忍者ブログ
関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。 過度な期待はしないでください。
Top ハヤヒナSS あやさきけ イラスト 日記
[2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

どうもご無沙汰、関ヶ原です。
皆様聖なる夜は如何お過ごしでしょうか?
私は一人です。
一人で、ハヤヒナ小説書いてます。
妙な空しさが胸を打ちますけれども、べ、別に気にしてなんかないんだからね!
今月の26にバカテスの新巻が出るそうなので、今から待ち遠しいです。
さて、今回書いた小説はあやさきけ。
今月初小説なんですね。
更新せず申し訳ありません……。

お詫びとなるかどうかは分からないのですが、この拙文をクリスマスプレゼントとしてアップします。
無駄に長くなって、無駄に中身のないようなクリスマスの話です。

俺は一体何が書きたかったのか?

分からないです。

本当に、文章上手に書く才能をください、サンタさん。


それでは皆様、メリークリスマス~☆







 十二月二十四日。
 この日は俗に言うクリスマス・イヴというものだ。
 街に出れば、恋人や子供たちへのプレゼントを選んでいる人たちが多く見られ、店先には装飾されたクリスマスツリーが美しく輝いている。
 二十四日の時点でまだプレゼントを決めかねているのはどうか、とも思うが。

 しかし実のところ、今回焦点を当てる家族の父親と母親も、愛娘へのプレゼントをまだ決めていないのだから、案外そういう家庭も多いのかもしれない。

 まぁそんな話はさておいて。

 焦点を当てるという件の家族。
 綾崎家のヒナギクさんとアイカちゃんは、そんな光り輝く街中を、来るべきクリスマスへ期待を膨らませながらのんびりと歩いていた。



『セイント・デイ』



「はうぅ……ママ、ツリー凄く綺麗だね!」
「ふふ。そうね、凄く綺麗ね」

 様々な色で彩られたツリーを見て興奮する我が娘に、ヒナギクは目を細める。
 普段は父であるハヤテの気を引くために、子供らしからぬ言動や行動を繰り返している娘でも、クリスマスは特別らしい。
 背伸びすることもなく、年相応に来るべきクリスマスを楽しみにしているようでヒナギクも嬉しく思う。

「アイカは今年、サンタさんに何をお願いするのかしら?」
「ん~」
「アイカはいっつも(色んな意味で)頑張ってるから、サンタさんもきっと欲しいものくれると思うわよ」

 ヒナギクとハヤテの、アイカの年くらいのクリスマスは、良い思い出など一切ない。
 聖なる夜の日、二人とも寒空の下、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた。
 だからこそ自分の子供には幸せなクリスマスを送って欲しいのだ、という想いはアイカが生まれ八年が経つ今でも変わっていない。

「ほらほら、ママにだけ教えて?ね?」

 だから、出来る限りのことはしたいのだった。

「な、なんでもいいの……?」
「なんでもいいから、言ってみなさいよ」

 そんなヒナギクの想いが伝わったのか、アイカが恥ずかしそうにヒナギクに尋ねる。

「うん、じゃあ………」

 アイカのその姿に満足そうに頷きながら、ヒナギクは続く言葉を待った。
 何が欲しいのだろう。
 玩具か、お人形か。もしかしたらゲームかもしれない。
 アイカは普段そういうものに欲は出さないので、玩具やお菓子を強請られたことがなかった。
 それ故、欲しいものがある、というアイカの言葉に凄く興味が湧いた。

 ヒナギクに内心期待されながら、アイカは頬を染めて欲しいものを言った。


「パ―――」「却下」

 即答だった。
 まさかの却下宣言に、アイカの空色の瞳が驚愕の色を浮かべながら見開かれる。

「えぇ!?まだ一文字しか言ってないよ!?」
「一文字で十分よ!!どうせ同じ文字がもう一つ続くんでしょ!?」

 アイカの体が強張った。

「そ、そんなことないよぉ……?『パイナポー』って言おうとしたんだもん」
「なんでクリスマスにパイナップル頼むのよ。そんなこと言ったら本当に持ってくるわよサンタさん」
「あぁっ!う、嘘ですクリスマスジョークですよサンタさん!本当はパパって言おうとしたんだよう!」
「どんなジョークよ」

 笑えなさ過ぎるジョークにも程があった。

「というかやっぱりハヤテだったんじゃない」
「だ、だって私頑張ったから、何でも欲しいものくれるんでしょ!?だったらパパでも………」
「いくらサンタさんだって、人の物はくれないわよ」
「今さらっとパパを物扱いしたよね」
「ハヤテは私の物。私はハヤテの物。そしてアイカは私とハヤテの宝物よ」
「う……恥ずかしいよママ」

 アイカが照れくさそうに、けれども嬉しそうに頬を染めた。
 そんなアイカに、ヒナギクは苦笑しながら諭す。

「だからね、アイカ。アイカがいくら欲しいって言っても、サンタさんはハヤテをくれないのよ」
「うぅ……」
「他の物にしたほうがサンタさんだってきっと助かると思うわよ」
「……ママに言っていることが『むじゅん』しているように思うんだけど」
「気のせいよ」

 ヒナギクの言葉にまだ納得していない様子のアイカだったのだが、「しょうがないなぁ」と、ハヤテの代わりとなるプレゼントを検討し始める。

「パパ以外で、欲しいものかぁ……」

 会話だけ聞いているとまるで私とアイカに父親がいないように聞こえるわ、とアイカを眺めながらヒナギクは思う。
 ハヤテに対し、少しばかり罪悪感。
 今、家でクリスマスのご馳走を作っている夫に永遠の愛を捧げながら、ヒナギクは再びアイカの方へと意識を向けた。


