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関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。 過度な期待はしないでください。
Top ハヤヒナSS あやさきけ イラスト 日記
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ドーモ、ミナ=サン。関ヶ原です。
大変ご無沙汰……ッ! 圧倒的ご無沙汰……ッ!
最近、イラスト中心に活動してたので、久々に短編を書きました。
あやさきけです。短いながらも久々に書きましたので、良かったらどうぞ!






 7月。季節は夏。
 テレビでは全国的に梅雨入り宣言がされ、ニュースのお天気コーナーでは傘マークを見かけることも多くなった頃である。
 その為、東京都の練馬区に居を構える綾崎家でも、梅雨入りの宣言以降は傘を持ち歩くようにしていた。

 ――していた、のだが。

「さあこい、パパよ!」

 本来は雨を凌ぐために使われるべき傘は、少女にその柄を両手で握られ、肩に置かれるように斜めに構えられていた。

「あはは……。ヒナギクに怒られるからあまり感心はしないんだけど」

 意気揚々と傘を構える(使い方が正しいのかは微妙だが)娘の姿に、正面に居るハヤテは苦笑いを浮かべた。
 その右手には紙をガムテープでぐるぐるに巻かれた即興のボールが。

「いくよーアイかー」
「カモンカモン!」

 ハヤテが振りかぶり、アイカが柄を握る手に力を入れる。
 
 もう皆様お分かりであろう。

 二人は今、野球をしていた。




『空梅雨』




 梅雨入りの報道がされてから数週間。全国各地では毎日のように雨の予報がされてはいた。
 しかしここ練馬区では、梅雨入りしたにも関わらず、一向に雨が降る気配がしない。

 いわゆる空梅雨であった。

 梅雨入りしたことには変わらないため、万が一突然の雨に備えて傘を持つようにしていたハヤテにアイカだったが、あまりの雨の降らなさに、とうとう傘を持つ意味を見いだせなくなっていた。
 今日もやはり雨は降らず、学校から帰ってきたアイカは、梅雨入りから一度も使われていない傘をハヤテに向けて、こう言ったのだ。

「野球の時間だあああああああああああ!!」
「は?」

 その結果が、野球である。

「早くー! 早く投げてこーい!」
「全く……どうして私まで」
「あはは……まぁ、最近体動かしてなかったし良いんじゃない?」

 投球動作に入るハヤテの後ろで、守備についているヒナギクがため息を吐いた。
 完全にアイカの鬱憤晴らしに巻き込まれた形である。

「普通にバット使えばいいでしょ」
「いやでも、それだと万が一もあるでしょ?」
「傘だって一緒じゃない」
「そ、それはまぁ……」

 アイカの為とはいえ、主婦業を邪魔してまでヒナギクを引っ張ってきてしまっただけに、ハヤテもたじたじである。
 結婚してから何年経とうが、尻に敷かれるところも変わらないようであった。

「もう。ハヤテに免じて許しますけど」
「きょ、恐縮です。あはは……」

 そして、旦那に甘いところも変わっていないようだ。

「ムキー! なに二人の空間作ってるのよー!」

 加えて、その光景にヤキモチを焼く娘もまた、変わらない。
 傘をヒナギクにビシッと向け、

「こうなったらママ狙うからね! 弾丸ライナー飛ばしてやるんだから!」

 堂々とホームラン宣言ならぬ狙い撃ち宣言である。
 そこまで言われたら、ヒナギクだって黙っちゃいない。

「ふふ、かかってきなさい! 言っても、私のところまでボールを飛ばせるかしら!?」
「なんですってー!」

 この母あっての娘である。負けず嫌いはどちらも同じ。
 球を投げた結果がどうであれ、アイカかヒナギク、どちらか一方がいじけてしまうことは容易に想像出来た。
 そうなってしまうと、もとに戻すのも難しい二人である。

 そこまで似ているのだ。この母娘は。 


「さぁ早く投げてパパ! ソイツ泣かせられない!」
「早く投げなさいハヤテ! その減らず口叩けなくしてやるんだから!」
「アッ、ハイ」

 前からも後ろからもガーガーと捲し立てられたハヤテは、息を一つついて空を見上げた。
 視線の先には、梅雨入りしたにも関わらず、雨の降る気配のない雲一つない青空。 
 
「……雨、降らないかなあ」

 この事態を収拾する一番の方法に、ハヤテは願わずにはいられなかった。


 7月、季節は夏。全国的には梅雨入りである。

 しかしここ練馬区では雨は降らず、とある一家の大黒柱の乾いた笑いだけが、雨のように静かに消えていったのだった。



END

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どうもこんばんわ。関ヶ原です。
今日も小話更新です。
この文量だと一時間もかからずかけるので有難いです。
さて、今回の小話はあやさきけお出かけのお話。
といっても、「車」での会話でございます。もう小説とも呼べないですね。
だからこそ「小話」なんですが。

