』だけ。
ヒナギクさんのように、直ぐに実行に移せるほど、僕は人間出来ていない。
「え……?」
「いやほら、やっぱりどこかで躊躇しちゃうんですよ。今までこの感じでやって来たので、いきなりそれを変えろと言われても簡単には出来ないです」
がっかりしたような呟きがヒナギクさんから聞こえてきて、少しだけ胸が痛んだ。
そりゃ、簡単に変えられることなら変えてやりたい。
彼氏としては、ヒナギクさんの笑顔を見ることが最大級の喜びなのだから。
「じゃあ……無理? やっぱり出来ないの……?」
「そうですね……」
不安そうなヒナギクさんの声を聞くたび、胸に痛みが走る。申し訳なさと痛みで、まさに胸いっぱいだ。
口調を変えるだけ、タメ口になるだけで良いのではないか。
躊躇う理由がどこにある。
簡単なことなのだろう、しかし簡単ではないのだ。
常に下手、下手で生きてきた人間に、そういうことを簡単にすることは出来ない。
漫画や小説のようにはいかないのである。
「口調はこの先ゆっくり直していくとして……とりあえず」
でも、僕だって男だ。
少しは、彼女の願いを叶えるために努力したって良いだろう。
「―――ヒナギク」
「ふぇ?」
だから僕は彼女の名前を呼んだ―――呼び捨てで。
「ハヤテ……君」
「君は要らないんでしょう?」
彼女が大きなアイマスクの下から、窺うようにこちらを見た。
それだけ驚いた、ということだろうか。自分から要求したのに。
「話し言葉を直ぐに変えることは難しいですけど、彼女の名前くらいは、ね」
呼び捨てで呼べるくらいの度胸ならありますので、と僕は苦笑とともに付け加えた。
「だからこれからも長いお付き合い、お願いしますね」
「…………うんっ!」
アイマスクの下からでもはっきり分かるような笑顔で、ヒナギクは笑った。
それを見ると、やっぱりやって良かったと思う。
「さて、じゃあ取り敢えず問題は解決した、ということで良いんですかね?」
「うん。今はそれで満足してあげる」
「それは助かります」
ヒナギクが満足してくれて、一安心だ。
折角これから楽しい同棲生活が始まるというのに、喧嘩などまっぴらごめんだ。
「はぁ……なんだか安心したら眠くなってきちゃった」
「寝ますか?」
「うん……」
安堵の溜息を吐いて、ヒナギクが言う。
高所恐怖症なのに、大分無理をして会話を続けていたのだろう。
安心と疲れから眠くなるのも当然なのかもしれない。
「ごめんハヤテ、少し休むね」
「ええ。ゆっくり休んでください、ヒナギク」
原因の大半は僕に起因しているだけに、やはり申し訳なく思う。
再びアイマスクで表情を隠したヒナギクに言葉を掛けると、
「……?」
左手を握られた。
「ヒナギク?」
「……怖いから、到着するまでずっと手を握ってること。良いわね?」
僕が左手に目をやると、ヒナギクのそんな声が聞こえた。
アイマスクの下から、真っ赤な顔でこちらを睨む彼女の声が。
「はは……わかりました。お姫様」
「お姫様じゃなくて、ヒナギク」
「はいはい」
その姿が余りにも可愛くて、思わず笑ってしまった。
到着するまでずっと、ということは、僕の左手が解放されるのはしばらく後のことになりそうだ。
「お休み、ハヤテ」
「お休みなさい、ヒナギク」
さて、ヒナギクからは直ぐにでも可愛らしい寝息が聞こえてくるだろうし、僕はそれまで何をしようか。
いやいや、やることなんて決まっている。
我ながらアホらしい自問自答。
「―――練習に決まってるよな」
少しでも早く、ヒナギクの要望を叶えられるように。
まずは彼女の名前を、恥ずかしがらずに呼び捨て出来るようにするところから始めよう。
左手の温もりを存分に感じながら、僕の練習は始まるのだった。
…
「―――というお話だったんだけど」
我ながら恥ずかしい話
予定どおり、新作です。
なんとか今月中に一作、という目標が達成できて嬉しいです。
一応あやさきけなんですが、今回は綾崎夫婦の昔話。
時間軸は、あやさきけ第一話(だったはず)の後日。かなり前の話ですねー。
なんでこの話書こうと思ったかというと、バイトの同年代の人から、『タメ口で話せ』と言われたからです。俺は初対面の人には、年齢関係なく結構ですます口調で話すんですよね。
なんかそれが当たり前のように感じてしまって。
もちろん、タメでいいと言われたんで会ったその日の内にその人とはタメ語で話してますよ(笑)
それで思ったんですよ。ハヤテとヒナギク、あやさきけでは普通に名前呼び合う仲だけど、そこら辺の話も作った方がいんじゃね? と。
