関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。
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『お昼寝した日の帰り道』
例年のごとく春は去り、夏の足音が近づいてきた。
顔に当たる快い風を感じながら、綾崎アイカは朝の白皇学院を歩いている。
「いい天気だなぁ…」
入梅前の今の気候は非常にすごしやすく、雲ひとつない青空がどこまでも広がっていた。
その青空の感想をぽつり、と零しながら、アイカは立ち止まった。
場所は、一本の桜の木の下。目に入ってくる時計塔は、今日も今日とて大きい。
その木が作る木陰に腰を下ろしながら、アイカは桜を見上げて言う。
「お前も散っちゃったねぇ……」
お前、というのは言うまでもなく桜である。
五月に入った今ではもう散ってしまっているが、少し日付を戻せば、この木は美しく、壮大な桃色を放っていたのだ。
その時の桜と今の様子を比べてしまっての言葉だった。
少しばかり寂しかったのかもしれない。
「ま、来年に期待してるよ。その時はパパを連れてくるから。あ、当然ママは抜きで」
楽しげに桜に語りかける少女は、桜を見上げるような形で寝転んだ。
木の幹を背もたれ代わりにしながら、風に揺れる葉を静かに眺める。
「………」
他の誰もいないこの空間に流れるのは、風と、木々の揺れる音だけだった。
暖かな日差しが作り出す木漏れ日に照らされるアイカは、自然と目が下がっていく。
「…………あ、そういえば、授業……」
言葉に出してはいるが、今やってきている睡魔に立ち向かおうとする気はないようだ。
自然のBGMを聞きながら、やがて少女の口から、静かな寝息が聞こえてきた。
…
「ん………」
それからどれくらい経ったのだろうか、アイカは自分の体が揺れているような気がして、目を覚ました。
「あれ…?私……」
最初に目に入ってきたのは、最後に見た葉っぱたちではなく、『空色』だった。
空色の周りには、鮮やかなオレンジ色が広がっている。
「(今…何時…?)」
昼と夕方が混じったのだろうか、と一瞬思ったが、その『空色』が見覚えのあるものだとアイカは気づいた。
「あ、起きたかい?アイカ」
「パパ……?」
『空色』は、アイカの父の綾崎ハヤテだった。
ハヤテはアイカをおぶりながら、我が家への帰路を歩いていた。
「どうして……?」
まだ意識が覚醒しきれてないのか、虚ろな声色の娘の言葉に、ハヤテは苦笑が混じったような声で答える。
「学校から連絡があったんだ。『アイカちゃんが気持ちよさそうに寝ていますから迎えに来てください』ってね」
「う……」
アイカの頬が赤くなる。『寝てしまったから迎えにきてもらった』という事実が恥ずかしかった。
「全く…、今度は気をつけるんだよ?」
「………はーい」
「ん。よろしい」
素直に頷いたアイカにハヤテは笑顔を浮かべると、首元に乗っかる小さな頭を優しく撫でた。
ごしごし、ごしごし、と。
その心地よさに、アイカは目を猫のように目を細める。
「んー…、パパ、くすぐったいよぉ…」
「ん?そうかな?」
「そうだよー」
「そうかそうか」
ハヤテはアイカに振り向き、笑顔で言った。
「でも、こういうのも悪くないだろ?」
「―――」
夕日に照らされたその顔はとても綺麗で、
「………うん」
赤くなった顔を隠すために、愛しい父の首をぎゅっと抱きしめた。
首筋に顔を埋めたまま、アイカはぽつり、とハヤテに話しかける。
「……ねぇパパ」
「なんだい?」
「……このままお家まで、おんぶしてくれる?」
その声はやっと聞き取れるくらいの小さなものだったが、ハヤテはしっかりと、娘の言葉を聞き取った。
「はは。もちろんですよ、お姫様」
「………ありがと、パパ」
「(こんなことなら何回でもやっちゃおうかな、お昼寝)」
「え?何か言ったかい?」
「な、何でもないっ」
お昼寝をした日の帰り道は、オレンジ色に包まれている。
大好きな人の温もりを腕いっぱいに感じながら、アイカはその背中に顔を埋めたのだった。
End
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