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関ヶ原の書いた二次小説を淡々と載せていくブログです。 過度な期待はしないでください。
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どうも皆様お久しぶり、関ヶ原です。
最近はバイトに大学に大忙しと、ペンをとる暇がなかったです。
ゴールデンウィーク、バイト先が客で混み合うのを想像するだけでぞっとしています。

GWが終わったら俺、同人誌だすんだ………。


そんな死亡フラグすら立てる勢いです。


でも生きて帰りますよ。


やりたいことは山積みなんですもん。


そんなわけで更新がえらく遅くなるかも知れませんが、皆様これからもお付き合いお願いします。


それでは新作、短いですがどうぞ。



タイトルは『かんしゅん』と読みます。

実際にはそんな言葉ないかもわかりませんが。



それではどうぞ~☆







 今年の春は例年と比べて気温が低い。
 その事はテレビのニュースでも言っていたし、彼女と歩く街中を見ても分かる。

 四月も下旬、四季が春から夏へと引越しの準備を始めてもおかしくない時期だ。にも拘わらず、ホッカイロや手袋といった防寒グッズが大々的に売られている光景には違和感を抱かずにはいられない。

 この時期にこんな物が売られる理由など限られている。


 冬物処分か、まだ需要があるから売っている、このどちらかだ。

 そして、今僕の肌にあたる風の冷たさから、理由は後者なのだと嫌でも分かってしまうのだった。





『寒春』





「―――寒い」

 僕と同じ、春の陽気ならぬ寒気を浴びたヒナギクさんが、小さな身震いをしながら呟いた。

「寒いわ、ハヤテ君」
「僕も寒いです」

 彼女の言葉には僕も苦笑いで答えるしかない。
 僕の傍らで不満げな表情を浮かべる彼女の気持ちが分かるから。

「せっかく久しぶりに出掛けるのに……」
「こうも寒いと、出掛けている気がしませんよね」

 白皇学院の入学式も無事に終わり、ヒナギクさんが大量の書類仕事から解放されたのはつい先日のこと。

 そんな彼女と久しぶりの外出は、見る機会を逃していた桜を見に、近くの公園に行く予定だ。

「う~……桜、散ってなきゃ良いけど……」
「大丈夫だとは思うのですけれど……」

 この寒さにこの風だ。
 公園の桜が散っている可能性もゼロではない。

 歩いては吹き付ける寒風に、思わず視線が下がる。

 本当に散っていたりして、と一抹の不安も覚えた。

「(………あ)」

 寒さと小さな不安から逃げるかのように逸らした僕の視覚に、白細長い彼女の指が映った。

 手袋もなく、寒気に晒されたままの彼女の両手。


「―――あ」

 ヒナギクさんが小さく声を上げる。
 彼女の手を見た瞬間に、僕の右手は動いていた。

 いや、本来なら始めからこうするべきだった。

「………手、こんなに冷たいじゃないですか」

 彼女の手は、この寒気に負けないくらいに冷たかった。
 右手越しに伝わる冷たさに、申し訳ない気持ちで一杯になる。

「すいません……」

 頭を下げる僕に、彼女は笑みを浮かべた。

「気にしなくていいのよ。だってちゃんと気づいてくれたもの」

 鈍々のハヤテ君にしては上出来よ、そう言うヒナギクさんは、僕の体温で熱が戻ってきている左手を少し強引に前に差し出した。


「それより早く行きましょ? 桜が全部散っちゃう前に」


 優しげな笑みでそう言われ、僕の顔も自然と綻ぶ。


「………そうですね。花見が枝見になっては、堪ったものじゃないですし」
「あはは。何それ」


 ヒナギクさんに手を引かれる形で、僕たちは公園へ向ける足を早めた。


 冬の寒さを引きずるような四月の下旬。

 それでも繋がれた二人の手は、本来の春の陽気に包まれているかのように暖かかった。




End

拍手[10回]

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どうも皆様、関ヶ原です。
はじめに、我らがヒナギク嬢、誕生日おめでとうございます。

いつまでもその慎ましい胸でいてくださ(ry

冗談はさておき、今回の小説は勿論ヒナギク嬢誕生日記念です。
ぶっちゃけかなり悩みました。
小説書きながら三日間悩みました。

どういう文章がいいのか、悩みに悩んだ結果がこれだよ!

