関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。
過度な期待はしないでください。
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どうも、関ヶ原です。
予定通り、新作うpします。
久しぶりのあやさきけ、少し長くなりまして、しかもオチがよくわからないという不幸スパイラル。
しかしやはりアイカを書くのは楽しいですね♪
アイカの存在はぶっちゃけありがたいです(笑
それはさておき、タイトルからもわかるように、今回はハロウィンの話です。
といっても関ヶ原自身ハロウィンというものをしたことがないので、ネットで調べたりするのは面倒だったなぁ……。
まぁそれでも久しぶりのあやさきけ、皆様に楽しんでいただけたら嬉しく思います。
それではどうぞ~♪
「Trick or treat!」
すっかり気温も低くなり、秋も少しずつ深まってきた十月三十一日。
玄関扉を開けた向こう側から、そんな元気の良い声が、綾崎家に響いた。
『ハロウィン』
玄関のチャイムがなり、綾崎ヒナギクが扉を開けると、そこにはカボチャがいた。
人の顔を思わせるようにくり抜かれたオレンジ色のカボチャが、玄関前に立っていたのだ。
思わず固まってしまったヒナギクに向けて放たれたのが、冒頭の台詞であった。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!」
カボチャが、もう一度言う。
今度はご丁寧にも訳されていた。
「……何してるの?アイカ?」
そんなカボチャに、ヒナギクはため息をつきながら問いた。
問いながら、目の前のカボチャに手を掛ける。
「それに不気味だからカボチャは取りなさい」
「あ――!!」
スポッという音とともにカボチャが取れ、中からは見慣れた顔が現れた。
母譲りの桃色の髪、そして父譲りの優しい空色の瞳が特徴的な我らがヒロイン(?)綾崎家のアイカちゃんである。
前作から約二ヶ月。久しぶりの登場だった。
「なんでカボチャとったのよ!?久しぶりだからカッコイイ登場したかったのにぃ!」
「? 何言ってるのよ貴女は?」
「しかも前作だって、私ただ花火してただけじゃん!活躍とかぜんっぜんしてなかったじゃん!!」
「……よく分からないけど、それより早く中に入りなさい?風邪引いちゃうわよ」
涙を浮かべながら訴えるアイカを疑問に思いながらも、ヒナギクはアイカの手を引いて家の中に入っていく。
右手にはアイカが被っていたカボチャが。
よくこんなの被れたわねぇ、と少しばかり感心しながらも、
「あ、そうだアイカ」
「……何よ、ママ」
「おかえりなさい」
帰ってきた愛娘に、ヒナギクは優しく笑いかけた。
…
「それで?このカボチャはどうしたの?」
綾崎家のリビング。
熱々のココアを飲みながら、ヒナギクはアイカに尋ねる。
当然だが、朝見送った時にはこんな目立つものは持っていなかった。
「パパに貰ったの」
「……やっぱり」
アイカから返ってきた言葉に、ヒナギクは小さくため息をついた。
大体予想はついていたのだ。
アイカがカボチャを被り、また玄関で言った言葉から、我が娘はハロウィンが所望なのだと。
しかし白皇でハロウィンへ向けてカボチャを切り抜いているなんて話は聞いていないし、それ以前に小学校低学年に危険な刃物を持たせるとは思えない。
ともなれば、考えられる可能性は限られる。
というか、アイカを迎えにいったはずのハヤテがアイカと一緒にいない時点で、誰の仕業かなどわかっていたのだが。
「だ、だって……可愛かったんだもん!カボチャのお面!そしたらパパが作ってあげるって……」
「はぁ……あの親馬鹿」
あまりにも予想通りの夫の行動に、呆れを通り越して感心してしまう。
流石は自分の愛している男だ。
「それで?そのハヤテはどこに?」
何だか自分がからかわれたみたいでムカつくから、帰ってきたらキスの十回ニ十回でもしてやろう。
そう心に決め、ヒナギクはアイカにハヤテの居場所を問いだす。
「まさかアイカを一人で帰らせるなんてこと、ありえないからまだこの付近にいるのかしら?」
「その……パパは、お屋敷のお仕事がまだ終わってないから……ナギ姉ちゃんの家にいるよ?」
アイカの返事は、なんだか釈然としないものだった。