夫婦なんだから呼捨ては当たり前、なんておざなりにも程がありますし。
ただでさえおざなりな短文なのに……。
そんな理由からこの話が出来ました。
そんなわけで、誤字脱字あるかもしれませんが、良かったら見てやってください。
ではどうぞ~☆
ちょっと昔の話をしよう。
僕こと綾崎ハヤテがそう前置きをすると、眼前でちょこんと座る愛娘は、可愛らしく小首を傾げた。
「? 昔ってどれくらいの?」
「そうだねぇ……僕とヒナギクが留学する直前くらいかな」
「結構昔だね」
「アイカがヒナギクのお腹にいないころだからね」
ほえー、と小さな口を開けて驚く愛娘――アイカに、思わず笑みがこぼれる。
そもそもなんでこんな話をするかというと、理由はいたって簡単。
『パパとママはいつから名前で呼び合っていたのか』という素朴な疑問を、アイカがしてきたからだ。
僕とヒナギクは出会った当初から名前で呼び合っていたのだけど、そのことを伝えると、
『違うよ! 呼び捨てで呼び合うってことだよ!』という可愛らしい反論が返ってきたので―――冒頭に繋がるのである。
「わくわく」
「あー……アイカ? こんなに冒頭の文長くなってるけど、実際この話は大して山もなければ、長さもないからね?」
まるで壮大な物語をこれから聞くかのような態度のアイカに一応忠告をしてみたけど、それでもいい、と言われたので話を続けようと思う。
「ならいいけど……本当になんでもない話だよ?」
「いいから!」
「了解です、お姫様」
こほん、とわざとらしく咳をして。
時は約十年前。 アイカが生まれる前。
正確には、僕がヒナギクに、時計塔でともに留学することを伝えた日の、後日―――。
『呼捨』
「そろそろだと思うのよ」
喧嘩のような、痴話喧嘩のような、サプライジングな告白をした翌日。
留学先へ向かう飛行機の中にて、隣に座るヒナギクさんがそんなことを言い出した。
「? 何がですか?」
「それよ、それ」
主語のない言葉に、僕は首を傾げる。
「それって……何がです?」
「だから、それだってば」
ちなみに今僕達は絶賛フライト中。快適な空の旅である。
三度、質問を返す僕に対しヒナギクさんの不機嫌そうな言葉が返ってくるが、その表情は窺えない。
なぜならヒナギクさんはでっかいアイマスクをしているから。
窓から見える景色はとても美しいのに、絶対に見るものかという、彼女の意思の強さを表すかのようなでかいアイマスクをしている。
「ヒナギクさん、確かに僕は鈍感ですけど、流石に『それ』だけじゃわからないです」
「……むぅ」
ヒナギクさんが極度の高所恐怖症であるのは百も承知であるし、飛行機内でのヒナギクさんの姿は安易に想像出来ていた(眼前というか眼隣の姿がまさにそう)。
ただ、その彼女からの質問までは想像していない。むしろ機内では会話など二言、三言くらいだと思っていた。
僕がそういう意味を込めて言葉を返すと、ヒナギクさんは言葉に詰まったように小さく唸った。
「……なら、仕方ないわね……」
「仕方ないというか……なんかすいません」
「良いのよ。……そうよね、はっきり言わないと全然気づかないもんね、『ハヤテ』は」
そう呟いてヒナギクさんは溜息をついた。
アイマスクで表情が見えなくても、今度は容易に想像がつく。
恐らく呆れ顔だ。
ところで今、『ハヤテ』と呼ばれた気がするのだけど……聞き間違いだろうか。
「で、ヒナギクさん。『それ』って何なんですか?」
恐らく聞き間違いであろう、そう思うことにして話を促す。
「私達って、これから一緒に留学するわけよね?」
「はい。短期留学しますね」
ヒナギクさんは短期留学。僕は短期の執事研修として。
まぁそれでも一年以上は留学するのだから、短期、と言えるかは別だけれど。
「当然一緒に住むわけじゃない?」
「そ、そうですね」
「そうよね」
僕とヒナギクさんの住居は、お嬢様が用意してくれた家を借りることになっている。
お嬢様の所有物だから僕達が家賃を払う必要もないし、ヒナギクさんの通う大学からも近い、まさに最高の物件だ。
「つまり同棲よね?」
「……ダイレクトに言われると凄く恥ずかしいんですけど、そうです」
これから好きな女の子と同じところに住む。
その実感が今更やってきて、思わず顔が暑くなった。
うわ、凄く緊張してきた……。
そんな僕の様子も、アイマスクをしているヒナギクさんは見えない。
だからこそ、気にした様子もなくヒナギクさんは少し声を荒げて言ったのだ。
『それ』が指す意味を。
「じゃあ、敬語なんか使うな―――!!」
……え?