この小説に対する批判等は受け付けません。
もう締め切りました。

求めるのはヒナギク嬢への祝辞のみ!

ハッピーバースデーヒナギク!

プレゼントがこんな拙文でゴメンよ!

もっと精進するよ!

おっと、そろそろバイトの時間じゃないか。

それでは急ぐ形になってしまいましたが、どうぞ~☆





「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、ハヤテ君」

 慎ましいホールケーキに、小さな蝋燭が数本。
 夜の生徒会室は薄暗闇に包まれ、その数本の炎と月の光だけがその場の二人を照らしている。

 春の足音が聞こえてくる今日、三月三日。
 生徒会室の主はこの日、その生命が誕生した日を迎えた。



『喧騒と優しさに包まれながら』


 僅かな明かりに包まれながら、桂ヒナギクは静かに蝋燭の日を消した。
 自分たちを間近で照らしていた存在は消え、月の光だけが二人に照りつぐ。
ヒナギクが蝋燭を消したのを見届け、ヒナギクの傍らに座っていた綾崎ハヤテが、再度祝いの言葉を言った。

「改めて、お誕生日おめでとうございます」
「改めて、ありがとう」

 ハヤテの言葉に、ヒナギクは笑顔で答える。

「こうして誕生日をハヤテ君と迎えられるなんて、本当、嬉しい」
「僕もです」

 ヒナギクが肩を寄せてきたので、ハヤテも同じようにヒナギクの細肩に肩を寄せた。
 肩が触れ合い、ヒナギクの体温がハヤテに伝わってくる。

「ヒナギクさん、暖かいです」
「ふふ。ハヤテ君こそ、とっても暖かいじゃない」
「そうですか?」
「そうよ」

 二人して可笑しそうにくすくすと笑いながら、互いの体温をその身でしっかりと感じ取る。

 そのまま静かに目を閉じれば、ひな祭り祭りの喧騒が耳に届いてきた。
 祭りの熱気も、まだまだ冷める様子はない。

「こうしていると思い出しますね」

 祭りの喧騒を静かに聴きながら、ハヤテが呟く。

「初めてヒナギクさんの誕生日を祝ったときも、こうして二人で生徒会室にいたじゃないですか」
「あの時はハヤテ君が大遅刻したのよね、確か」

 ヒナギクの言葉に、ハヤテが「う…」と喉が詰まったような声を出した。
 当時の事を思い出したようだ。

「……あの時は本当にすみませんでした」
「ふふ……。今回はちゃんといるんだから、許してあげる」

 そんなハヤテを可笑しそうに笑いながら、ヒナギクはハヤテの身体に腕を回した。

「だから、今日はずっと一緒なんだから!」

 ハヤテの腕に頬を寄せるヒナギクはまるで猫のようだ。
 その姿を愛しく思いながら、ハヤテもヒナギクと同じように、ヒナギクの身体に己の腕を回した。

「そうですね、ずっと一緒にいましょう」

 耳元にそっと呟くと、ヒナギクは嬉しそうに、くすぐったそうに笑う。
 夜更け、というにはまだ時間がある。
 あと数時間は二人きりでいられる。

「……ねぇハヤテ君」
「はい?」
「プレゼント、頂戴?」
「……喜んで」


 名前を呼ばれ、振り向いたハヤテの眼前には、ヒナギクの唇があった。
 その唇にハヤテは自分の唇を重ねた。


 再び、祭りの喧騒のみが聞こえてくる。


「……今だけはちょっとロマンチックじゃなかったかな」


 いい雰囲気を台無しにされた気分だわ、と呟くヒナギクだったが、


「でも、こんな誕生日の夜も悪くないわ」

 静かな夜で祝う誕生日も良いけれど、こんな誕生日も良いのかもしれない。
 生徒会室のテラスから聞こえる生徒たちの声に、ヒナギクは目を細める。

「何だか、皆が私を祝ってくれているみたい」
「それは間違いではないと思いますよ」

 そんなヒナギクに相槌を打ちながら、「でも、」とハヤテは言葉を紡いだ。

「ヒナギクさんを祝う気持ちが一番強いのは僕だと思いますけどね」
「クスッ……何よそれ」
「事実ですから」