「? 珍しいわね、ハヤテが仕事を遣り残すなんて」
「いや、その……本当だよねぇ!」
一瞬口籠もったアイカを見て、ヒナギクは何かを感じ取る。
「……アイカ、私に何か隠し事してない?」
「―――っ」
アイカの肩が、僅かに揺れる。
やっぱり、とヒナギクは確信した。
「な、何のことかな……?」
「流石は私とハヤテの子よねー。アイカって凄く分かり易いもの」
「なっ!そ、そんなことないもん!私はミステリアスな女なんだから!!」
「ほぉ。言うじゃない」
アイカは、本当にヒナギク自身に良く似ている娘だと、ヒナギクは思う。
そう、それは決して間違いなどではない。
だからこそ、ヒナギクは知っている。
自分に似ているのだから、弱点も自分ににていることを。
「ねぇアイカ?」
「な、何よママ」
さっ、と警戒のアクションを起こすアイカに、ヒナギクは一枚の写真を手渡す。
「パパの学生時代の女装写真なんだけど……パパの居場所教えてくれたらこれあげるわよ」
「きゃっほーっ!何でも話しますっ!」
自分の娘は、どこかの蝸牛の少女みたいに、馬鹿な子供だった。
…
辺りがすっかり闇に包まれた時刻。
綾崎ハヤテは三千院家の一室で、何やら作業をしていた。
一室、というには広すぎる部屋だった。
それもそうだ。ここは普段、舞踏会などが催される場所なのだから。
「よし……。もう少しだ」
額の汗を拭いながら、ハヤテは呟いた。
ハヤテの手にあるのは、アイカが被っていたものと同様のカボチャの被り物だった。
よく見れば部屋中(この場合は会場と言ったほうが正しいかもしれない)に、くり抜かれたカボチャが置かれたり、飾られたりしている。
どうやらハヤテが持っているカボチャが最後の一つらしく、くり抜かれていないカボチャは一つもない。
「はは……。ヒナギクもまさか、こんなことをするとは思ってもいないだろうな」
そう。ハヤテは密かに、ハロウィンパーティの準備を進めていたのだった。
きっかけは些細なもので、アイカがハロウィンというものをしてみたいと言ったからだった。
本当に些細な、子供の一言なのだが、父親を動かすにはそれだけで十分だった。
ナギに事情を話し、会場としてこの部屋を手配してもらった。
マリアに頼んで、大量のカボチャを提供してもらった。
一樹に頼んで、カボチャをくり抜くのを手伝ってもらった。
このハロウィンパーティは、様々な人たちの協力によって準備されてきたのだ。
予想外だったのは一つだけ。
アイカがこの事を知ってしまったことくらい。
なんてことはない。アイカがナギの屋敷へ遊びに来たとき、まだ未完成だったパーティ会場へ間違って入ってしまったのが原因だ。
「でも……それだけの情報で僕に目星をつけてくるとは……流石僕の娘」
本当、流石はハヤテとヒナギクの娘であった。
因みに、何故アイカがハヤテが企画したこの計画を知ることが出来たのか。
普通娘に追求された位で真実を話してしまうほど、ハヤテの口は軽くないにも拘わらず、アイカがハロウィンパーティを知ることができたのは。
『ねえパパ?パパが何をしているか教えてくれたら、美希姉ちゃんから貰ったママの"ひぞー写真"をあげるよー』
『さてアイカ。何が知りたいんだっけ?パパ何でも答えちゃうよ』
娘も馬鹿な子供だが、父親もさらに馬鹿な大人だった。
「アイカの為の企画だったんだけど……途中からヒナギクの為になってしまったなぁ……」
ヒナギクもハロウィンをしたことがないとのことだったので、途中から綾崎アイカ協力によるヒナギクへのサプライズパーティへとなってしまったハロウィン。
幸い、ここまでヒナギクに感づかれずにこれたようでハヤテは安心していた。
元々アイカを喜ばせるのが目的だった為、アイカに協力を請うのは気が引けたのだが、アイカ曰く『パパやママとハロウィンが出来ればそれだけで嬉しい』らしく、アイカは本当に積極的に協力してくれた。
実はアイカが被っていたカボチャも、ハヤテが今日まで協力してくれたお礼として渡したものだ。
ヒナギクから自分の居場所を聞かれた時は、屋敷の仕事がまだ終わってないからと言うようにと伝えておいたので、最後まで怪しまれるようなことにはならないはず。
自分の娘のことだ。多少ヒナギクに怪しまれても、最後まで隠しとおせるに違いない。