 アイカはまだ悩んでいる最中だった。


「うーん……」
「まだ決まらないの?」
「うん……。だって何にも思い浮かばないんだもん……」
「どこまで欲のない子供なのかしら……」

 ハヤテ以外に欲しいものがないという我が娘に、ヒナギクは呆れを通り越して感心する。
 現代の子供で、ここまで欲のない子供というのはいないのではないだろうか。

「うーん。困ったわねぇ……」
「? どうしてママが困るの?」
「え!?い、いや……ママにも色々あるのよ」
「そうなんだ~」

 折角プレゼントをしようと思っても、欲しいものがないのだから仕様がない。
 そういえば今までのクリスマスも、このようにプレゼントに悩んでいたような気がする。

 いつもプレゼントが決まるのはギリギリ。
 いや、今まで聞かなかった自分たちも悪いのだが。

「(八歳にもなれば欲しいものの一つや二つは出来るだろうと思っていたけど……迂闊だったわ)」

 アイカの方を見れば、アイカは再びプレゼントについて考え始めているようだった。

「う~ん……」
「……ねぇアイカ、本当に欲しいもの、ないの?」
「だからパ―――」「それ以外で」
「うぅぅぅぅぅ………」
「はぁ………クリスマスに欲しいものが何もなくて悩んでいるのは、アイカくらいよ」

 何とかプレゼントを思い浮かべさせようと催促する。
 しかしアイカは首を何回か傾げたものの、やはり思い浮かばないようだった。
 その様子に思わずヒナギクは肩が下がる。

「ねぇママ……」
「どうしたの?欲しいもの、あった?」
「ううん、思いつかない」
「そう……」

 だが、次のアイカの言葉で、下がった肩が少しだけ、上がった。

「私はね、ママ」
「ん?」
「パパが貰えないんだったら……パパとママと一緒に過ごせたら、それでいいんだもん」
「え……?」
「欲しいものなんてないし、今のまま、ずっと一緒にいれたらそれで私は充分だもん」
「でも、それじゃサンタさんへお願い事は……」

 少しばかり戸惑いが含まれたヒナギクの言葉に、花が咲いたような笑顔で、アイカは答えた。


「欲しい物が出来るまで、とっておく!」
「………は?」
「で、欲しいものが出来たときにね、一杯欲しいもの貰うんだ!『今までのツケ、りしつけてかえせや~』って紙に書いて」
「どれだけ嫌な子供なのよ、それ……」
「いいの!サンタさんのお仕事が楽になるんだから。サンタさんも幸せ、私も幸せ。幸せスパイラル、だよ!」
「いや、アイカ貴女サンタさんの生き甲斐奪ってるようなものよ?サンタさん来ないのに幸せっていえるアイカって、たまに凄いと思うわ……」

 ヒナギクは本日何度目かの、深いため息をつく。しかし。

「(でも……)」

 何故だろうか。アイカの言葉は、どんなものが欲しいと言われるよりも、一番しっくりきた。
 『家族と仲良く過ごす』なんて、サンタさんに普通は頼まない。

「でも、ある意味サンタさんへのお願い事よね……?」

 考えてみれば、自分たちはアイカの両親であると同時に、アイカ専属のサンタクロースではないか。
 両親と一緒に仲良く楽しく過ごしたい、とヒナギクに言うこと、それはサンタへのお願いと言っても間違いではない。

 なんだ。この娘は、しっかりとお願いしてくれたじゃないか。
 無理に考えたわけでもなく、純粋に、心から願ってくれたサンタへのお願い事。
 嬉しくて、頬が緩んでくる。

「ねぇアイカ」
「ん?何?」

 こちらに顔を向けてくる我が娘に、ヒナギクは優しく微笑みながら、言った。


「ありがとう」
「? どういたしまして?」
「ふふ……」
「?」


 アイカが不思議そうな表情を浮かべるが、ヒナギクは気にしない。
 理由を聞かれたところで、サンタである自分は答えることなど出来ないのだから。


「さて!帰ろうか!」
「え?いや、もうすぐお家着くけど……」
「ふふふ。愛しのパパが美味しい料理を作って待ってるんだからね~」
「それは楽しみ!」


 アイカの小さな手を引いて、ヒナギクは歩く速度を速めた。
 早く家に帰って、ゆっくりと、楽しく過ごしたかったから。

 アイカの願いを叶えるため。
 アイカへ、サンタからのクリスマスプレゼントを与えるため。

 ………少しばかりは、ヒナギク自身のため。





「「ただいま!」」
「お帰り~。料理もうすぐ出来るから、もうちょっと待っててね」
「うん!」
「手伝うわ。ねぇハヤテ」
「ん?」
「今日は家族三人、一緒に寝ない?」
「へ?別に全然いいけど……どうして?」
「ふふっ……。プレゼントのため、よ!」
「はぁ……良く分からないけど、うん。僕も久しぶりに皆で寝たいし、こっちからお願いするよ」
「決定ね♪」
「ところで……なんでそんなに上機嫌なの?何か良いことでもあった?」
「さぁ?イヴだからじゃない?」
「………?今日のヒナギクは良く分からないや……」
「ふふ………。さて、料理も出来たことだし、そろそろ始めましょうか!」
「そうだね」
「アイカ―――!ご飯出来たわよ―――!!」
「はぁい!!今行く―――!!」