私の住んでいるところは都会と比べると結構田舎の方で、自動車がなければ移動が不便だったりします。
ですので私も出かける時は自動車がメインなのですが、都会だと逆に自動車が不便だったりしますよね。
まず歩行者が多いですし、右左折するだけでも一苦労です。
それに車線も多いですし、都会では車は運転したくないですねw
でも運転するのは好きなんです。MT車はクラッチやギアチェンジが大変だという人が多いですが、むしろそこがMT車の醍醐味だと私は思います。
ATかMTかは好みの問題ですからねー。でも両者どちらにも言えるのは、安全運転が一番ということですねw
自動車に乗られる方、お互い、運転をする際には最大限の注意を払って運転するようにしましょうね!

あ、私自身車事情にはあまり詳しくない方なので、もし内容に誤りがあった場合は是非教えて下さい!

さて、私の話はこんなトコロで。
それでは小話です。
どうぞ~☆


自動車

 綾崎家は本日お出かけ。
 気温も段々と暖かくなって、春が近いということで、春物の服を買うことになったのである。
 しかし生憎、本日の空は不機嫌のようで、絶賛降雨中である。
 雨の中駅まで歩くのも億劫であるし、せっかくということで、本日は車でのお出かけであった。

「パパの運転も久しぶりだなーっ」
「そういえばそうねえ」

 運転はハヤテ、助手席にヒナギク、そして後部座席にはアイカ。
 電車とは違う乗り物の感覚に、アイカは楽しげな声を上げている。

「都会だと電車の方が便利だからなぁ……こういう時しか車使う機会もないからね」
「ナギの送迎で車は使ってるでしょ?」
「お嬢様の送迎ではね。でも家族の外出で車を使うっていうのはあまりないでしょ?」
「なるほど」

 一つ頷いて、ヒナギクは視線をアイカに向ける。

「だからなのかしらねぇ……我が子のこのはしゃぎっぷりは」
「まあねえ……新鮮なんだろうね。初めて乗るわけでもないのに」

 車窓から見える、ゆっくりと移り変わっていく景色に目を奪われていたアイカは、ヒナギクの視線に不思議そうな表情を浮かべた。

「ん? なぁーに?」
「なんでもないよ」
「そうそう。はしゃぎ過ぎて酔わないようにしなさいね」

 本当に楽しいんだろうなぁ、とアイカの様子にハヤテとヒナギクは苦笑いを浮かべた。
 取り敢えずアイカはこのまま放っておいても良さそうだったので、ヒナギクは話題を車へと移す。

「でも、ちょっと意外だったかな」
「ん? 何が?」
「車」

 そう言ってヒナギクが目を向けたのは、ギアの部分。
 綾崎家の自家用車はAT(オートマチック)車だった。

「男の人って車とか好きみたいだし、ハヤテならAT車じゃなくてMT(マニュアルトランスミッション)車買うと思ってた」
「ああ、そういうことか」

 質問の意図を理解し、ハヤテは言う。

「運転するのは好きなんだけど、車にそこまで拘りを持っているわけではないんだ」
「ほうほう」
「それに、最近はAT車が主流になってきているみたいで、MT車の方が高い場合が多いんだって」
「そうなの?」
「僕も人から聞いた話だから本当かどうかはわからないんだけど……でも確かに、最近見かける車はAT車が多いなって感じだね」
「なるほどねー。希少価値って奴なのかしらね」
「そうかもねー。やっぱり数が少なくなっているんだろうね」
「だからATにしたんだ」
「そういうこと」

 そんな話をしつつ、アイカたちを乗せた車は目的地に向けて走っていく。
 制限速度を守った、安全運転で。

「ねえパパ~。あとどれくらい?」
「うーん……あと二十分もすれば着くかな?」
「じゃあもう少し楽しめるね!」
「あはは。アイカって本当車に乗るの好きなのね」
「うん! ドライブって楽しいよ!」
「それは良かった。運転のし甲斐があるよ」
「もう……調子乗って飛ばしたりしないでね? ハヤテ」
「はいはい分かってるって。綾崎ハヤテ、安全運転を努めさせていただきます」
「ならよし」

 そんな取り留めのない両親の会話を聞きながら、アイカは再び車窓の外へと目を向けた。
 ハヤテが運転する車から見える景色は、ゆっくりと移り変わっていく。
 忙しく景色が変わる電車と比べると、その様子は本当に新鮮なものだった。