「敬語……ですか」
「そう! 敬語! もしくは丁寧語!」
僕の言葉に変わらぬ声量でヒナギクさんは答える。
「恋人なのに! 一緒に住むのに! どうして私に対していつまでもそんな丁寧な言葉使いなのよ!」
「え、いや、でも……」
「いやもデモもストもない!」
いやってなんなのだろう。
あとちょっと古い、と思ったことは言わない。
ヒナギクさんのボルテージを上げるだけだろうし。
しかし、丁寧語、かぁ……。
「……じゃあ聞きますけど、それこそ今更なのでは? 付き合い始めてからも、僕ずっとこの口調でしたよね?」
「う……そ、それはそうなんだけど」
気が置けない友人からいきなり自分に対して敬語を使え、と言われたシーンを想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。
いきなりそんなことを要求されても、簡単には対応できないだろう。
そんな気持ちが、今の僕である。
出来る人がいたとしても、それは僕じゃない。
「それに、口調を変えろなんて急に言われても対応し辛いというか……」
「言いたいことはわかるの。……でもね、やっぱりハヤテにはその口調を直して欲しいのよ。彼女としては」
「言いたいことは分かりますけど……」
いきなりそう言われても難しいものは難しいのだ。
言葉使いを変えろなど、僕にとってみればそれは態度を変えろと言われているに等しいことなのだから。
その上相手は僕の大好きな女の子である。
「……ダメ?」
「うーん……」
小さく唸りをあげながら、僕は気づく。
そういえば、さっきもヒナギクさんは僕の名前を呼び捨てにしていた。
「……あぁ、なるほど」
つまり、それがヒナギクさんの、小さなサインだったのだ。
要求するだけじゃ駄目だから、まずは自分から実行しようという。
素直に頼めなかったから、さり気無くサインを出して、それでも僕が気づかなかったから、不機嫌に要求したのだ。
なんだ、全然いきなりじゃないじゃないか。
結局僕の、鈍感が原因だ。
「ヒナギクさんの言いたいこと、分かりましたよ」
「……分かってくれた?」
「はい」
僕が答えると、ヒナギクさんは安心したように溜息を吐いた。
「なら―――」
「でも、やっぱりいきなりは難しいですよ」
だけど、あくまで『理解した』だけ。
ヒナギクさんのように、直ぐに実行に移せるほど、僕は人間出来ていない。
「え……?」
「いやほら、やっぱりどこかで躊躇しちゃうんですよ。今までこの感じでやって来たので、いきなりそれを変えろと言われても簡単には出来ないです」
がっかりしたような呟きがヒナギクさんから聞こえてきて、少しだけ胸が痛んだ。
そりゃ、簡単に変えられることなら変えてやりたい。
彼氏としては、ヒナギクさんの笑顔を見ることが最大級の喜びなのだから。
「じゃあ……無理? やっぱり出来ないの……?」
「そうですね……」
不安そうなヒナギクさんの声を聞くたび、胸に痛みが走る。申し訳なさと痛みで、まさに胸いっぱいだ。
口調を変えるだけ、タメ口になるだけで良いのではないか。
躊躇う理由がどこにある。
簡単なことなのだろう、しかし簡単ではないのだ。
常に下手、下手で生きてきた人間に、そういうことを簡単にすることは出来ない。
漫画や小説のようにはいかないのである。
「口調はこの先ゆっくり直していくとして……とりあえず」
でも、僕だって男だ。
少しは、彼女の願いを叶えるために努力したって良いだろう。
「―――ヒナギク」
「ふぇ?」
だから僕は彼女の名前を呼んだ―――呼び捨てで。
「ハヤテ……君」
「君は要らないんでしょう?」
彼女が大きなアイマスクの下から、窺うようにこちらを見た。
それだけ驚いた、ということだろうか。自分から要求したのに。
「話し言葉を直ぐに変えることは難しいですけど、彼女の名前くらいは、ね」
呼び捨てで呼べるくらいの度胸ならありますので、と僕は苦笑とともに付け加えた。
「だからこれからも長いお付き合い、お願いしますね」
「…………うんっ!」
アイマスクの下からでもはっきり分かるような笑顔で、ヒナギクは笑った。
それを見ると、やっぱりやって良かったと思う。
「さて、じゃあ取り敢えず問題は解決した、ということで良いんですかね?」
「うん。今はそれで満足してあげる」
「それは助かります」
ヒナギクが満足してくれて、一安心だ。
折角これから楽しい同棲生活が始まるというのに、喧嘩などまっぴらごめんだ。
「はぁ……なんだか安心したら眠くなってきちゃった」
「寝ますか?」
「うん……」
安堵の溜息を吐いて、ヒナギクが言う。
高所恐怖症なのに、大分無理をして会話を続けていたのだろう。
安心と疲れから眠くなるのも当然なのかもしれない。
「ごめんハヤテ、少し休むね」
「ええ。ゆっくり休んでください、ヒナギク」