 家に帰って料理を食べて。
 家族で仲良く寄り添って、クリスマス・イヴを過ごすこと。
 それは、アイカが望んだ願いごとであり、ずっと昔に聖夜の寒空へ呟いた、ヒナギクの願いでもあった。

 その願いが今こうして叶っているのは、ひょっとしたらサンタが自分へくれたプレゼントなのではないだろうか。


「全く……この歳になって、何を考えているのやら、私は……」


 そんなことを思う自分に思わず苦笑してしまう。
 欲しいものがない、という娘のことを言えないじゃないか。


「本当に困ったものだわ……クリスマスって……」


 寝ている二人を起こさぬよう、静かに布団からヒナギクは抜け出す。
 そして窓を開ければ。


「あ……雪………」


 空から深深と降る氷の結晶に、ヒナギクはしばし見とれる。
 ホワイトクリスマス。
 物語にしては、出来すぎる展開だった。


「これもサンタさんの力なのかしらね……?」



 その声に答えるものは、静かな寝息を立てていて。


「………本当、ステキな聖夜だわ」


 その音をBGMに、雪の降る聖夜の夜空を、心穏やかにヒナギクは見上げるのだった。






End

拍手[1回]

PR
 どうも、関ヶ原です。
 予定通り新作upします。
 今回の小説はあやさきけ。前回と比べ、かなり文量は少なくなってしまいましたがご了承を……。
 そして真司さん、お誕生日おめでとうございます。
 いつもお世話になってます。これからもよろしくです!
 小説がこんなに短いもので申し訳なかったです……。

 あ、ハヤテもお誕生日おめでとう~(わーぱちぱち)
 綾崎ハヤテ君には長い間このサイトでヒナと頑張ってくれてるからね、ハヤテの誕生日記念小説も書くよ。
 うん、今月二作目は決定。
 ハヤテの記念小説だーー!!
 次回はアイカはお休みで、ハヤヒナにします。

 では、どうぞ~☆





 十一月の上旬だというのに、天気予報では全国各地で雪が降るかもしれないと言っていた。
 今朝耳にしたそんな天気予報を思い出しながら、父の迎えを少女は教室で待つ。
 下校時間が近づいたからか、教室に温かな空気を送っていた暖房は消え、急激に寒さが広がっていく。
 「寒い」、と一言呟き、窓を見れば、コートを羽織った見慣れた姿が目に入る。
 その姿を窓からじっと見ていると、その人物はこちらに気づいたようで手を振ってきた。

 『お待たせ』と。

 少女は「遅いぞ、バカ父」と呟きながら、急ぎ足で下へと向かった。




『冬の足音』





 外へ出て空を見ると、鉛色をした空が徐に進んでいた。
 その空を見て、少女は呟く。

 「寒い」と。

 青空色の瞳に、桜色の髪を持つ少女は、我等が綾崎アイカである。
 アイカは肌に当たる風に体を少し震わせると、「寒い」ともう一度呟いた。

「どうしてこんなに寒いんだろう?」

 そんなアイカの問いに、傍らを歩いていたバカ父――綾崎ハヤテは答える。

「雪が降るかもって予報で言ってたからね。アイカも風邪には気をつけるんだよ」
「うん、りょーかい」

 ハヤテの言葉にアイカは頷いたところで、

「………」
「どうかした?アイカ」
「ん」

 自分の手を見て、それをハヤテの前にずいっと差し出す。


「お手々」
「あぁ、ごめんごめん」


 アイカの行動を察したハヤテが手を握る。

「ん。よろしい」

 満足げに頷いて、握られた手をアイカの方も握り返した。
 外はこんなにも寒いのに、父の手は温かい。

「外はこんなに寒いのに、パパの手はあったかいね」

 思ったことを素直に口に出すと、父は「ありがとう」と優しく微笑んだ。

「アイカの手も温かいよ」
「ありがと」

 ハヤテの言葉にアイカは笑顔になる。
 先ほどまでは外の寒さに顔をしかめていたというのに。

 単純な奴だなぁ、とアイカは自身に苦笑してしまう。
 大好きな人と手を繋ぐ。

 たったそれだけで、こんなにも身体と心は温まるのだから。

「えへへ」

 アイカはハヤテの手をもう一度ぎゅ、と握ると、鉛色の空を見上げて、言う。

「今日は暖かいね」
「え?」
「暖かいの」

 頭に疑問符を浮かべる父を横目で楽しそうに見ながら、アイカはハヤテに言葉をかけた。

「早く帰ろう?ママが待ってるし」
「……その割にはやけにゆっくりな足取りだね」
「気のせいだよ、きっと」

 かけた言葉と裏腹な娘の行動に、ハヤテは苦笑するしかない。

「そっか」

 それでも娘の小さな手はしっかりと握って、ハヤテもアイカの歩幅に合わせながら歩きだした。

 家まであとどれくらいなのか、よく分からない帰り道を。
 父の、娘の暖かさを手の平で感じながら、二人は仲良く進む。


 ゆっくり、ゆっくりと進む二人の足音は、だんだんと近づいている、冬の足音に似ている気がした。



End

拍手[0回]