ヒナギクも今頃は家でのんびりと過ごしているだろう。
「さて、それじゃあそろそろ呼びますか」
ハヤテの帰宅が、準備完了の合図。
カボチャの中に立てられた蝋燭に火を点して、ハヤテは会場を後にする。
「ヒナギク……喜ぶかな……」
だが、ハヤテはまだ知らない。
愛する妻と娘の喜ぶ顔を想像しながら、会場の扉を開いた時―――
「「Trick or treat!!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」
―――鮮やかなオレンジ色の二つのカボチャが、お決まりの定型句を言いながらハヤテに抱きついてくることを。
「――――っ!?」
突然のことに、ハヤテは驚きのあまり一瞬声を失った。
扉を開けたら、カボチャがいたからではない。
そのカボチャから、あまりにも聞きなれた声がしたからだ。
愛する者の声を自分が忘れるはずがない。
「…………どうして、ここに……?」
カボチャが取られ、そこから現れた顔はやはりヒナギクだった。
ヒナギクはしてやったり顔で、ハヤテの問いに答える。
「ん~?別に、親切なカボチャさんが教えてくれただけよ♪」
「親切なカボチャって……っ」
ハヤテはハッとし、もう一つのカボチャへ視線を向けた。
ヒナギクの隣にいるカボチャ。
そのカボチャが、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん、パパ」
ばれちゃった、と。
「………マジですか」
「マジですよ」
サプライズハロウィンパーティ、まさかの失敗だった。
流石のハヤテも力が抜けたようで、へなへなと床に腰を下ろしてしまった。
「あ、後一歩だったのに……」
「残念でした♪私に隠し事なんてできないんだから」
ヒナギクはハヤテにそう言って「それよりも」と言葉を続ける。
「ハヤテ」
「………何ですか?」
「えい」
「ん―――っ!」
名前を呼ばれ、ヒナギクの方へ顔を向けたハヤテの唇に、ヒナギクが唇を重ねてきた。
いきなりの不意打ち。
「ぷはっ……ど、どうしたんだいきなり!?」
「えへへ……。私に隠し事した罰よ♪」
戸惑うハヤテに、にっこりとヒナギクは言う。
「私のためにハヤテが内緒で何かしてくれるのって凄く幸せなことなんだけど、でも私は、内緒にしてもらうよりだったら一緒にやりたい」
ちょっと寂しかったわよ、とヒナギクは小さく下を出して苦笑する。
そんなヒナギクに、ハヤテはただ一言、「ごめん」と言った。
「一人で張り切りすぎたよ」
その言葉に、「一人で頑張りすぎよ」とヒナギクは笑う。
「でも、本当にありがとうハヤテ。私とアイカの為に」
「うん!ありがとうパパ!本当に嬉しいよ!!」
「……喜んでもらえて嬉しいよ」
予定とは違ったが、二人を喜ばせることが出来たのだ。
想像していた妻と娘の嬉しそうな笑顔を見て、ハヤテは優しい笑みを浮かべた。
「本当……ありがとう」
「お礼を言うのはこっちなんだから」
「そうだよ!というか、せっかくパパがこんなに素敵な会場準備してくれたんだから、早く始めようよ!!」
アイカの声に、「そうだね」とハヤテは頷く。
「それじゃあそろそろ始めようか、ハロウィンパーティ」
「うん!」
「あ……でもこの会場に三人だけは、少し寂しいんじゃないかしら……?」
「ああ、それなら心配いらないよ。もう少ししたらお嬢様や一樹たちも来るから。だから……今だけは家族三人で……ね」
「ふふ……。そうね、そうしましょうか」
「もう!いつまでしゃべってるのよパパ、ママ!ほら、ママはこれ被る!!」
「はいはい分かったわよ……。もう、せっかちなんだから」
「じゃあ電気消すよ」
少しだけ点いていた会場の明かりを消し、蝋燭の炎の輝きだけが会場を照らす照明道具となった。
美味しそうな料理が並ばれたテーブルの脇で、ハヤテは再び愛するカボチャ二つと対峙する。
「それじゃ、始めましょう」
「うん!」
二人の嬉しそうな表情が、楽しそうな感情が、オレンジ色のカボチャ越しから伝わってくる。
思わず笑みが浮かんでしまうハヤテに、二つのカボチャは、言った。
「「Trick or treat!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」
闇も深まる十月三十一日の夜。
無数のカボチャから漏れるオレンジ色の光に包まれながら。