原因の大半は僕に起因しているだけに、やはり申し訳なく思う。
再びアイマスクで表情を隠したヒナギクに言葉を掛けると、
「……?」
左手を握られた。
「ヒナギク?」
「……怖いから、到着するまでずっと手を握ってること。良いわね?」
僕が左手に目をやると、ヒナギクのそんな声が聞こえた。
アイマスクの下から、真っ赤な顔でこちらを睨む彼女の声が。
「はは……わかりました。お姫様」
「お姫様じゃなくて、ヒナギク」
「はいはい」
その姿が余りにも可愛くて、思わず笑ってしまった。
到着するまでずっと、ということは、僕の左手が解放されるのはしばらく後のことになりそうだ。
「お休み、ハヤテ」
「お休みなさい、ヒナギク」
さて、ヒナギクからは直ぐにでも可愛らしい寝息が聞こえてくるだろうし、僕はそれまで何をしようか。
いやいや、やることなんて決まっている。
我ながらアホらしい自問自答。
「―――練習に決まってるよな」
少しでも早く、ヒナギクの要望を叶えられるように。
まずは彼女の名前を、恥ずかしがらずに呼び捨て出来るようにするところから始めよう。
左手の温もりを存分に感じながら、僕の練習は始まるのだった。
…
「―――というお話だったんだけど」
我ながら恥ずかしい話
どうも皆様ご無沙汰です。関ヶ原です。
ここ一ヶ月近く更新できず、フォレストの方ではちょっとした混乱があったようで。
でもそれは完全なデマなのでご心配なく。
やめる気なんて一切起きませんので。
大学二年って思ったより自由な時間ないんですね……侮ってました。
まぁそんなわけで久しぶりの更新なんですが、俺としてはちょっとしたリハビリ小説になるんですかね。
なんで所々おかしい部分もあるかもしれませんが、喜んでいただけたら幸いです。
ではどうぞー☆
『雨の日が続くときには』
最近の天気はおかしい。
空は一面鉛色。
窓の向こうは雨一色。
生憎すぎる空模様に、綾崎アイカはため息をつく。
「いつまで続くんだよぉ…」
季節は五月。下旬とは言え、入梅にはまだ早い時期だ。
「本当だね。いつまで降るのかな?」
アイカを膝に乗せたハヤテが、同意する。
ここ数日の天気は今日のような雨オンリー。
朝起きても雨、帰ってきても雨。
次の日目が覚めても、窓に付く水滴が目に入る。
目に入っては、気が滅入る毎日だった。
気温も低く、今日に限ってはとうとう十度を下回った。
「てるてる坊主も効かないし……パパ、何とかしてー」
大好きな父親の膝の上にいるにもかかわらず、アイカのテンションは気温に相成って低い。
外でも中でも遊ぶのが好きなアイカだが、連日の雨にはすっかり参っているようだ。
「うーん……そうしてやりたいのは山々なんだけどね」
そんなアイカの父だからこそアイカの気持ちは痛いように分かるし、ハヤテ自身、雨のせいで庭の手入れも満足に出来ない状態だったので雨にはそろそろ休んでもらたかった。
「僕じゃちょっと役不足かな……」
しかし天候には勝てない。
時の流れに任せるしか出来ないのだ。
「パパー」
「あはは、ごめん、アイカ」
不満げな娘の声に、ハヤテは苦笑で応えることしか出来ない。
気休めにアイカの頭を撫でてはみるが、
「むぅー……」
「(参ったな……)」
大して意味はないようだ。
これが雲ひとつない青空の下でのことだったら、アイカは猫のように膝に頬を摺り寄せてくるはずなのに。
「本当、イヤになるわねこの雨」
ハヤテがそれでもアイカの頭を撫でていると、洗濯籠を手に持ちながらヒナギクが呟いた。
視線を向けると、アイカと同じしかめ面が目に入る。
「こうも雨が続くと、洗濯物が乾かないのよ」
「そうだね……」
「はぁ……今日も部屋干しするしかないか…」
「手伝おうか?」
「今は遠慮するわ。それよりもアイカをお願い」
私よりも参ってるみたいだから、とヒナギクは言って、洗濯物にハンガーを通し始めた。
「……はぁ」
ハヤテの膝の上では、アイカが何度目かわからないため息をついていた。
「お日様が恋しいよぅ……」
「その言葉には激しく同意」
最愛の娘に妻。この二人の気分が落ち込んでいると、家の雰囲気も空模様のようにどんよりと暗くなる。
一週間近く同じ空しか見てないのだからそれも当然だろう、とハヤテは思う。
同時に、大黒柱として何とかしなければ、とも。
アイカやヒナギクだけではない。
この天気にうんざりしていたのは、二人だけではないのだ。
「………よし」
ハヤテは小さく呟くと、アイカをそっと降ろしながら立ち上がった。
「? パパ?」「ハヤテ? どうかしたの?」
急に立ち上がったハヤテを不思議そうに見つめる二人に微笑みながら、ハヤテは言った。
「遊びに行こう」
「「……へ?」」
「だから、外へ買い物でも行こう」
口を開けて固まる二人に、ハヤテは再び言った。