 どうも、関ヶ原です。
 予定通り、新作うpします。
 久しぶりのあやさきけ、少し長くなりまして、しかもオチがよくわからないという不幸スパイラル。
 しかしやはりアイカを書くのは楽しいですね♪
 アイカの存在はぶっちゃけありがたいです(笑

 それはさておき、タイトルからもわかるように、今回はハロウィンの話です。
 といっても関ヶ原自身ハロウィンというものをしたことがないので、ネットで調べたりするのは面倒だったなぁ……。
 まぁそれでも久しぶりのあやさきけ、皆様に楽しんでいただけたら嬉しく思います。

 それではどうぞ~♪






「Trick or treat!」

 すっかり気温も低くなり、秋も少しずつ深まってきた十月三十一日。
 玄関扉を開けた向こう側から、そんな元気の良い声が、綾崎家に響いた。




『ハロウィン』




 玄関のチャイムがなり、綾崎ヒナギクが扉を開けると、そこにはカボチャがいた。
 人の顔を思わせるようにくり抜かれたオレンジ色のカボチャが、玄関前に立っていたのだ。

 思わず固まってしまったヒナギクに向けて放たれたのが、冒頭の台詞であった。

「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!」

 カボチャが、もう一度言う。
 今度はご丁寧にも訳されていた。

「……何してるの?アイカ?」

 そんなカボチャに、ヒナギクはため息をつきながら問いた。
 問いながら、目の前のカボチャに手を掛ける。

「それに不気味だからカボチャは取りなさい」
「あ――!!」

 スポッという音とともにカボチャが取れ、中からは見慣れた顔が現れた。
 母譲りの桃色の髪、そして父譲りの優しい空色の瞳が特徴的な我らがヒロイン(?)綾崎家のアイカちゃんである。

 前作から約二ヶ月。久しぶりの登場だった。


「なんでカボチャとったのよ!?久しぶりだからカッコイイ登場したかったのにぃ!」
「? 何言ってるのよ貴女は?」
「しかも前作だって、私ただ花火してただけじゃん!活躍とかぜんっぜんしてなかったじゃん!!」
「……よく分からないけど、それより早く中に入りなさい?風邪引いちゃうわよ」


 涙を浮かべながら訴えるアイカを疑問に思いながらも、ヒナギクはアイカの手を引いて家の中に入っていく。
 右手にはアイカが被っていたカボチャが。

 よくこんなの被れたわねぇ、と少しばかり感心しながらも、

「あ、そうだアイカ」
「……何よ、ママ」
「おかえりなさい」

 帰ってきた愛娘に、ヒナギクは優しく笑いかけた。



 …



「それで?このカボチャはどうしたの?」

 綾崎家のリビング。
 熱々のココアを飲みながら、ヒナギクはアイカに尋ねる。
 当然だが、朝見送った時にはこんな目立つものは持っていなかった。

「パパに貰ったの」
「……やっぱり」

 アイカから返ってきた言葉に、ヒナギクは小さくため息をついた。
 大体予想はついていたのだ。
 アイカがカボチャを被り、また玄関で言った言葉から、我が娘はハロウィンが所望なのだと。
 しかし白皇でハロウィンへ向けてカボチャを切り抜いているなんて話は聞いていないし、それ以前に小学校低学年に危険な刃物を持たせるとは思えない。
 ともなれば、考えられる可能性は限られる。
 というか、アイカを迎えにいったはずのハヤテがアイカと一緒にいない時点で、誰の仕業かなどわかっていたのだが。

「だ、だって……可愛かったんだもん!カボチャのお面!そしたらパパが作ってあげるって……」
「はぁ……あの親馬鹿」

 あまりにも予想通りの夫の行動に、呆れを通り越して感心してしまう。
 流石は自分の愛している男だ。

「それで?そのハヤテはどこに?」

 何だか自分がからかわれたみたいでムカつくから、帰ってきたらキスの十回ニ十回でもしてやろう。
 そう心に決め、ヒナギクはアイカにハヤテの居場所を問いだす。

「まさかアイカを一人で帰らせるなんてこと、ありえないからまだこの付近にいるのかしら?」
「その……パパは、お屋敷のお仕事がまだ終わってないから……ナギ姉ちゃんの家にいるよ?」

 アイカの返事は、なんだか釈然としないものだった。

「? 珍しいわね、ハヤテが仕事を遣り残すなんて」
「いや、その……本当だよねぇ!」

 一瞬口籠もったアイカを見て、ヒナギクは何かを感じ取る。

「……アイカ、私に何か隠し事してない?」
「―――っ」

 アイカの肩が、僅かに揺れる。
 やっぱり、とヒナギクは確信した。

「な、何のことかな……?」
「流石は私とハヤテの子よねー。アイカって凄く分かり易いもの」
「なっ!そ、そんなことないもん!私はミステリアスな女なんだから!!」
「ほぉ。言うじゃない」

 アイカは、本当にヒナギク自身に良く似ている娘だと、ヒナギクは思う。
 そう、それは決して間違いなどではない。
 だからこそ、ヒナギクは知っている。
 自分に似ているのだから、弱点も自分ににていることを。

「ねぇアイカ?」
「な、何よママ」

 さっ、と警戒のアクションを起こすアイカに、ヒナギクは一枚の写真を手渡す。

「パパの学生時代の女装写真なんだけど……パパの居場所教えてくれたらこれあげるわよ」
「きゃっほーっ!何でも話しますっ!」

 自分の娘は、どこかの蝸牛の少女みたいに、馬鹿な子供だった。



 …



 辺りがすっかり闇に包まれた時刻。
 綾崎ハヤテは三千院家の一室で、何やら作業をしていた。
 一室、というには広すぎる部屋だった。
 それもそうだ。ここは普段、舞踏会などが催される場所なのだから。