「ハッハッハ! もっとゆっくり走ってもいいのだよパパ!」
「それじゃ後方車に迷惑がかかるだろ」

 だからこそ、もう少し車窓から見える外の世界を楽しみたいと思ったのだが、その要望はハヤテの苦笑によって取り下げられた。

「も~。パパのケチ!」
「アイカも車に乗るようになったらわかるから」
「じゃあ乗る!」
「もう少し大きくなってからね~」

 そんな車内での会話を弾ませながら、綾崎家を乗せた車は、目的地へと向かって走る。
 たまには車のお出かけも悪くない。
 そんなことを、家族全員が思った一日だった。


「でも正直、自転車の方がスピード出せて気持ちいいんだよねえ」
「このおバカッ! 安全運転じゃなきゃダメなんだからね!?」



End



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どうも皆様こんばんは、関ヶ原です。
ギリギリ今日も更新です。
小話なので、できるだけ更新できるだけ更新して行きたいそんな今日このごろ。
明日から少し取り込んでしまって、もしかすると更新がまた遅くなるかもしれませんが、ご了承ください!
では話も短めにして。
どうぞ~☆


ツインテール


「髪、伸びてきたなあ」

 とある日曜日の午後。
 春を感じさせる陽気をハヤテがリビングで満喫していると、ソファに腰掛けていたアイカがそんなことを呟いた。
 アイカへ視線を移すと、髪の毛先をつまみながら気だるそうにしていた。

「髪、邪魔ー」
「じゃあ、切ろうか?」
「それもイヤー」
「どっちなんだ……」

 髪は女の命、とは良く言うが、邪魔だと言っておきながら切るとなると嫌だと言う。
 たとえ幼くても、女心とは難しいものである(この場合幼女心とでも言ったほうが良いのだろうか)。
 
「邪魔だけど、切りたくないんだよぅ」
「パパはワケがわからないよ……」
「どうすれば良いんだろうねー」
「だからアイカはどうしたいんだって」

 なんて意味のない問答なんだ、とハヤテは苦笑する。

「髪を切るんだったら、僕が切るけど」
「いやーでもね……魅力的なんだけどね……」

 アイカはアイカで、なんとも曖昧な答えを返す。

 埒があかない。

「うーん……どうしようかね」
「何かいい案ある? パパ」

 親娘揃って首を傾げ、解決策を考える。

「髪を切らなくても、邪魔にならない方法ねえ……」
「あー本当に邪魔だー」

 アイカが気だるそうに両方の髪を一束ずつ掴んで、ぐあーっと上にあげた。
 その姿を見て、ハヤテが「あ」と言葉を漏らす。

「それだよ、アイカ」
「ふぇ?」
「それ」

 ハヤテが指を指したのは、アイカによって上げられている二束の髪である。

「これ?」
「髪型を変えればいいんだよ」
「おおー!」
 
 ハヤテの言葉の意味を理解し、アイカがポン、と手を叩いた。
 アイカは普段、右側の髪を束ねた髪型をしている。
 サイドテールとでも言うのだろうか。

「ツインテールにしてみたらどうだろうか」
「ツインテール!」

 だからこそ、ハヤテはテールの数を増やすことを提案した。
 これならば髪を切らなくても大丈夫なはずだ。
 正直、ハヤテ自身アイカのツインテールを見たいという気持ちもあったのだが。

「この案、どうかな?」
「ツインテール……。いいかも!」
「そう? それなら良かったよ」
「じゃあパパ、早速お願いね?」
「あ、僕がやるんだね」
「もちろん! パパ好みのツインテール、お願いね!」
「はいはい」

 ぽすっ、とアイカはハヤテの膝に腰をおろし、自身の髪をハヤテに委ねた。
 丁寧な手つきで母親譲りの髪を梳かしていく。

「では失礼します、お姫様」
「うむ、苦しゅうない。表を上げい」
「それじゃ殿様だよ」

 そんな取り留めもない会話を交わしながら、無事ツインテールアイカが完成したのだった。
 その後、ハヤテの手によってヒナギクもツインテールにされ、ここにツインテール親娘が生まれたとかなんとか。


End

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どうもこんばんわ。関ヶ原です。
今日も短編すらならない小話的な小説、アップしていきます。
今回は剣道のお話。
というのも、今日お風呂に入っていたら、