アイカの、ハヤテの、ヒナギクの、楽しいハロウィンが始まる。
End
予定通り、新作うpします。
久しぶりのあやさきけ、少し長くなりまして、しかもオチがよくわからないという不幸スパイラル。
しかしやはりアイカを書くのは楽しいですね♪
アイカの存在はぶっちゃけありがたいです(笑
それはさておき、タイトルからもわかるように、今回はハロウィンの話です。
といっても関ヶ原自身ハロウィンというものをしたことがないので、ネットで調べたりするのは面倒だったなぁ……。
まぁそれでも久しぶりのあやさきけ、皆様に楽しんでいただけたら嬉しく思います。
それではどうぞ~♪
「Trick or treat!」
すっかり気温も低くなり、秋も少しずつ深まってきた十月三十一日。
玄関扉を開けた向こう側から、そんな元気の良い声が、綾崎家に響いた。
『ハロウィン』
玄関のチャイムがなり、綾崎ヒナギクが扉を開けると、そこにはカボチャがいた。
人の顔を思わせるようにくり抜かれたオレンジ色のカボチャが、玄関前に立っていたのだ。
思わず固まってしまったヒナギクに向けて放たれたのが、冒頭の台詞であった。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!」
カボチャが、もう一度言う。
今度はご丁寧にも訳されていた。
「……何してるの?アイカ?」
そんなカボチャに、ヒナギクはため息をつきながら問いた。
問いながら、目の前のカボチャに手を掛ける。
「それに不気味だからカボチャは取りなさい」
「あ――!!」
スポッという音とともにカボチャが取れ、中からは見慣れた顔が現れた。
母譲りの桃色の髪、そして父譲りの優しい空色の瞳が特徴的な我らがヒロイン(?)綾崎家のアイカちゃんである。
前作から約二ヶ月。久しぶりの登場だった。
「なんでカボチャとったのよ!?久しぶりだからカッコイイ登場したかったのにぃ!」
「? 何言ってるのよ貴女は?」
「しかも前作だって、私ただ花火してただけじゃん!活躍とかぜんっぜんしてなかったじゃん!!」
「……よく分からないけど、それより早く中に入りなさい?風邪引いちゃうわよ」
涙を浮かべながら訴えるアイカを疑問に思いながらも、ヒナギクはアイカの手を引いて家の中に入っていく。
右手にはアイカが被っていたカボチャが。
よくこんなの被れたわねぇ、と少しばかり感心しながらも、
「あ、そうだアイカ」
「……何よ、ママ」
「おかえりなさい」
帰ってきた愛娘に、ヒナギクは優しく笑いかけた。
…
「それで?このカボチャはどうしたの?」
綾崎家のリビング。
熱々のココアを飲みながら、ヒナギクはアイカに尋ねる。
当然だが、朝見送った時にはこんな目立つものは持っていなかった。
「パパに貰ったの」
「……やっぱり」
アイカから返ってきた言葉に、ヒナギクは小さくため息をついた。
大体予想はついていたのだ。
アイカがカボチャを被り、また玄関で言った言葉から、我が娘はハロウィンが所望なのだと。
しかし白皇でハロウィンへ向けてカボチャを切り抜いているなんて話は聞いていないし、それ以前に小学校低学年に危険な刃物を持たせるとは思えない。
ともなれば、考えられる可能性は限られる。
というか、アイカを迎えにいったはずのハヤテがアイカと一緒にいない時点で、誰の仕業かなどわかっていたのだが。
「だ、だって……可愛かったんだもん!カボチャのお面!そしたらパパが作ってあげるって……」
「はぁ……あの親馬鹿」
あまりにも予想通りの夫の行動に、呆れを通り越して感心してしまう。
流石は自分の愛している男だ。
「それで?そのハヤテはどこに?」
何だか自分がからかわれたみたいでムカつくから、帰ってきたらキスの十回ニ十回でもしてやろう。
そう心に決め、ヒナギクはアイカにハヤテの居場所を問いだす。
「まさかアイカを一人で帰らせるなんてこと、ありえないからまだこの付近にいるのかしら?」
「その……パパは、お屋敷のお仕事がまだ終わってないから……ナギ姉ちゃんの家にいるよ?」
アイカの返事は、なんだか釈然としないものだった。
「? 珍しいわね、ハヤテが仕事を遣り残すなんて」
「いや、その……本当だよねぇ!」
一瞬口籠もったアイカを見て、ヒナギクは何かを感じ取る。
「……アイカ、私に何か隠し事してない?」