「よし……。もう少しだ」

 額の汗を拭いながら、ハヤテは呟いた。
 ハヤテの手にあるのは、アイカが被っていたものと同様のカボチャの被り物だった。
 よく見れば部屋中(この場合は会場と言ったほうが正しいかもしれない)に、くり抜かれたカボチャが置かれたり、飾られたりしている。
 どうやらハヤテが持っているカボチャが最後の一つらしく、くり抜かれていないカボチャは一つもない。

「はは……。ヒナギクもまさか、こんなことをするとは思ってもいないだろうな」

 そう。ハヤテは密かに、ハロウィンパーティの準備を進めていたのだった。
 きっかけは些細なもので、アイカがハロウィンというものをしてみたいと言ったからだった。
 本当に些細な、子供の一言なのだが、父親を動かすにはそれだけで十分だった。
 ナギに事情を話し、会場としてこの部屋を手配してもらった。
 マリアに頼んで、大量のカボチャを提供してもらった。
 一樹に頼んで、カボチャをくり抜くのを手伝ってもらった。

 このハロウィンパーティは、様々な人たちの協力によって準備されてきたのだ。
 予想外だったのは一つだけ。
 アイカがこの事を知ってしまったことくらい。
 なんてことはない。アイカがナギの屋敷へ遊びに来たとき、まだ未完成だったパーティ会場へ間違って入ってしまったのが原因だ。

「でも……それだけの情報で僕に目星をつけてくるとは……流石僕の娘」

 本当、流石はハヤテとヒナギクの娘であった。
 因みに、何故アイカがハヤテが企画したこの計画を知ることが出来たのか。
 普通娘に追求された位で真実を話してしまうほど、ハヤテの口は軽くないにも拘わらず、アイカがハロウィンパーティを知ることができたのは。



『ねえパパ?パパが何をしているか教えてくれたら、美希姉ちゃんから貰ったママの"ひぞー写真"をあげるよー』
『さてアイカ。何が知りたいんだっけ?パパ何でも答えちゃうよ』


 娘も馬鹿な子供だが、父親もさらに馬鹿な大人だった。



「アイカの為の企画だったんだけど……途中からヒナギクの為になってしまったなぁ……」

 ヒナギクもハロウィンをしたことがないとのことだったので、途中から綾崎アイカ協力によるヒナギクへのサプライズパーティへとなってしまったハロウィン。
 幸い、ここまでヒナギクに感づかれずにこれたようでハヤテは安心していた。
 元々アイカを喜ばせるのが目的だった為、アイカに協力を請うのは気が引けたのだが、アイカ曰く『パパやママとハロウィンが出来ればそれだけで嬉しい』らしく、アイカは本当に積極的に協力してくれた。
 実はアイカが被っていたカボチャも、ハヤテが今日まで協力してくれたお礼として渡したものだ。


 ヒナギクから自分の居場所を聞かれた時は、屋敷の仕事がまだ終わってないからと言うようにと伝えておいたので、最後まで怪しまれるようなことにはならないはず。
 自分の娘のことだ。多少ヒナギクに怪しまれても、最後まで隠しとおせるに違いない。
 ヒナギクも今頃は家でのんびりと過ごしているだろう。

「さて、それじゃあそろそろ呼びますか」

 ハヤテの帰宅が、準備完了の合図。
 カボチャの中に立てられた蝋燭に火を点して、ハヤテは会場を後にする。

「ヒナギク……喜ぶかな……」


 だが、ハヤテはまだ知らない。
 愛する妻と娘の喜ぶ顔を想像しながら、会場の扉を開いた時―――


「「Trick or treat!!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」


 ―――鮮やかなオレンジ色の二つのカボチャが、お決まりの定型句を言いながらハヤテに抱きついてくることを。


「――――っ!?」

 突然のことに、ハヤテは驚きのあまり一瞬声を失った。
 扉を開けたら、カボチャがいたからではない。
 そのカボチャから、あまりにも聞きなれた声がしたからだ。
 愛する者の声を自分が忘れるはずがない。


「…………どうして、ここに……?」

 カボチャが取られ、そこから現れた顔はやはりヒナギクだった。
 ヒナギクはしてやったり顔で、ハヤテの問いに答える。

「ん~?別に、親切なカボチャさんが教えてくれただけよ♪」
「親切なカボチャって……っ」

 ハヤテはハッとし、もう一つのカボチャへ視線を向けた。
 ヒナギクの隣にいるカボチャ。
 そのカボチャが、申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん、パパ」