「本当、ハヤテ君はバカなんだから」

 ハヤテの言葉に、ヒナギクは照れくさそうに笑う。
 照れくさそうに笑いながら、ヒナギクはハヤテは二度目のキスをハヤテに強請る。

「……だったら、もっとプレゼントを頂戴?」
「喜んで」

 ハヤテの言葉に嬉しそうにヒナギクは微笑むと、静かに目を閉じてハヤテの唇を待つ。

「お誕生日おめでとうございます、ヒナギクさん」
「……ん」

 二度目のキスをした時、再び耳には祭りの喧騒が入る。
 しかしそんな喧騒すら、自分を祝福するバースデーコールのように思えて、もっとこの時が続けばいいとヒナギクは思う。

 生徒たちの楽しい宴も、恋人たちの優しい宴も。

 溢れる喧騒と静けさ、矛盾する二つの優しさの中にその身を預けながら、


「………ありがとう」


この綺麗な月明かりの下で、負けないぐらいに美しい笑顔を、ヒナギクは浮かべたのだった。




End

拍手[6回]

どうも皆様、関ヶ原です。
最近裏表ラバーズに一人はまってるこのサイトのアホな管理人です。

デュラララ面白いよ、デュラララ。

さて、数日前から覚悟していた今週のハヤテ、読みました。
無事生還できて嬉しく思います。
内容はまぁあまり言わないでおきますが、俺的には余りダメージないです、ハイ。
むしろほほえましいというかなんというか……(二次元だけど)リア充○ね!という感じです。

ハヤテ嫌いになるとか、そんなことは頭の片隅にも浮かんできませんでしたが、もうぶっちゃけます。
懺悔します。


アテネのアホ毛に萌えてしまいました。


私の拙文スキーなハヤヒナ読者の皆様、スイマセン。
どうやら私はアホ毛好きだったようです。

あ、誤解のないように言いますが、別にハヤヒナからハヤアテに目覚めたというわけではありません。

アホ毛に目覚めただけでございます。

そういえば前兆はありました……。

棒種な運命でも、月の女神(※都合により名前は伏せさせていただきます)が好きだったり、友達の書くオリジナル小説でもアホ毛キャラに内心ときめいていたり……(そのキャラに主人公は理不尽な暴力を受けるわけですが)。

まさかアテネのアホ毛があれほど萌えるものだったとは、一生の不覚。


反省としてハヤヒナの妄想の旅に出かけようかなぁと思っていたり。
以下の文章は今週の話を見て即興で作った短文です。
雑でスイマセン><


タイトルは皆様予想が付くでしょう、『アホ毛』



「あれ? ヒナギクさん」
「え?」

 もはや当たり前となってしまった、放課後のハヤテ君との共同作業。
 書類の山と格闘していた私にハヤテ君の声が掛けられたのは、その作業も半ばにさしかかった時だった。

「ここ、毛が」
「へ?」

 隣で仕事をしていたハヤテ君の細白い指が、私の髪に触れる。

「ひゃ…」

 突然の行動とこそばゆさに思わず声が出てしまうが、ハヤテ君は気にした様子もなく、

「アホ毛、出てますよ」

 旋毛辺りの髪を抓みながら、言った。




「……アホ毛?」
「はい」

 ハヤテ君の言葉に一瞬戸惑うが、その意味を理解して思わず頬が熱くなった。

「――――っ」
「あっ」

 恥ずかしさで毛を掴んでいたハヤテ君の手を払う。
 私だって女の子、一応身嗜みには気を使う。

「……痛いですよ」
「わ、悪かったわよ」

 残念そうにこちらを見つめるハヤテ君の視線を受けながらも、手鏡で旋毛辺りを反射させると、確かに細くまとまった一束の毛がぴょんと飛び出していた。

「(うわ~~~!!)」

 さらに頬が熱くなる。
 手を被せても、バネのように再び起き上がってくる。
 不幸なことに、今日は櫛を持ってきていなかった。

「な、直れこのっ!」

 無駄だと分かりつつも手櫛で梳いてはみるが、やはり効果はない。
 美希たちならともかく、ハヤテ君に見られるなんて……っ!