「あ、そういやアイカ剣道やってたっけかな……?」

という、数年前に立てた設定を思い出しまして……。
私自身あやさきけの設定を思い出すために、今回の話を書いてみた所存です。
剣道は小学生の頃、二年ほど習っていたことがあります。
今では防具の付け方も忘れてしまいましたが……しかし、バンブーブレードを読んでいると剣道をやっていたころのことを思い出して懐かしい気持ちになったりしますね。
冬の雑巾がけ、きつかったなあ……。

そんなわけで本当に短い内容となっておりますが、三分で出来るカップラーメンを待つ合間にでも読んでいただけると嬉しいです(誰も読んだら三分かかるほどの内容とは言っていない)。
ええ、一分すらかからないかもしれません。でも、量はどうあれ、内容はどうあれ、こうして更新することに意味があると思うんです(震え声)。


そんな言い訳を言いつつ。
ではどうぞ~。


剣道


 とある日。
 アイカとヒナギクは、白皇学院の道場に足を運んでいた。

「というか、私が剣道やってるのってもう忘れられてるよね」
「そういうこと言わないの」

 アイカは時々、こうして白皇学院の道場でヒナギクに剣道の稽古をつけてもらっていた。
 学生時代、文武共に優秀だったヒナギクは、今でも道場に顔をだすと歓迎される。
 今回もその好意に甘えに来たのだった。

「さ、じゃあ稽古始めましょうか」
「うん」

 ストレッチや準備体操を終え、二人は床に座ると、防具をつけはじめた。
 ヒナギクはもちろん、アイカの方も手慣れた手つきで防具をつけていく。

「よし。じゃあ打って来なさい」
「うん。行くよ!」

 掛け声とともに、アイカは竹刀を振り下ろす。
 打込みの稽古だ。
 面、小手、胴、と正確に竹刀を打ち込んでいく。

「そうそう、そういう感じ」

 ヒナギクの言葉に反応せず、ひたすら竹刀を振り下ろす。

「はぁ……はぁ……はぁ…」

 二十分ほど同じ動作を繰り返し、次は連続技の打込みをする。
 面から面、小手から面、小手面から小手面、と色々なパターンで打ち込んでいく。
 このメニューを三十分。
 幼いアイカの体力では、このメニューでも息が上がる。

「よし、じゃあ少し休憩しましょうか」

 アイカの疲労を見て、ヒナギクがそう口にする。

「はぁ……はぁ……う、うん」

 床に再び座り込み、防具を外していく。

「ふはー……きっちぃ」
「大分上手く打ち込めるようになってきたわね」

 息を整えるアイカに、ヒナギクはそう言葉をかけた。
 師からのお褒めの言葉に、アイカの表情が緩む。

「えへへー。なんたってママとパパの子だからねー」 
「全く……調子良いんだから」

 タオルで汗を拭いながら、ヒナギクは苦笑した。
 ヒナギクの教え方が良いのはもちろんだが、アイカ自身、教えられたことをしっかりと踏まえて実践しているからこその上達である。
 努力家なのだ、この娘は。
 もちろん口に出すとアイカが調子に乗るので、口には出さないが。

「でもそうね……これからもしっかりと練習していけば試合させても良いかもね」
「本当!?」
「うん。東宮君あたりなら勝てるんじゃないかしら?」
「ママ、流石にそれは無理だよ~」
「大丈夫よ、彼弱いから」
「(何気に酷いこと言うね……)」

 ヒナギクの言葉に、今度はアイカが苦笑する番だった。
 東宮を哀れに思う。きっと今頃、くしゃみをしているに違いない。

「ま、それだけ上達してるってことよ。だからこれからも精進しなさいな」
「うん! よっし、休憩おわりっ!」

 しかし、東宮に同情するのも一瞬であった。
 ヒナギクの激励に気を良くしたアイカは、急いで防具を付け直し、立ち上がった。
 東宮、実に哀れである。
 頭の片隅に微粒子ほど存在していた東宮への同情をほっぽりだしたアイカは、竹刀をその手に持ち、ヒナギクへビシッと向ける。

「そうと決まればママ! これからは実戦で稽古しようよ!」
「ふふ。調子に乗っちゃって……」
「直ぐに追いぬいてやるんだから!」
「あら? 私の稽古、厳しいわよ?」