 ばれちゃった、と。

「………マジですか」
「マジですよ」

 サプライズハロウィンパーティ、まさかの失敗だった。
 流石のハヤテも力が抜けたようで、へなへなと床に腰を下ろしてしまった。

「あ、後一歩だったのに……」
「残念でした♪私に隠し事なんてできないんだから」


 ヒナギクはハヤテにそう言って「それよりも」と言葉を続ける。

「ハヤテ」
「………何ですか?」
「えい」
「ん―――っ!」

 名前を呼ばれ、ヒナギクの方へ顔を向けたハヤテの唇に、ヒナギクが唇を重ねてきた。
 いきなりの不意打ち。

「ぷはっ……ど、どうしたんだいきなり!?」
「えへへ……。私に隠し事した罰よ♪」

 戸惑うハヤテに、にっこりとヒナギクは言う。

「私のためにハヤテが内緒で何かしてくれるのって凄く幸せなことなんだけど、でも私は、内緒にしてもらうよりだったら一緒にやりたい」

 ちょっと寂しかったわよ、とヒナギクは小さく下を出して苦笑する。
 そんなヒナギクに、ハヤテはただ一言、「ごめん」と言った。
 

「一人で張り切りすぎたよ」

 その言葉に、「一人で頑張りすぎよ」とヒナギクは笑う。

「でも、本当にありがとうハヤテ。私とアイカの為に」
「うん!ありがとうパパ!本当に嬉しいよ!!」
「……喜んでもらえて嬉しいよ」

 予定とは違ったが、二人を喜ばせることが出来たのだ。
 想像していた妻と娘の嬉しそうな笑顔を見て、ハヤテは優しい笑みを浮かべた。

「本当……ありがとう」
「お礼を言うのはこっちなんだから」
「そうだよ!というか、せっかくパパがこんなに素敵な会場準備してくれたんだから、早く始めようよ!!」


 アイカの声に、「そうだね」とハヤテは頷く。

「それじゃあそろそろ始めようか、ハロウィンパーティ」
「うん!」
「あ……でもこの会場に三人だけは、少し寂しいんじゃないかしら……?」
「ああ、それなら心配いらないよ。もう少ししたらお嬢様や一樹たちも来るから。だから……今だけは家族三人で……ね」
「ふふ……。そうね、そうしましょうか」
「もう!いつまでしゃべってるのよパパ、ママ!ほら、ママはこれ被る!!」
「はいはい分かったわよ……。もう、せっかちなんだから」
「じゃあ電気消すよ」


 少しだけ点いていた会場の明かりを消し、蝋燭の炎の輝きだけが会場を照らす照明道具となった。
 美味しそうな料理が並ばれたテーブルの脇で、ハヤテは再び愛するカボチャ二つと対峙する。

「それじゃ、始めましょう」
「うん!」

 二人の嬉しそうな表情が、楽しそうな感情が、オレンジ色のカボチャ越しから伝わってくる。
 思わず笑みが浮かんでしまうハヤテに、二つのカボチャは、言った。



「「Trick or treat!お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!?」」



 闇も深まる十月三十一日の夜。

 無数のカボチャから漏れるオレンジ色の光に包まれながら。

 アイカの、ハヤテの、ヒナギクの、楽しいハロウィンが始まる。





End

拍手[2回]

 どうもお久しぶり、関ヶ原です。
 皆様お待たせいたしました。新作です。
 相変わらず文章にまとまりがありません。ハヤヒナ小説四年も書いてきてまったく進歩がないとは落ち込みます。
 話は変わりますが、それにしてもバイトとは大変ですが面白いものですね。
 色々な方と交流できるので、自身の人間的成長につながります。
 あぁ……俺もオフ会とかしてみたい。

 ……ま、まぁ雑談もこの辺にしておいて、一応頑張って書いたので読んでみて下さい。
 ちなみに私、タイトルである線香花火に関しての知識がうろ覚えでございます(おい)。
 何分花火なんてもの、ここ六、七年やってないもので、忘れかけています(マジです)。
 いやー、やりたい、花火。
 それではどうぞ~♪






 ぱちぱちぱち。
 八月の夜の静寂の中に、そんな音が聞こえてくる。
 広大な土地の中の一角から、静かに、ひっそりと、小さな火花の音が聞こえてくる。




『線香花火』



 花火をしようか、とはハヤテの提案だった。
 仕事から帰宅したかと思えばその手にはファミリー用の花火をぶら下げ、アイカがどうしたの、と聞けば、お嬢様から頂いたとハヤテは答えた。
 なんでも、三千院家傘下の会社から送られてきたのだという。

「花火なんて久しぶりなんだけれど……綺麗ね」
「そうだね。なんだかこの花火を見てると、凄く落ち着くんだ」

 アイカもヒナギクもハヤテの提案に断るはずもなく、早めの夕食を済ませた後に、三千院家の庭を借りて花火をすることにした。
 三千院家の傘下というだけあって、花火の種類はかなり豊富であった。
 飽きさせることのないように、をコンセプトに作ったというだけあって、確かに飽きることはなかったし、アイカのテンションも下がることはなかった(何をしでかすか心配ではあったのだが)。
 しかし子一時間ほどもすると、流石の花火も少なくなっていく。

 綾崎家が最後に残した花火は、線香花火だった。
 定番といえば定番であるが、やはりこの花火を残しておくのが正解だと思うのは、何故だろうか。


 細長い花火の先端に火をつけ、小さな火球が燃えるのをただ、見つめる。

 ぱちぱちぱち。

 静寂の中に響くその小さな音に、騒がしかったアイカもいつの間にか聞き入っている。


「この静かに燃えている音が、何だか切なくて、優しい感じがして、僕は好きだな」
「私も」

 ハヤテの言葉に、ヒナギクも頷いた。

「それで火球が落ちそうになると、頑張れ、頑張れって思っちゃうのよね」
「はは。わかるわかる」

 夫婦の会話の間も、小さな火球は燃え続けている。
 小さな命を一生懸命燃やすかのように。

「あ……」

 優しい気持ちでその火花を眺めていると、やや離れたところからアイカのそんな声が聞こえてきた。
 そちらへ視線を向けると、アイカの火球は今にも落ちそうなくらいに膨らみ、比例して火花も激しくなっていた。
 線香花火特有の現象である。