「家でダラダラしてるから気が滅入るんだよ、きっと」
「それは…そうだけど」
「この雨だよ? どうやって買い物いくの?」
「お嬢様にでも車を借りるさ。それよりアイカ、欲しいものとか食べたいものあるかい?」
「え!? 買ってくれるの!?」
「うん。ここのところアイカはずっと我慢してたから、そのご褒美」
ハヤテの言葉に、ようやくアイカの顔に笑顔が戻った。
「やった! それじゃあね、私が欲しいのはね」
「うん」
「勿論パ―――」
「はいストップ」
目を爛々と輝かせたアイカの口に、ヒナギクが手を当てる。
「アイカ、貴女まだそれを言うか」
「何よー。いいじゃん別に、減るもんじゃないし」
「減るのよ! 主に私への愛情とかが!」
「どの口が言うのよ!?」
「おーい……喧嘩は良くないよー」
まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、いつものじゃれあいを始める二人にハヤテは苦笑を浮かべた。
いつものように、騒がしいけれども賑やかな家族の声が聞こえる。
一週間という短い期間それを聞いていなかっただけなのに、随分と久しぶりに耳にする感じがする。
「……全く」
そのことを嬉しく思いながら、ハヤテは窓から鉛色の空を見上げた。
空の色はまだ暗いし、雨も降っている。
しかし。
「だいたいママはいい年して―――!」
「貴女だってもう三年生のくせに―――!」
先ほどのようなどんよりとした空気は、綾崎家には漂っていない。
あるのは喧騒と、何より、温かさ。
「さて、と…。お嬢様に連絡しなくちゃ」
愛しい家族のじゃれあいをBGMに、ハヤテは携帯電話の電話帳を開き始めた。
今からこの家族と出かけるために。
「あ、お嬢様ですか? ハヤテですけど―――」
この天気の中でも、今みたいに賑やかにしていれば晴れるかもしれない。
もしそうなったのなら本当にお天道様というものは気まぐれだなぁと一人可笑しく思いながら、ハヤテは受話器に耳を当てるのだった。
…
余談。
「……これが欲しいの? アイカ」
「うん! 私はこれが欲しい!」
「そう…」
ナギ(の家)に車を借りて出かけた先で。
アイカが欲しいと指差したのは、一冊の本。
「この人の絵、可愛くて好きなんだ!」
「……そうなんだ」
「……ハヤテ、買ってきなさい」
「だね……」
ヒナギクとの攻防の末に辿り着いたアイカの答えは、本。
本といっても薄っぺらい、大き目のサイズの本なのだが。
「はい、アイカ」
「あは♪ ありがとう! パパ、ママ!」
その本を手にとりながらはしゃぐ娘に、両親は何も言えなくなる。
誰が言えよう。アイカが手にしているのが『同人誌』なのだと。
もしかしたら分かっててアイカは頼んだのかもしれない。
しかし欲しいものの一番が『実父』、次が『同人誌』という娘の思考回路に、ハヤテとヒナギクは不安を覚える。
「……ハヤテ」
「何かな」
「……この娘の方向性を正すのと、この天気を変えるの、どっちが難しいのかしらね」
「……それは言わないでおこう」
娘の嬉しそうな姿を遠い目で見つめながら、ハヤテとヒナギクは深い深いため息をついたのだった。
End
ここ一ヶ月近く更新できず、フォレストの方ではちょっとした混乱があったようで。
でもそれは完全なデマなのでご心配なく。
やめる気なんて一切起きませんので。
大学二年って思ったより自由な時間ないんですね……侮ってました。
まぁそんなわけで久しぶりの更新なんですが、俺としてはちょっとしたリハビリ小説になるんですかね。
なんで所々おかしい部分もあるかもしれませんが、喜んでいただけたら幸いです。
ではどうぞー☆
『雨の日が続くときには』
最近の天気はおかしい。
空は一面鉛色。
窓の向こうは雨一色。
生憎すぎる空模様に、綾崎アイカはため息をつく。
「いつまで続くんだよぉ…」
季節は五月。下旬とは言え、入梅にはまだ早い時期だ。
「本当だね。いつまで降るのかな?」
アイカを膝に乗せたハヤテが、同意する。
ここ数日の天気は今日のような雨オンリー。
朝起きても雨、帰ってきても雨。
次の日目が覚めても、窓に付く水滴が目に入る。
目に入っては、気が滅入る毎日だった。
気温も低く、今日に限ってはとうとう十度を下回った。
「てるてる坊主も効かないし……パパ、何とかしてー」
大好きな父親の膝の上にいるにもかかわらず、アイカのテンションは気温に相成って低い。
外でも中でも遊ぶのが好きなアイカだが、連日の雨にはすっかり参っているようだ。
「うーん……そうしてやりたいのは山々なんだけどね」
そんなアイカの父だからこそアイカの気持ちは痛いように分かるし、ハヤテ自身、雨のせいで庭の手入れも満足に出来ない状態だったので雨にはそろそろ休んでもらたかった。
「僕じゃちょっと役不足かな……」