「―――っ」
アイカの肩が、僅かに揺れる。
やっぱり、とヒナギクは確信した。
「な、何のことかな……?」
「流石は私とハヤテの子よねー。アイカって凄く分かり易いもの」
「なっ!そ、そんなことないもん!私はミステリアスな女なんだから!!」
「ほぉ。言うじゃない」
アイカは、本当にヒナギク自身に良く似ている娘だと、ヒナギクは思う。
そう、それは決して間違いなどではない。
だからこそ、ヒナギクは知っている。
自分に似ているのだから、弱点も自分ににていることを。
「ねぇアイカ?」
「な、何よママ」
さっ、と警戒のアクションを起こすアイカに、ヒナギクは一枚の写真を手渡す。
「パパの学生時代の女装写真なんだけど……パパの居場所教えてくれたらこれあげるわよ」
「きゃっほーっ!何でも話しますっ!」
自分の娘は、どこかの蝸牛の少女みたいに、馬鹿な子供だった。
…
辺りがすっかり闇に包まれた時刻。
綾崎ハヤテは三千院家の一室で、何やら作業をしていた。
一室、というには広すぎる部屋だった。
それもそうだ。ここは普段、舞踏会などが催される場所なのだから。
「よし……。もう少しだ」
額の汗を拭いながら、ハヤテは呟いた。
ハヤテの手にあるのは、アイカが被っていたものと同様のカボチャの被り物だった。
よく見れば部屋中(この場合は会場と言ったほうが正しいかもしれない)に、くり抜かれたカボチャが置かれたり、飾られたりしている。
どうやらハヤテが持っているカボチャが最後の一つらしく、くり抜かれていないカボチャは一つもない。
「はは……。ヒナギクもまさか、こんなことをするとは思ってもいないだろうな」
そう。ハヤテは密かに、ハロウィンパーティの準備を進めていたのだった。
きっかけは些細なもので、アイカがハロウィンというものをしてみたいと言ったからだった。
本当に些細な、子供の一言なのだが、父親を動かすにはそれだけで十分だった。
ナギに事情を話し、会場としてこの部屋を手配してもらった。
マリアに頼んで、大量のカボチャを提供してもらった。
一樹に頼んで、カボチャをくり抜くのを手伝ってもらった。
このハロウィンパーティは、様々な人たちの協力によって準備されてきたのだ。
予想外だったのは一つだけ。
アイカがこの事を知ってしまったことくらい。
なんてことはない。アイカがナギの屋敷へ遊びに来たとき、まだ未完成だったパーティ会場へ間違って入ってしまったのが原因だ。
「でも……それだけの情報で僕に目星をつけてくるとは……流石僕の娘」
本当、流石はハヤテとヒナギクの娘であった。
因みに、何故アイカがハヤテが企画したこの計画を知ることが出来たのか。
普通娘に追求された位で真実を話してしまうほど、ハヤテの口は軽くないにも拘わらず、アイカがハロウィンパーティを知ることができたのは。
『ねえパパ?パパが何をしているか教えてくれたら、美希姉ちゃんから貰ったママの"ひぞー写真"をあげるよー』
『さてアイカ。何が知りたいんだっけ?パパ何でも答えちゃうよ』
娘も馬鹿な子供だが、父親もさらに馬鹿な大人だった。
「アイカの為の企画だったんだけど……途中からヒナギクの為になってしまったなぁ……」
ヒナギクもハロウィンをしたことがないとのことだったので、途中から綾崎アイカ協力によるヒナギクへのサプライズパーティへとなってしまったハロウィン。
幸い、ここまでヒナギクに感づかれずにこれたようでハヤテは安心していた。
元々アイカを喜ばせるのが目的だった為、アイカに協力を請うのは気が引けたのだが、アイカ曰く『パパやママとハロウィンが出来ればそれだけで嬉しい』らしく、アイカは本当に積極的に協力してくれた。
実はアイカが被っていたカボチャも、ハヤテが今日まで協力してくれたお礼として渡したものだ。
ヒナギクから自分の居場所を聞かれた時は、屋敷の仕事がまだ終わってないからと言うようにと伝えておいたので、最後まで怪しまれるようなことにはならないはず。
自分の娘のことだ。多少ヒナギクに怪しまれても、最後まで隠しとおせるに違いない。
ヒナギクも今頃は家でのんびりと過ごしているだろう。
「さて、それじゃあそろそろ呼びますか」
ハヤテの帰宅が、準備完了の合図。
カボチャの中に立てられた蝋燭に火を点して、ハヤテは会場を後にする。
「ヒナギク……喜ぶかな……」