「もうすぐ終わるね、あの花火」
「ええ……」

 返ってきた相槌に、ハヤテはヒナギクのほうをちら、と見た。
 ヒナギクの視線は、アイカと、アイカの花火から離れない。

 ぱちぱちぱち。

 段々と光を失っていく火球。
 やがてそれは小さくなり、音も立てずに地面へと落ちた。

「………」

 光を失った自分の花火を見て、アイカは少しの沈黙の後、立ち上がった。
 花火を水の溜まったバケツに放り、そしてハヤテとヒナギクの元へと歩いてくる。

「………」

 ハヤテとヒナギクの間に挟まれるようにしてしゃがみこみ、まだ燃えている二人の線香花火をじっと見つめた。

「どうしたの?アイカ」
「花火ならまだあるけれど?」
「ううん、いい」

 二人の提案に短くそう答え、特に何をする、というわけでもなく、二人の花火をただ見つめる。
 そんな娘にハヤテは眼をやる。
 花火を見つめる横顔は、先ほど見たヒナギクによく似ていた。

「この花火ってさ」

 この子は何を思っているのだろうか、そんなことをハヤテが考えていると、アイカが口を開いた。

「見てると、凄く切ない気持ちになったんだ。燃えているときは凄く綺麗だなって思ってたんだけど、火の玉が落ちちゃった後は凄く寂しい気持ちになったの」
「うん。それで?」
「寂しくなっちゃった」

 ハヤテの問いに、アイカが苦笑を浮かべながら答えた。

「だからパパとママのところに来たの」
「そっか」
「うん、そうなんだ」
「ふーん。アイカって結構、寂しがりやなのねぇ……」
「な、何よママ?何か言いたいことでもあるの?」
「別に~~」

 自分とハヤテの間でもじもじするアイカ。
 気恥ずかしいのだろう、その顔は少し赤い。
 そんなアイカに、ヒナギクは、

「寂しいならもっと近くに来なさいと言いたかっただけよ」

 アイカを抱き寄せながら、言う。

「ほら。一緒に花火やりましょ?線香花火を見てるだけなんて、楽しくないわよ」
「………いらないって言ったのに」
「あら?じゃあやっぱりいらないのかしら?」
「…………いる」
「ん。素直でよろしい♪」

 再びアイカの手には、線香花火が握られた。
 ヒナギクが火を点し、細身の柄の先から光が発せられ始める。

 小さな火の花が、三つになった。
 寄り添うように輝く光。

「ねぇパパ、ママ」

 その光を見つめながら、アイカが呟くように言った。


「花火って、いいものなんだね」


 その言葉に答える声はない。
 けれど、アイカを抱き寄せる腕に力が込められたのは、きっと両親の賛同の証だった。



 静寂な夜。星空の下で。
 家族三人寄り添って、線香花火を見つめながら。
 ぱちぱちぱち、と燃える三つの火の玉。


 綾崎家の今年の夏の終わりは、線香花火の光に照らされながら、静かに、ゆっくりと過ぎていくのであった。



End

拍手[0回]

どうも深夜更新に定評のある関ヶ原です。
ようやく最後のお題が完成したのでUPしにきました。
今回はハヤヒナ攻めではなく、ナギ×一樹で。
前のサイトを御覧になってくれていた方にはわかりますが、ヒナギクと結婚したハヤテに変わり、ナギの執事になったのはハムスターブラザー、西沢一樹、というのが『あやさきけ』における設定なので、ご了承ください。ちなみに二人は恋人同士なんですよー♪
これらのことを踏まえた上でお読みください。ではどうぞ~♪




 写真とは、思い出を形付けるものであると思う。
 カメラのフレームの中に思い出を詰め込み、現像することでその思い出を永遠に残す。
 いつかそれを見て、互いに懐かしみ笑いあえたらなんて素晴らしいのだろうか。
 きっと私はそれが見たいから、シャッターを切るのだ。




『アルバムの中に』




 それは、五月も下旬を迎える日のことだった。

「お」

 やることもなく、DVDでも見ようか、と思った私がラックを漁っていると、一冊のアルバムが出てきた。

「これは……」

 古ぼけたアルバムは、少し埃が被っていた。どうやら長い間放置されていたらしい。

「それは何ですか?お嬢様」

 私がアルバムを手にしたままでいたところに、執事である一樹がやってきた。
 一樹は私の背後から覗き込むような形で私の持つそれをみる。

「アルバム…ですか?」
「あぁ」
「誰の?」
「ここにあるということは…、私のなのだろうよ」

 一樹にそう答えると、私はアルバムに手を掛け、ページを捲った。
 私の、と答えてはみたものの、自信はなかった。
 というよりも、私が一冊のアルバムが出来上がるほどに写真を撮っていたのかどうかすら怪しい。
 最初のページを開くと、マリアの写真が出てきた。飼い猫のシラヌイを抱きながら、見事なカメラ目線。

「これは…マリアさんですね」
「あぁ、マリアだな」
「……物凄くいい顔してますよ、このマリアさん」
「思い出したよ、一樹。確かにこのアルバムは私のだ。この写真も私が撮った」