 アイカの挑戦に不敵な笑みを浮かべ、ヒナギクも立ち上がる。

「じゃあ……行くよ?」
「ええ。来なさい」

 互いに中段の構えをとり、剣先を相手に向けた。  
 すっ、と息を止め、勢い良く足を前に出す。

「メェ――――ン!」
「コテェ――――!」

 互いを見合うこと数秒後。
 白皇学院の剣道場に、二つの元気な声と、竹刀同士がぶつかり合う音が響いた。


End 

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どうもー関ヶ原です。
最近小話を書くことに嵌りそうです。
短い分時間が短縮出来るので、さくさくかけて嬉Cです。
色んな小ネタを混じれればもっと楽しいので、書いていくうちにやっていければなと思います。
というわけで今回も短めのお話。小ネタといっても良いでしょうが、良ければどうぞ~☆


えっちぃ本

「パパってえっちぃ本持ってないよね」

 午後、優雅なお茶の一時。
 娘の言葉は常に唐突だ。
 唐突というよりも、まさにゲリラ豪雨のように突然放たれたその一言に、綾崎ハヤテとヒナギクは、持っていたティーカップを仲良くテーブルに落とした。
 ティーカップを二つ失った。お気に入りだったのに。

「い、いいいいいいいきなり何を言い出すのよアンタは!?」
「ど、どこで覚えてきたんだその言葉!?」
「え? いや、クラスの男子がそういう話で盛り上がっていて」

 キョトンとしているアイカに、両親は戦慄を覚えた。

「さ、最近の小学生って大人びてるとは思っていたけど……」
「いや、これは「ませてる」と言ったほうが正しいような……」
「男の人って皆、えっちぃ本持ってるんだよね? でもパパの部屋でそういう本見たことないからさー」

 大人びているけれども、まだ「そっちの面」では幼いアイカは、自分の発言の大きさに気づいていない。
 幼いゆえに、恐ろしい。まるで「赤ちゃんの出来方」を聞いてくる子供のように、両親の背中に冷や汗ばかりを流させていく。

「どうして、パパは持っていないの? えっちぃ本」
「え、えええええっちぃなんて言葉使っちゃいけません!」
「そ、そうよアイカ! 子供には子供なりの言葉というものがあるのよ!」
「? どうして使っちゃいけないの?」

 不思議そうに見つめてくるアイカの瞳には、純粋な疑問しか含まれていない。下心とか、そういうものは一切なかった。
 だからこそ言葉に詰まる。
 このまま勢いだけで乗り切ってしまえば、結果的にアイカを叱ることになってしまう。
 アイカは賢い子である。叱られてしまえばその理由を考えてしまうだろうし、さらにその理由が分からなければあらゆる手を使って追究、もしくは追求してくるだろう。

「どどどどーしようハヤテ!? なんて答えたらいいの!?」
「え、えええええ!? ぼ、僕に聞かれても……!」

 だからこそ上手い切り抜け方はないかと小声で二人は作戦を立てようとした。
 しかし学生時代から「そっちの面」には全くといっていいほど耐性がなかった二人だ。こういう時どういう対応をすべきか、その手段を知らなかった。
 アイカという子供を授かっておきながら、何をいまさらという感じではあるが。

「ねえねえ、どうして二人だけでお話してるの? 私も混ぜてよー」
「ちょ、ちょおっと待っててねえアイカ」
「い、今大事なお話をママとしてるところだから……」
「ぶー」

 仲間外れにされたと思ったのだろう、アイカがぶーたれる。
 全く表情がコロコロと変わる子だ。こういうところが凄く愛らしくて困る。
 だからこそ、だからこそ、上手いことこの場を切り抜けなければ、今後の教育にも関わってくる。

「そもそもどうして小学校でえ、えっちな本の話なんて出てくるのよ!?」
「知らないよ!」
「これもハヤテがえ、えっちな本持っていないのが悪いんでしょう!? 持っていたら上手い理由だって言えたのに!」
「ええええええ!? そ、それは理不尽でしょ!? 僕がそういうの持ってないの、君が一番知ってるよね!?」

 悩む、悩む。こういう時、一般的なお父さん、お母さんはどういう切り抜け方をしていたのだろう。
 そもそも両親にそういう話題を振ったことがない二人である。
 アイカを見れば、ぶーたれ具合が加速していた。

「もー! 私も混ぜろおおおおおおお!」
「うわっ! アイカちょっと待ってって!」
「い! や! だああああああああああああああああ!」

 どうすればいいのだろうか、具体的な解決策も出ないまま、綾崎家の優雅な午後の一時は、娘の発言というゲリラ豪雨に飲まれていった。

 結局。

 駅前にある有名なお菓子を買ってあげるということで、この話題をさけた両親なのだった。
 色気よりまだ食い気のほうが大切な娘で助かった。


End
 

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関ヶ原
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自己紹介:
ハヤヒナ小説とかイラスト書いてます。
皆様の暇つぶし程度の文章が今後も書ければいいなぁ。

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