だが、ハヤテはまだ知らない。
愛する妻と娘の喜ぶ顔を想像しながら、会場の扉を開いた時―――
「「Trick or treat!!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」
―――鮮やかなオレンジ色の二つのカボチャが、お決まりの定型句を言いながらハヤテに抱きついてくることを。
「――――っ!?」
突然のことに、ハヤテは驚きのあまり一瞬声を失った。
扉を開けたら、カボチャがいたからではない。
そのカボチャから、あまりにも聞きなれた声がしたからだ。
愛する者の声を自分が忘れるはずがない。
「…………どうして、ここに……?」
カボチャが取られ、そこから現れた顔はやはりヒナギクだった。
ヒナギクはしてやったり顔で、ハヤテの問いに答える。
「ん~?別に、親切なカボチャさんが教えてくれただけよ♪」
「親切なカボチャって……っ」
ハヤテはハッとし、もう一つのカボチャへ視線を向けた。
ヒナギクの隣にいるカボチャ。
そのカボチャが、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん、パパ」
ばれちゃった、と。
「………マジですか」
「マジですよ」
サプライズハロウィンパーティ、まさかの失敗だった。
流石のハヤテも力が抜けたようで、へなへなと床に腰を下ろしてしまった。
「あ、後一歩だったのに……」
「残念でした♪私に隠し事なんてできないんだから」
ヒナギクはハヤテにそう言って「それよりも」と言葉を続ける。
「ハヤテ」
「………何ですか?」
「えい」
「ん―――っ!」
名前を呼ばれ、ヒナギクの方へ顔を向けたハヤテの唇に、ヒナギクが唇を重ねてきた。
いきなりの不意打ち。
「ぷはっ……ど、どうしたんだいきなり!?」
「えへへ……。私に隠し事した罰よ♪」
戸惑うハヤテに、にっこりとヒナギクは言う。
「私のためにハヤテが内緒で何かしてくれるのって凄く幸せなことなんだけど、でも私は、内緒にしてもらうよりだったら一緒にやりたい」
ちょっと寂しかったわよ、とヒナギクは小さく下を出して苦笑する。
そんなヒナギクに、ハヤテはただ一言、「ごめん」と言った。
「一人で張り切りすぎたよ」
その言葉に、「一人で頑張りすぎよ」とヒナギクは笑う。
「でも、本当にありがとうハヤテ。私とアイカの為に」
「うん!ありがとうパパ!本当に嬉しいよ!!」
「……喜んでもらえて嬉しいよ」
予定とは違ったが、二人を喜ばせることが出来たのだ。
想像していた妻と娘の嬉しそうな笑顔を見て、ハヤテは優しい笑みを浮かべた。
「本当……ありがとう」
「お礼を言うのはこっちなんだから」
「そうだよ!というか、せっかくパパがこんなに素敵な会場準備してくれたんだから、早く始めようよ!!」
アイカの声に、「そうだね」とハヤテは頷く。
「それじゃあそろそろ始めようか、ハロウィンパーティ」
「うん!」
「あ……でもこの会場に三人だけは、少し寂しいんじゃないかしら……?」
「ああ、それなら心配いらないよ。もう少ししたらお嬢様や一樹たちも来るから。だから……今だけは家族三人で……ね」
「ふふ……。そうね、そうしましょうか」
「もう!いつまでしゃべってるのよパパ、ママ!ほら、ママはこれ被る!!」
「はいはい分かったわよ……。もう、せっかちなんだから」
「じゃあ電気消すよ」
少しだけ点いていた会場の明かりを消し、蝋燭の炎の輝きだけが会場を照らす照明道具となった。
美味しそうな料理が並ばれたテーブルの脇で、ハヤテは再び愛するカボチャ二つと対峙する。
「それじゃ、始めましょう」
「うん!」
二人の嬉しそうな表情が、楽しそうな感情が、オレンジ色のカボチャ越しから伝わってくる。
思わず笑みが浮かんでしまうハヤテに、二つのカボチャは、言った。
「「Trick or treat!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」
闇も深まる十月三十一日の夜。
無数のカボチャから漏れるオレンジ色の光に包まれながら。
アイカの、ハヤテの、ヒナギクの、楽しいハロウィンが始まる。
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