 数年前の日付がされたこの写真には見覚えがある。カメラを手にした私がハヤテとともに撮った一枚だ。

「お嬢様が?……漫画やゲームの他にこんな趣味があったとは」
「別に趣味じゃないが…」

 私の言葉に「へぇ…」と意外な顔をした一樹をジト目で睨む。別に趣味なんかではないが、漫画やゲーム以外に趣味がない、なんてことを思われるのは面白くない。

「何だ?私が写真を撮るのがそんなに以外か?」
「いや、そうではないですが…。それよりも、他の写真も見てみましょうよ」
「ふん。…まあいい」

 私の声色が変わったことに焦ったのだろう、一樹は逃げるかのように話題を転換してきた。

 それからの写真は、マリアの時と似たようなものばかりだった。
 ワタルや咲夜、伊澄たちとの写真や、ハムスターたちを写したものが続いた。
 それらの写真を見るたびに、私の心に懐かしさが広がる。

「うわぁ…、みんな小さい」

 一樹も傍らで、私とは違う懐かしさを感じているようだった。もっとも、この頃は私と一樹は今のように一緒にはいなかったのだから仕方がなかったのだが。

「あ…」
「これは…」

 アルバムのページが半分くらいに差し掛かったころだろうか、私と一樹の視線が、一枚の写真に止まった。
 その写真は、屋敷の前で撮られたもの。私とハヤテとマリアの三人が並んでフレームに納まっていた。

「屋敷の前で、三人で撮ったものだ」

 こうして見ると、なんというか…本当の家族のように思える、そんな一枚だった。
 この写真を見ている私の表情はどうなっていたのだろうか、その写真と私を見た一樹が、ふと言葉を発す。

「こうして見ると、本当の家族みたいですね」
「え?」

 思わず一樹の方を見ると、一樹は優しく微笑んでいた。

「この写真のお嬢様、本当に幸せそうですから」

 そう言われて、再び写真に目を移す。
 マリアとハヤテの間に挟まれた少女は、笑顔を満面に浮かべてピースサインをしていた。

「………確かに、幸せそうだ」
「はい、とっても」

 私の言葉に一樹は頷き、言う。

「なんか、写真に嫉妬してしまいそうですよ」
「はは」

 その言葉に思わず笑ってしまった。

「む。笑うことないじゃないですか」
「だってお前…写真に嫉妬って…」
「だってお嬢様が俺と写真撮ったことなんて、考えてみれば一度もなかったし…」
「そういえば…そうだったか?」

 むっとした、というか拗ねた様子の一樹に言われ、私は「ふむ」と考えてみる。
 そういえばこの後、私は何回カメラを触ったか。たぶん、数えるくらいしか写真を撮っていないだろう。
 でなければこのアルバムの存在を忘れているはずがないのだから。


「なら、撮ろうか」
「へ?」

 私の言葉に一樹はそんな間抜けた声を出した。

「撮るって…?」
「写真だよ。お前と一枚も撮ってないんだろ?」
「そ、そりゃそうですけど、カメラは?」
「そんな物いくらでも用意できるよ。何年私の執事をしてるんだ、お前は」

 いきなり言われたからか、あたふたする一樹は見ていて面白い。

「とにかく!撮ろう、一樹。二人でな」
「は、はい!!」

 私が一樹に笑いかけると、一樹も笑い返してくれた。
 それがこそばゆく、しかし嬉しい。

「どこで撮りましょうか?」
「撮るのは一枚だけじゃないんだから、色々な場所で。それから一樹」
「はい?」

 その気持ちを隠し、遠足に行く前の子供のようにはしゃぐ一樹に、私は一つ言っておく。

「執事服じゃなくて私服で撮るぞ」
「え?何でですか?」
「何でも!わかったら早く着替えてこい!!」

 聞き返された質問には答えず、一樹は「わかりました!」と慌てて部屋を出て行った。
 その後ろ姿を見送り終え、私は一つ息をついた。

「全く…。執事とお嬢様以前に、私たちは恋人同士なんだぞ」

 誰もいない空間に、小さく呟かれた私の声が響く。

「だったら恋人らしい写真がほしいじゃないか」

 ハヤテやマリアと撮った写真は仲の良い家族のような一枚だった。
 だからこそ、一樹との写真は『仲の良い夫婦』みたいに写りたい。

「着替えてきました!!」
「よし!じゃあ行くぞ」
「はい!!」
「それから一樹」

 傍らで笑う大好きな人と。

「はい?どうしましたか、お嬢様」
「私はお嬢様じゃなくて『ナギ』だ。何度言えばわかるんだよ。あと二人きりの時は敬語禁止」

 幸せに溢れる夫婦のように。

「あ…。すいませ…ごめん。じゃあ行こうか、ナギ」
「……ふん」

 でもそんな事、一樹には恥ずかしすぎて言えるわけがないのは重々承知しているから、と私は一樹に差し出された手を握りながら苦笑する。

「ちゃんと良い写真を撮ってやるからな」
「期待してるよ」

 だからその言葉は閉まっておこうと思う。


 二人の写真が納まる、このアルバムの中に。


End

拍手[1回]

カウンター
プロフィール
HN:
関ヶ原
HP:
自己紹介:
ハヤヒナ小説とかイラスト書いてます。
皆様の暇つぶし程度の文章が今後も書ければいいなぁ。

リンクをご希望の際は以下のバナーをご利用ください。

最新コメント
[01/31 真司]
[08/07 タマ]
[06/16 がじぇる]
[03/28 イクサ]
[12/25 真司]
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]