しかし天候には勝てない。
時の流れに任せるしか出来ないのだ。
「パパー」
「あはは、ごめん、アイカ」
不満げな娘の声に、ハヤテは苦笑で応えることしか出来ない。
気休めにアイカの頭を撫でてはみるが、
「むぅー……」
「(参ったな……)」
大して意味はないようだ。
これが雲ひとつない青空の下でのことだったら、アイカは猫のように膝に頬を摺り寄せてくるはずなのに。
「本当、イヤになるわねこの雨」
ハヤテがそれでもアイカの頭を撫でていると、洗濯籠を手に持ちながらヒナギクが呟いた。
視線を向けると、アイカと同じしかめ面が目に入る。
「こうも雨が続くと、洗濯物が乾かないのよ」
「そうだね……」
「はぁ……今日も部屋干しするしかないか…」
「手伝おうか?」
「今は遠慮するわ。それよりもアイカをお願い」
私よりも参ってるみたいだから、とヒナギクは言って、洗濯物にハンガーを通し始めた。
「……はぁ」
ハヤテの膝の上では、アイカが何度目かわからないため息をついていた。
「お日様が恋しいよぅ……」
「その言葉には激しく同意」
最愛の娘に妻。この二人の気分が落ち込んでいると、家の雰囲気も空模様のようにどんよりと暗くなる。
一週間近く同じ空しか見てないのだからそれも当然だろう、とハヤテは思う。
同時に、大黒柱として何とかしなければ、とも。
アイカやヒナギクだけではない。
この天気にうんざりしていたのは、二人だけではないのだ。
「………よし」
ハヤテは小さく呟くと、アイカをそっと降ろしながら立ち上がった。
「? パパ?」「ハヤテ? どうかしたの?」
急に立ち上がったハヤテを不思議そうに見つめる二人に微笑みながら、ハヤテは言った。
「遊びに行こう」
「「……へ?」」
「だから、外へ買い物でも行こう」
口を開けて固まる二人に、ハヤテは再び言った。
「家でダラダラしてるから気が滅入るんだよ、きっと」
「それは…そうだけど」
「この雨だよ? どうやって買い物いくの?」
「お嬢様にでも車を借りるさ。それよりアイカ、欲しいものとか食べたいものあるかい?」
「え!? 買ってくれるの!?」
「うん。ここのところアイカはずっと我慢してたから、そのご褒美」
ハヤテの言葉に、ようやくアイカの顔に笑顔が戻った。
「やった! それじゃあね、私が欲しいのはね」
「うん」
「勿論パ―――」
「はいストップ」
目を爛々と輝かせたアイカの口に、ヒナギクが手を当てる。
「アイカ、貴女まだそれを言うか」
「何よー。いいじゃん別に、減るもんじゃないし」
「減るのよ! 主に私への愛情とかが!」
「どの口が言うのよ!?」
「おーい……喧嘩は良くないよー」
まるで今までの鬱憤を晴らすかのように、いつものじゃれあいを始める二人にハヤテは苦笑を浮かべた。
いつものように、騒がしいけれども賑やかな家族の声が聞こえる。
一週間という短い期間それを聞いていなかっただけなのに、随分と久しぶりに耳にする感じがする。
「……全く」
そのことを嬉しく思いながら、ハヤテは窓から鉛色の空を見上げた。
空の色はまだ暗いし、雨も降っている。
しかし。
「だいたいママはいい年して―――!」
「貴女だってもう三年生のくせに―――!」
先ほどのようなどんよりとした空気は、綾崎家には漂っていない。
あるのは喧騒と、何より、温かさ。
「さて、と…。お嬢様に連絡しなくちゃ」
愛しい家族のじゃれあいをBGMに、ハヤテは携帯電話の電話帳を開き始めた。
今からこの家族と出かけるために。
「あ、お嬢様ですか? ハヤテですけど―――」
この天気の中でも、今みたいに賑やかにしていれば晴れるかもしれない。
もしそうなったのなら本当にお天道様というものは気まぐれだなぁと一人可笑しく思いながら、ハヤテは受話器に耳を当てるのだった。
…
余談。
「……これが欲しいの? アイカ」
「うん! 私はこれが欲しい!」
「そう…」
ナギ(の家)に車を借りて出かけた先で。
アイカが欲しいと指差したのは、一冊の本。
「この人の絵、可愛くて好きなんだ!」
「……そうなんだ」
「……ハヤテ、買ってきなさい」
「だね……」
ヒナギクとの攻防の末に辿り着いたアイカの答えは、本。
本といっても薄っぺらい、大き目のサイズの本なのだが。
「はい、アイカ」
「あは♪ ありがとう! パパ、ママ!」
その本を手にとりながらはしゃぐ娘に、両親は何も言えなくなる。
誰が言えよう。アイカが手にしているのが『同人誌』なのだと。
もしかしたら分かっててアイカは頼んだのかもしれない。
しかし欲しいものの一番が『実父』、次が『同人誌』という娘の思考回路に、ハヤテとヒナギクは不安を覚える。
「……ハヤテ」
「何かな」
「……この娘の方向性を正すのと、この天気を変えるの、どっちが難しいのかしらね」
「……それは言わないでおこう」
