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関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。 過度な期待はしないでください。
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 日本から離れた地で、美しい夜景が眼前に広がる。
 貴方と美しい景色を見るのは二度目で、初めて見た時と、この胸の高鳴りは変わることはない。

「………」

 胸の高鳴りは変わることはないけれど、隣の貴方はどこか遠くを見ている。

 遠い誰かを、私以外の誰かを見ている。


 ―――そんな気がして、胸に小さな痛みが走った。



『A little pain』



 ハヤテ君との夕食会は楽しい一時だった。

本当に、楽しい一時だった。

「好きな人……か」

 そんな楽しかった夕食会の帰り道に聞いた彼の言葉が、今だ私の頭から離れない。

『彼女は僕の好きな人です』

 思えば、昨晩から……ハヤテ君が天王州さんの話を聞いたときから、彼の様子がおかしかった。
 どこへいっても上の空で、常に何かを考えていた。
 それが好きな人のことだったとは、私にも、マリアさんにも、歩にも分からなかったけれど。


「十年も想っていればそりゃああなるわよね……」


 十年、言葉では二文字だけれど、その時間は遥かに永い。
 私がハヤテ君に恋をして早二ヶ月になるが、彼はその何十、何百倍もの時間、彼女に恋をしていたのだから。

 一体彼は十年の中で、どれくらい胸の痛みを堪え続けたのだろう。

 どれだけ悩んだのだろう。

 どれだけ辛い日々を送ったのだろう。

 彼の永い苦しみを、私は理解出来ない。
 理解するには私はまだ小娘だった。

「………ハヤテ君」

 理解出来なかったから、小娘だったから、一人の女性を想う彼の背中を押すことしか出来なかった。

 今頃彼は天王州さんに会いに行っているだろう。
 十年ぶりに再会した彼らは、どんな話をしているのだろうか。

「……わからないなぁ」

 それすらも分からなくて、深夜の部屋で一人自嘲気味に笑う。
 ホテルのプールは私一人が使うには大きすぎた。

「あぁもう、寂しいな」

 あの時彼の背中を押さなかったら、ハヤテ君は私と一緒にいてくれただろうか。
 この広いプールに二人きりでいてくれただろうか。

 今更考えたところで後の祭りだというのは分かっているけれども、どうしてもそんなことを考えてしまう。

 天井の窓から差し込む月の光が、揺れる水面に反射している。
 それが一層、私を孤独にさせた。


「―――あぁそうか、分かった」


 そこで、ようやく分かった。
 彼の気持ちとか、彼女の気持ちとか、彼、彼女の苦しみだとか、そんなことはどうでも良かったのだ、私は。


 ―――私はただ。



「ハヤテ君に傍に居てもらいたかったんだ」



 想いを伝えずとも、彼の傍で、彼を感じられればそれだけで。

 ようやく一つのことが理解出来て、心が少し軽くなったような気がした。



 ―――それでも胸の小さな痛みは、消えることはなかったけれども。



End

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