 好きな人に見られた、というのが私の羞恥心の大半を占めていた。

「はぁ……」

 こうなってしまってはもうドライヤーを使うしかないだろう。
 アホ毛をそのままにして、私は深くため息を吐く。
 髪の毛一本で落ち込む私は、十分女の子だろう、と内心皮肉言いながら。

「あの……」

 そんな私に、ハヤテ君が恐る恐る声をかけてきた。
 ハヤテ君の方へ顔を向けた私に、彼は言う。

「アホ毛って……そんなに嫌なものなんですか?」
「え?」

 その表情はどこか困ったよう。

「どういう…?」
「いやあの、その……僕はヒナギクさんのアホ毛、可愛いと思ってしまったものですから」
「へ?」

 その困り顔で言われた私は、もっと困り顔。

「可愛いって…アホ毛が?」
「いや、ヒナギクさんのアホ毛が」
「? ?」

 ヤバい、どういう反応をすればいいのだろう私は。
 返答に困っていると、ハヤテ君が言葉を続ける。

「ヒナギクさんのアホ毛が可愛いなぁ―――って見てたら、ヒナギクさん凄くアホ毛気にしてたじゃないですか」
「それはまぁ……一応女の子だし」
「だからヒナギクさんのアホ毛を可愛いと思ったこと、なんか申し訳ない気がして」

 あぁ、なるほど。だから困ったような表情を浮かべていたのか。

「別にいいわよ」
「え?」

 そういうことなら、気にすることもないか。

「だってハヤテ君、私のこのアホ毛を可愛いと思ってくれたんでしょ?」
「はい」

 頷く彼を見て、私の羞恥心はなくなった。
 元々好きな人の視線を気にしてちょっとブルーになっていたのだから。
 その好きな人がこのアホ毛を好いてくれるなら、気にする心配がどこにあるのか。

「ねぇハヤテ君」
「はい、何でしょう」
「さっきみたいに……その、してくれる?」
「へ?」

 先ほどとは意味合いの違う困り顔を浮かべるハヤテ君に、「ん」といって私は頭を差し出す。
 ちょうどアホ毛がある、旋毛辺りを。

「頭、撫でて?」
「――――あぁ、そういうことですか」

 私の言葉にハヤテ君はようやく意味を理解してくれたらしい。
 「喜んで」という言葉とともに私の髪を梳き始める、愛しい彼の指。

「ご気分は如何ですか? お嬢様」
「凄く幸せ♪」

 その指の動きを心地良いと感じながら、私は身体を預けるように、ハヤテ君へと寄りかかった。

「暫くこうしてもらってもいい?」
「お気に召すままに」


 好きな人が喜んでくれるならアホ毛も悪くないな。

 そんなことを思った、幸せな放課後の一時だった。



End

拍手[10回]

どうも関ヶ原です。
新作ちゃんとできましたー^^
今回は時期が遅くなりましたがバレンタインの話。
前回、何故か野郎のバレンタイン話を書いてしまったので、今回はちゃんとハヤヒナです。
まぁ相変わらず拙文ですが……。
文章的にこれは甘甘になるのでしょうか?
途中から趣旨が変わってきているような、そうでないような……。
こういう小説を書くのは久しぶりなので、感覚がマヒしているようです。
どうやったら文章がうまくなるのでしょう?
書くしかないんですよね、わかってます!

これからも俺の拙文にお付き合いしていただけると嬉しく思います。


では~☆





 二月十四日といえば、世間ではバレンタインデーと呼ばれる日である。
 想い人にチョコレートを渡す、という女の子にとって大切なイベントであるが、実際、二月十四日が示す元々の意味はそのようなものではなく、269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日であるとされている。