娘の嬉しそうな姿を遠い目で見つめながら、ハヤテとヒナギクは深い深いため息をついたのだった。
End
どうも皆様関ヶ原です。
記念小説を書く傍ら、ちょいちょいと書いていた短文をアップしますね。
つい先日、俺の通う大学で入学式がありました。
スーツを身にまとう新入生の姿に、一年前の自分を重ねていたりしました。
同時に、一年の流れの速さを実感。
来年からは就活も始まり、小説に費やす時間が一時的に少なくなると思うので、限られた時間でいろいろ書いていきたいなと思います。
まぁあくまで短文というスタンスを崩さずに(笑
それではどうぞ~☆
「ねーねーパパ!」
「ん? 何だい、アイカ」
全国各地では桜の花が開き始め、春の季節がやってきた。
白皇学院へ続く桜並木の中をゆっくりと歩きながら、綾崎ハヤテは愛娘のやや興奮したような声に耳を傾ける。
「なんだか嬉しそうだね」
「うん!」
ハヤテの言葉に、愛娘―――綾崎アイカは笑顔で答えた。
「今日ね、一年生が来たんだよ!」
『早すぎる時の流れの中で』
「そうなんだ。そういえば今日は入学式だったね」
「そうなの! 一年生ね、皆ちっちゃくて可愛いの!」
「そうかそうか」
矢継ぎ早に紡がれるアイカの言葉を、ハヤテは一字一句零さずに聞く。
今日はアイカの通う白皇学院初等部の入学式だった。
白皇学院は現在春休みの真っ只中ではあるが、入学式ということでアイカも登校したのだ。
入学式にアイカ達新三年生が出席する必要があるかどうかは別として、だ。
「私もあんなにちっちゃかったのかなぁ…」
「はは。そうだね、あの頃のアイカも小さくて可愛かったよ」
入学当時のことを思い出そうとしているアイカを見て、ハヤテは小さく笑った。
アイカだって十分小さくて可愛らしい。
現にハヤテの言葉に「そ、そっか…」と照れくさそうに笑うその姿は、十分に愛らしいと言えた。
「しかしそっか…アイカももう三年生なんだよなぁ…」
「うん? そうだけど…それがどうかしたの?」
「いや……時が流れるのはあっという間なんだなぁと思ってね」
「?」
意味が良く分からない、といった表情を浮かべるアイカに今度は苦笑を浮かべつつ、ハヤテは視線を桜へ向ける。
「ママと出会って、アイカが生まれたと思ったのがついこの間のことのように思えるんだよ」
白皇学院の大きな桜の木の下で最愛の人と初めて出会ってから、もう十年が経とうとしている。
その間に結婚し、子供が産まれ、小学校に入学したと思ったらもうその入学から三年目を迎えようとしている。
爺臭い、と思うかも知れないが、ハヤテは時の流れの速さをその身で感じている。
「なんだか良く分からないけど、まぁいいや。それでね、一番前に座ってた女の子がね――――」
自分の傍らで新たに出会う後輩の事を嬉しそうに、楽しそうに話すアイカだって、この間まで着慣れない白皇の制服を着るのに四苦八苦していた。
それが今では見事に着こなしている。
そのことがさらに、ハヤテに年月の経過を感じさせた。
「(……本当にあっという間だなぁ)」
小さな頃は一日一日が長く感じられたというのに。
「―――でね……て、聞いてる? パパ?」
「――っと、ごめんごめんアイカ。ちょっとぼぉっとしてた」
「もうっ。ちゃんと聞いててよね!」
「はは……」
少しばかり感傷的になっていたハヤテを、アイカが可愛らしい叱責をする。
その姿が学生時代のヒナギクのようで、思わずハヤテは笑ってしまった。
「あ、あはは……っ」
「? 何笑ってるのよ、パパ」
「いや、ごめんごめん。本当に何でもないんだ」
「……? なら、いいんだけどさ」
訝し気なアイカの視線を受けながら、ハヤテは「そうだよな」と呟いた。
「(こんな可愛い娘が一緒にいるんだ。時が早く流れないわけないじゃないか)」
楽しい時間ほど過ぎるのが早い、とは俗によく言われている。
ならば、楽しい、愛する家族と過ごす日々が、時間が早く過ぎないわけがないではないか。
愛妻のような愛娘に、愛娘のような愛妻。
幼い頃、自分にはなかった者たちだからこそ、経験したことがないからこそ人一倍時の流れを早く感じているのかもしれない。
「こりゃあ一年もあっという間だなぁ……」
「? だからどういうことなのパパぁ……」
「大人になればきっと分かるよ」
早く流れる時の中で、来年も再来年も、こうして家族と一緒に楽しい時間を過ごせたらいい。
そんなことを胸の中で願いながら、ハヤテは小さなアイカの手を握る。
「さぁ帰ろう。遅くなるとヒナギクに怒られるよ」
「まだ明るいけど……あのママなら、ありえる……っ」
「あはは。ヒナギクの前で言っちゃ駄目だぞー」
小鳥の囀りのような娘の話を耳に入れながら、変わらない桜並木をハヤテは歩く。
その足取りは早い時の流れに逆らうかのように、ゆっくりと優しいものだった。