 まぁしかし今更そんなことを説いたところで、チョコレートを渡すというイベントがなくなるはずもなく。



 白皇学院の時計塔では、そんな屁理屈に見せ付けるかのごとく、チョコレートのように甘い時間を過ごしている者たちがいたのだった。




『チョコレート・デイ』




 白皇学院の時計塔の最上階に位置するのは、学院の生徒なら誰でも知っている生徒会室。
 その生徒会室の扉は内側から鍵が掛けられ、誰も入ることが出来なくなっていた。

 その室内から。

「はい、ハヤテ君。あ~ん♪」
「あ~ん」

 甘ったるい声が、これまた甘ったるい空気に乗って、耳に入ってきた。

「……どう、かな?」
「………凄く、美味しいです」
「良かった♪」

 中を覗けば、空色と桜色が寄り添って何やら行っている。
 桜色の髪の少女が、空色の髪の少年の口に何かを運んでいるようだ。
 口に入れたものを味わいながら胃に収め、少年は少女に微笑んだ。
 少年の笑顔に、少女も笑顔で答えた。
 満開の桜のように、美しく華やかな笑顔だった。

「毎年、本当に緊張するんだから」
「緊張することなんてありませんって毎年僕言ってますよね? ヒナギクさんのくれるチョコレートが美味しくないわけないんですって」
「ハヤテ君……」

 まぁ、随分と遠まわしな表現というか言い方をしてしまったが、この二人は綾崎ハヤテと桂ヒナギク。
 毎度お馴染み、白皇学院No.1と称される、バカップルであった。

 バレンタインである今日は生徒会の仕事を早めに終え、普段は仕事をしている時間を二人の時間へすることに決めていた。
 だから美希たちが来ることはないし、愛歌や千桜が入ってくることはない。
 こういう言い方は何だが、邪魔するものはいない、恋人同士の二人きりの時間だった。

「でも毎年申し訳ないです。僕ばかりがチョコレートを貰ってしまって……」

 ヒナギクからチョコレートを口に運んでもらいながら、ハヤテが申し訳なさそうに目を伏せる。

「僕もチョコレートを作ってくるべきでしたね」

 そんなハヤテに、ヒナギクは「そんな!」とハヤテの頬に両手を添えながら、言う。

「ハヤテ君が作るチョコって私が作るものよりずっと美味しいんだもの。私の立つ瀬がなくなるわ!」
「そんなことないですよ。ヒナギクさんが作ったチョコのほうがずっと、高級なチョコレートよりも遥かにずっと美味しいです!」
「そんな……。それにハヤテ君、ホワイトデーにちゃんとお返ししてくれるじゃない」
「それは、そうですけど」
「私はそれだけで充分幸せな気分になれるんだもん。せめてバレンタインくらいは、私からハヤテ君へあげたいのよ」

 だからいいの、とヒナギクはハヤテの腕に自分の腕を絡めた。

「それにこうしてハヤテ君にチョコレートを食べさせられるし」
「……はは。甘えんぼさんですねヒナギクさんは」
「誰のせいだと思ってるのよ?」
「……僕のせいなんですか?」

 身体をくっつけてくるヒナギクを、ハヤテはぎゅっと抱きしめる。
 腕の中に感じる彼女からは、甘いチョコレートの香りがした。

「ヒナギクさん、チョコレートの匂いがします」
「え? 本当?」
「はい。凄く甘くて……ヒナギクさんらしいなぁと思いますよ」

 笑いながらハヤテが言うと、ヒナギクの表情が微かに曇った。

「……なんかそれだと、私が甘いものばかり食べてる風に聞こえるわ」
「あはは。別に、そんな風には言ってないですよ」
「それは分かるんだけど……」

 むー、と頬を膨らませるヒナギクを可愛いなぁ、と思いながら、「それに」と言ってハヤテは言葉を付け足す。

「甘いものばかり食べているのは、僕の方ですから」
「え―――」

 それってどういう意味、と続くはずのヒナギクの言葉は、遮られた。
 言葉を紡ぐ前に、ヒナギクの唇にはハヤテの唇が重ねられていたから。

 優しく、甘く、暖かく。
 柔らかなヒナギクの唇を堪能しながら、ハヤテは静かに目を閉じる。

「………」
「………」

 放課後といえど、生徒会室に―――時計塔の最上階には、誰の声も届かない。
 二人の吐息だけが部屋の中を満たす。


「―――はぁ」
「………いきなりなんて、反則」


 どれだけの時間が経ったかなど、そんな無粋なことは二人は考えない。
 ゆっくりと名残惜しげに唇を離し、ヒナギクがジト目でハヤテを睨む。
 その視線を笑顔で受け流しながら、ハヤテは答えた。

「だってヒナギクさんがあまりにも可愛かったものでしたから、つい……」
「……………もぅ、バカ」

 その笑顔を前に、ヒナギクは何も言えなくなる。
 顔を真っ赤にして、恥ずかしさで顔を俯けるだけだ。

「本当、ヒナギクさんは可愛いですね」
「……知らないんだから」

 そんなヒナギクを愛しく思いながら、ハヤテは。

「ところでヒナギクさん、さっきの言葉の意味なんですけど」
「……何よ」
「僕はヒナギクさんっていう、物凄く甘くて美味しいものを頂いてます故、ということです」
「………本当に、バカ……」


 ハヤテはにこりと笑って、もう一度、愛しい彼女の顎を軽く持ち上げる。


「ヒナギクさん、ハッピーバレンタイン」
「――――ん」


 二度目の彼女の唇は、自分が食べたチョコレートの味がして、とても甘かった。




End

拍手[7回]

 日本から離れた地で、美しい夜景が眼前に広がる。
 貴方と美しい景色を見るのは二度目で、初めて見た時と、この胸の高鳴りは変わることはない。

「………」

 胸の高鳴りは変わることはないけれど、隣の貴方はどこか遠くを見ている。

 遠い誰かを、私以外の誰かを見ている。


 ―――そんな気がして、胸に小さな痛みが走った。



『A little pain』



 ハヤテ君との夕食会は楽しい一時だった。

本当に、楽しい一時だった。

「好きな人……か」

 そんな楽しかった夕食会の帰り道に聞いた彼の言葉が、今だ私の頭から離れない。

『彼女は僕の好きな人です』

 思えば、昨晩から……ハヤテ君が天王州さんの話を聞いたときから、彼の様子がおかしかった。
 どこへいっても上の空で、常に何かを考えていた。
 それが好きな人のことだったとは、私にも、マリアさんにも、歩にも分からなかったけれど。


「十年も想っていればそりゃああなるわよね……」


 十年、言葉では二文字だけれど、その時間は遥かに永い。
 私がハヤテ君に恋をして早二ヶ月になるが、彼はその何十、何百倍もの時間、彼女に恋をしていたのだから。

 一体彼は十年の中で、どれくらい胸の痛みを堪え続けたのだろう。

 どれだけ悩んだのだろう。

 どれだけ辛い日々を送ったのだろう。

 彼の永い苦しみを、私は理解出来ない。
 理解するには私はまだ小娘だった。

「………ハヤテ君」

 理解出来なかったから、小娘だったから、一人の女性を想う彼の背中を押すことしか出来なかった。

 今頃彼は天王州さんに会いに行っているだろう。
 十年ぶりに再会した彼らは、どんな話をしているのだろうか。

「……わからないなぁ」

 それすらも分からなくて、深夜の部屋で一人自嘲気味に笑う。
 ホテルのプールは私一人が使うには大きすぎた。

「あぁもう、寂しいな」

 あの時彼の背中を押さなかったら、ハヤテ君は私と一緒にいてくれただろうか。
 この広いプールに二人きりでいてくれただろうか。

 今更考えたところで後の祭りだというのは分かっているけれども、どうしてもそんなことを考えてしまう。

 天井の窓から差し込む月の光が、揺れる水面に反射している。
 それが一層、私を孤独にさせた。


「―――あぁそうか、分かった」


 そこで、ようやく分かった。
 彼の気持ちとか、彼女の気持ちとか、彼、彼女の苦しみだとか、そんなことはどうでも良かったのだ、私は。


 ―――私はただ。



「ハヤテ君に傍に居てもらいたかったんだ」



 想いを伝えずとも、彼の傍で、彼を感じられればそれだけで。

 ようやく一つのことが理解出来て、心が少し軽くなったような気がした。



 ―――それでも胸の小さな痛みは、消えることはなかったけれども。



End

拍手[19回]

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関ヶ原
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自己紹介:
ハヤヒナ小説とかイラスト書いてます。
皆様の暇つぶし程度の文章が今後も書ければいいなぁ。

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