End
記念小説を書く傍ら、ちょいちょいと書いていた短文をアップしますね。
つい先日、俺の通う大学で入学式がありました。
スーツを身にまとう新入生の姿に、一年前の自分を重ねていたりしました。
同時に、一年の流れの速さを実感。
来年からは就活も始まり、小説に費やす時間が一時的に少なくなると思うので、限られた時間でいろいろ書いていきたいなと思います。
まぁあくまで短文というスタンスを崩さずに(笑
それではどうぞ~☆
「ねーねーパパ!」
「ん? 何だい、アイカ」
全国各地では桜の花が開き始め、春の季節がやってきた。
白皇学院へ続く桜並木の中をゆっくりと歩きながら、綾崎ハヤテは愛娘のやや興奮したような声に耳を傾ける。
「なんだか嬉しそうだね」
「うん!」
ハヤテの言葉に、愛娘―――綾崎アイカは笑顔で答えた。
「今日ね、一年生が来たんだよ!」
『早すぎる時の流れの中で』
「そうなんだ。そういえば今日は入学式だったね」
「そうなの! 一年生ね、皆ちっちゃくて可愛いの!」
「そうかそうか」
矢継ぎ早に紡がれるアイカの言葉を、ハヤテは一字一句零さずに聞く。
今日はアイカの通う白皇学院初等部の入学式だった。
白皇学院は現在春休みの真っ只中ではあるが、入学式ということでアイカも登校したのだ。
入学式にアイカ達新三年生が出席する必要があるかどうかは別として、だ。
「私もあんなにちっちゃかったのかなぁ…」
「はは。そうだね、あの頃のアイカも小さくて可愛かったよ」
入学当時のことを思い出そうとしているアイカを見て、ハヤテは小さく笑った。
アイカだって十分小さくて可愛らしい。
現にハヤテの言葉に「そ、そっか…」と照れくさそうに笑うその姿は、十分に愛らしいと言えた。
「しかしそっか…アイカももう三年生なんだよなぁ…」
「うん? そうだけど…それがどうかしたの?」
「いや……時が流れるのはあっという間なんだなぁと思ってね」
「?」
意味が良く分からない、といった表情を浮かべるアイカに今度は苦笑を浮かべつつ、ハヤテは視線を桜へ向ける。
「ママと出会って、アイカが生まれたと思ったのがついこの間のことのように思えるんだよ」
白皇学院の大きな桜の木の下で最愛の人と初めて出会ってから、もう十年が経とうとしている。
その間に結婚し、子供が産まれ、小学校に入学したと思ったらもうその入学から三年目を迎えようとしている。
爺臭い、と思うかも知れないが、ハヤテは時の流れの速さをその身で感じている。
「なんだか良く分からないけど、まぁいいや。それでね、一番前に座ってた女の子がね――――」
自分の傍らで新たに出会う後輩の事を嬉しそうに、楽しそうに話すアイカだって、この間まで着慣れない白皇の制服を着るのに四苦八苦していた。
それが今では見事に着こなしている。
そのことがさらに、ハヤテに年月の経過を感じさせた。
「(……本当にあっという間だなぁ)」
小さな頃は一日一日が長く感じられたというのに。
「―――でね……て、聞いてる? パパ?」
「――っと、ごめんごめんアイカ。ちょっとぼぉっとしてた」
「もうっ。ちゃんと聞いててよね!」
「はは……」
少しばかり感傷的になっていたハヤテを、アイカが可愛らしい叱責をする。
その姿が学生時代のヒナギクのようで、思わずハヤテは笑ってしまった。
「あ、あはは……っ」
「? 何笑ってるのよ、パパ」
「いや、ごめんごめん。本当に何でもないんだ」
「……? なら、いいんだけどさ」
訝し気なアイカの視線を受けながら、ハヤテは「そうだよな」と呟いた。
「(こんな可愛い娘が一緒にいるんだ。時が早く流れないわけないじゃないか)」
楽しい時間ほど過ぎるのが早い、とは俗によく言われている。
ならば、楽しい、愛する家族と過ごす日々が、時間が早く過ぎないわけがないではないか。
愛妻のような愛娘に、愛娘のような愛妻。
幼い頃、自分にはなかった者たちだからこそ、経験したことがないからこそ人一倍時の流れを早く感じているのかもしれない。
「こりゃあ一年もあっという間だなぁ……」
「? だからどういうことなのパパぁ……」
「大人になればきっと分かるよ」
早く流れる時の中で、来年も再来年も、こうして家族と一緒に楽しい時間を過ごせたらいい。
そんなことを胸の中で願いながら、ハヤテは小さなアイカの手を握る。
「さぁ帰ろう。遅くなるとヒナギクに怒られるよ」
「まだ明るいけど……あのママなら、ありえる……っ」
「あはは。ヒナギクの前で言っちゃ駄目だぞー」
小鳥の囀りのような娘の話を耳に入れながら、変わらない桜並木をハヤテは歩く。
その足取りは早い時の流れに逆らうかのように、ゆっくりと優しいものだった。
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